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第190話 「はぁぁ、イモコロリ~」エクソシスト・ジャガー農家。戦場で呪いを祓う?



救護所となっている領内の教会。


そこでは、傷ついた兵士たちを癒し、時には見送ったりもしていた。


多くのプリーストや医師が集められ、対応に追われている。


ここは、「もう一つの戦場」であった。


誰もが慌ただしく動く中、そこには「コレット」の姿もある。


彼女は「王家の血を引く遺児」と紹介された。


そうでもしなければ受け入れられなかったからだ。


反発も幾分かはあった。


だが、すぐに彼女の「行動」がその場の皆の意識を変えた。


十代前半にして「法術」が使える。いわゆる「癒しの魔術」だ。


そして、医学の知識があり、対応もできる。


そこには、一切の怯みも怯えもなかった。


「そちらの人は、こっちの赤シートに寝かせてください。すぐに『回復法術ヒール』をかけます」


「そちらの人は……ごめんなさい。黒い布の部屋へ」


そう言ってトリアージもこなす。


「もしよろしければ、私が『祈り』を」


気丈に振舞うその姿に、反目している者も意識を変えた。


『今救うべきは?我々は何をすべきか?』


それが共通の意識だったからだ。


十代前半の女の子の振る舞いが、いつまでも反目している者の矮小さを露呈させる。


もう、「見向きされなかったコレット」はいなかった。


彼女が様々な症例の対応をこなしていた時だった。


「コレット様!」


1人が駆け込んでくる。


兵士の装備をしていた。


「どうしました!?急患ですか?」


コレットは素早く問いかける。


「いいえ」


「では、後にしてください」


「でも、『ハルくん』が」


その言葉にコレットは手を止めた。


「ハルが……」


「はい。ハルくんが大変なのです」


その言葉にコレットの体が震え出した。


(え?ハル……なにが)


最悪の事態を想定した。


彼は、街の壁を攻撃してる「魔術兵」の対応に向かっていたはずだ。


もしかしたら――――


「ハルくんが連れ去られました」


「っ!?」


最悪の事態ではない。


けれど、良くはない。


「一体、誰に?」


コレットの言葉に兵士が答える。


「エリーゼ様です」


「はぁ?」


意外な回答。


「ものすんごい形相で連れて行かれました」


その言葉を受けてコレットは考える。


(きっと、何かあったんだ。「ハル」じゃないと対応できない何か)


コレットがプリーストとたちを振り返る。


みんな懸命に救おうと頑張っている。


自分だけ、勝手が許されるはずがない。


けれども、今すぐ「ハル」のところへ行きたい。


その気持ちが伝わったのか、1人の「医師」が声をかけてくる。


「いってらっしゃい。コレット様」


少し年のいった白髪頭。


「そうですよ!」


「子供が何を遠慮しているんです」


周囲のプリースト達も口々に言い出す。

もちろん、手は止めない。


「で、でも……」


躊躇うコレット。


「『彼氏くん』助けなきゃ!」


その言葉にコレットは瞠目した。


「え?ええ?」


「彼氏のピンチに向かわないなんてっ、女が廃りますよ!」


なおも言うプリーストたち。


「ちちちちち、違います!ハルとはそんな……」


『じゃあ、なおさら!』


その場の全員が口をそろえて言う。


「これで、『嫁』レースッ、一歩リード!」


「女を上げるチャンス!」


「もう、抱き着くなり『ちゅ~』するなり、勢いでやっちゃいなさい!」


煽る面々。


「しません、しませんって!」


慌てるコレット。


『チキってんじゃねぇ!』


喝が入る。


「そんなんだと、誰かにとられるんだからね」


「恋愛ジャガイモやって土の中でウジウジすんなよ!」


とんでもないことまで言い出す。


『それ~、行け~、やっちまえぇ』


医療行為をしながら言うことではない。


それでもプロたちは手を止めずにコレットを励ます。


(このままじゃ、邪魔になる)


コレットは思った。


(みんなの厚意を無碍にできない)


(だって―――――)


こんな血なまぐさい場所で、命の終わりを見る場所で。


(私の『眼』に映るみんなの『心のビジョン』はこんなにきれいで優しい)


コレットはみんなに頭を下げた。


「私、ハルのところに行きたいです」


みんなは力強く頷いた。


「だから、行ってきます」


目じりに涙を溜めたコレットが顔を上げる。


『いってらっしゃい!』


力強く送り出す声。


コレットは背を向け、駆けだした。


教会の扉を出る時、後ろから声援を送られる。



『アイツの「土寄せ棒」!ガッチリ掴んじまえ』



コレットは逃げるように「加速」した。






「どぉぉぉりゃぁ!」


掛け声……って突っ込む間もなく、ハティさんが吹っ飛ぶ。


僕、ハル・ロッシェは「エリーゼさん」に無理やり連れて来られた。


それなのに、近くまで来ると、僕をほっぽってハティさんを蹴り飛ばしたんだ。


「お姉ちゃん、完全ふっかぁぁぁつ!」


力こぶを見せる。


この人は……


「ハティ、よくもおねぇちゃんの決め台詞をゲロッてくれましたわね」


エリーゼさんがゆらりと体を起こす。


「お姉ちゃん傷つきましたよぉ、いたく、深く、ね」


コハァァァと呼気を長く吐く。


「そぉれに、ずいぶんと女癖が悪くなりましたねぇ。アンジェ、ティア、エルザ、リムアンでしたか?」


「他にもいませんか?」


「姉弟ですから、ええ、姉弟ですからぁ、あなたがどうでしょうとも口出しする気はないんですがぁぁ、節度ってもんがあるでしょうよ、弟!」


中空にあるハティさんの体めがけて跳ぶ。


「再教育してやるぁぁあ」


訳の分からないことを叫びながら跳び蹴りをかます。


ハティさんの体は地面に叩きつけられた。


みんなは唖然としてそちらを見ている。


「うおおおおおおお」


遠くから声が響く。


あれ?どっかで聞いたような……


「はぁぁぁあるぅぅぁ」


声のする方を見る。


え?あれ?なんで、コレットが。


というか、速いっ、はっやぁっ!


