第188話 救世主はロリっ子?カワイイは正義!そしてオバサンの時代は終わりを告げる?
「ハティはもはや戦えない。大人しく投降するのだ」
剣を向けるエリーゼにウォルターが語りかけた。
「おや?どうしてです」
「戦など無意味だ。まだわからないのか?先の反乱時も、今もだ」
その言葉に、エリーゼが不快感を示す。
「あなたが言いますか。これだけの戦を起こしておいて」
「あの時大人しく降っていればよかったのだ。ティアと同じようにすれば。そうすれば、あの王だけで済んだ」
「それは詭弁ですね。私がその選択ができないことぐらい承知でしょうに。そして、ハティはどうするつもりだったのです?アンジェは?ガレットは?」
「それは、後に降将として迎えるつもりであった」
その言葉に、エリーゼがすかさず返す。
「ティアを処刑しようとしたのに?」
これにはウォルターが口を閉ざした。
「嘘はよしてください」
エリーゼは続ける。
「ねぇ、ウォルター、あなた、どこまでが本当でどこまでが嘘なのですか?私たちの知っているウォルターは本当のことを言っていたのかしら?本当のあなただったの?」
無言でいるウォルターから視線をシグルドへと向ける。
「お父上のシグルド・ウォーロックさまは何もおっしゃらないのね」
「追放された身。まして罪人でもある私に口を出す権利はないよ」
「果たしてどうかしら」
エリーゼが疑惑のまなざしを向ける。
「まあ、元カレとの関係を清算するにはちょうどよい機会なのかしら」
寂しそうに笑う。
「何年も放置して音信不通、そんな甲斐性なし願い下げです」
「今からでもやり直せるだろう」
「はっ」
エリーゼが失笑を漏らす。
「これで確定しました。私の知るウォルターはそんなことをけして口にしない」
瞳に殺意が灯る。
「どこのどなたか存じませんが、覚悟はできているんでしょうね」
剣を構える。
「二人を相手にできると―――」
ウォーロック父子が剣を構えようとした。
「させてもいいですけれど、それでは私の気が収まりません」
「っ!」
剣魔術が飛んでくる。
エリーゼたち三人が跳んで避ける。
「あなたという人はっ」
「あらあらごめんなさい、気づきませんでしたわぁお姉さま」
魔術を放ったのは「エルザ」だった。
「くぉのぉ」
「嫌わないでください。悲しいです、これから家族になるというのに」
「私は認めていません!」
「ハティはいいって言ってくれてますよ?」
「くぅわぁぁぁああ」
「もう、姐さん女房なのですから。何でしたら、『お姉ちゃん』ポジションもうばっちゃおうかしら」
「させませんっ!私のアイデンティティを奪わせません!」
「うふふふふふ」
言い争う二人に向け、魔術の「雷」が放たれる。
「ずいぶんと余裕だな。魔人が堕たというのに」
ウォルターが言う。
だが、その言葉に、エリーゼとエルザが彼を見た。
『落ちた?』
ふたり同時に睨み付ける。
『ハティが負けるわけないでしょう、あなたたち程度に』
『私に見せ場をつくってくれただけです』
同じセリフを二人同時に言う。
途端にギリッと互いを睨み合う。
『フンっ』
同時にそっぽを向く。
本当に合わせ鏡のようだ。
「ウォルター、清算してあげますよ」
「ウォーロック、今までの恥辱、倍にして返して差し上げますよ」
ふたりが剣を構える。
「だいたい、私の旦那様に何してくれてんですか、クソ野郎ども」
「弟、イジメるんじゃありません」
そして、ふたりの声が重なる。
『ハティはそこで見ていなさい』
『お姉ちゃんがやっつけてあげるんだから!』
◇
ギッギギギギ――――
金属の軋む音がする。
ハティ体がゆっくりとだが動き始めた。
節々から黒い靄のような魔力が漏れ出ている。
「っ!?」
(まずいっ!)
明らかな暴走の兆しがある。
「ア―――――」
ハティが一歩、踏み出したその時だった。
「【私の炎の鎮魂歌】!」
上空から何かが落下して、爆発する。
「アンジェ?」
炎を纏った拳骨をハティに見舞ったのだ。
「ハティは私が抑えるから、アンタらはそこのバカ親子をシバキ倒しなさい」
爆炎が風に流される。
アンジェの痛撃を受けてなおハティは倒れていない。
一歩踏み出す。
そこへ――――
「ファッハッハッハァっ!」
笑い声が響く。
閃光が走った。
幾条もの光が通り、ハティの体を刻む。
数秒遅れで熱波が吹き、地面を焼いた。
「真打―――登場!」
僅か離れた場所でティアが剣を手に立っている。
「我が名はティア。ティア・シュトゥーテ・フラインっ!」
「【輝ける道標】たる我が導き――――」
「我が神速の剣を阻める者などない」
ど派手に「アンジェ」と「ティア」が現れた直後だった。
「ふふ、誰かお忘れじゃあ、あ~りませんか?」
声がする。
◇
「ふふん、忘れてもらっては困る」
悠然と現れる者がいた。
「なんで、あなたがいるのです?」
「真のヒロインは、ヒーローのピンチに現れる」
そう、ハティの「義娘」。リムアン・マクスウェルだった。
「というか、アンタ、却下されて凹んでたんじゃ……」
アンジェが尋ねる。
「それで諦めるほど物分かりがいいリムじゃない」
ウォーロック