爆走する幼女。


これで戦場突っ切ってきたの?


「とぉぉぉぅ!」


ジャンプする。


あ、こっち向かってきた。


ヤバいっ、なんか「顔が怖い」。


――――ズザザザザ


コレットがそのままヘッドスライディングをかました。


「……なんで、避けるの」


恨みがましい声で言ってくる。


「え、いや、なんか怖ったから」


グスっとコレットが鼻をすする。


ああ、なんか、すみません。


僕は手を貸してコレットを引き起こす。


コレットが僕をじっと見た。


え?顔が近づいて……


ごいいいいん


頭突きを食らわせられる。


「いったぁぁぁ!」


あまりの痛さに声を上げる。


「ふぅんだ!」


何かコレットが拗ねている。


「ああ、コレット!ちょうどよいところに来ましたね」


ああっ!なんで無抵抗のハティさんを袋叩きにしているのっ!?


しかも、エリーゼさんだけじゃない。


アンジェさん、ティアさま、リムアンまで加わっている。


酷過ぎるよぉ。


というか、ハティさんで合っているよね。


あの全身鎧の人。


「ハル!『お兄ちゃん』は今、憑りつかれている」


コレットが言う。


いつもは朽葉色の瞳が、「黄金」に輝いていた。


「『虫下し』が必要!」


え?虫?寄生虫でもいるの?なんか拾い食いしたの?あの人。


「黒い靄が……ううん、『蟲』が三匹。頭とお腹と……お股のあたりにいる」


最後の方は、コレットはやや言い淀んだ。


「ハルの『棒』で叩きださないと!」


顔を赤くしながらも、コレットが言った。


うっへぇ、かわいそうだよ。


叩けないよぉ、僕だって男だよぉ、最後の三つめの場所は特に。


「ハル!」


なおも言うコレット。


しょ、しょうがない。


まずは、僕の家に伝わる「アレ」をやろう!


「アレ」ならきっと、「蟲」の方から出てくる。





「みんな!僕が『祓う』から、離れて!」


ハルの声。


それを受けて、ハティをボコボコにしていたメンツが離れる。


もちろん、とばっちりを受けて【棒】に触れたら大参事だからだ。


全魔力が「スン」と消し飛ばされる。


〈ロッシェ……ついに、「アレ」をやるのね〉

【土寄せ棒】の「アンジェ」さんが言う。


ハルは覚悟を決めた顔で頷いた。


そして、真剣な面持ちでハティに近づく。


「アア、アアア」


ハティはアーメットの中でうめいている。


内からせり上がってくる「何か」に堪えているようだ。


(これは、やはり「疳の虫」が)


良く小さい子供は「癇癪」を起こしたりする。


それは「三つの蟲」が起こすといわれている。


そういった時、村の長老やエクソシストがやっていた「まじない」。


(きっと、精神年齢が低いから)


さらっと酷いことを考える。


ハルは【土寄せ棒】の「アンジェ」を高々と掲げた。


周囲の者は、ついに「スン」と魔術を消すのだと見守った。




「はぁぁぁあぁ~~」



ハルが変な節回しで声を上げた。


だが、変な声を上げて棒を振るうのはいつものことだ。


これも、気合の一種だろう。


「わ~るい虫さん、イモコロリ~」



―――――なぜか歌い出した。


そして【棒】を上下に動かしながらひょこひょこハティの周りをまわる。


「ア~ブラムシも、ヨウトムシぃもぉ~」


〈あ、ハァ!悪い虫ぃ〉


つま先立ちで腰を腰を振りながら歩く。


あまりのことに、全員が唖然として見守った。



(な、なんだ!?あの「呪詛」は!)


ウォルターが瞠目する。


(あのような「術式」、見たことがない)


ウォルターの見ている前で、ひょこひょこと体を揺らしながら回るハル。


「コォガネムシだって、イモコロリ~」


〈コロコロコロリン、スッコロリン!〉


何度か回った後、ハティの前まで来て止まる。



くるくるううん!



その場でくるくる回った。


(な、なにが―――)


ウォルターは固唾を飲んで見守った。


あのような奇怪な術で【テラー(這い寄る恐怖)】を破れるわけがない。


「捧げ剣」のように【棒】を構えたハル。


ついに、放たれる【棒】の一撃 ―――――――




「ひぃいいいやっはーーー!」



奇声を上げるハル。


ビクゥゥゥ!


あまりのことに皆が身を震わす。


ハルは腰のポーチ(マジックバッグ)から白い粒状の物を掴み出す。


「ひぃやっ!ひょほぅうう!」


それは「塩」だった。


これでもかというほど、ハティにぶつける。


膝をついて俯いている「全身鎧」のハティ。


妙なハイテンションで奇声を上げ「塩」を撒くハル。


ハルが塩を撒くのを止めた。


「わぁるい、『蟲』さんっ、まとめてコロリと出ておいでぇ!」


〈はぁい!出ておいでぇ!〉


今度は水筒を出し、中身を口に含む。


「ぷうううううう!」


なんと、ハルは水筒の中身をハティに吹きかけた。


(うっぅわぁ……)


その場のみんなが引いた。


(これ、絶対あとで怒られるヤツだわ)



「どうだ!」


ハルが自身に見た声で気炎を吐いた。



―――――もちろん、何も起こるはずがない。




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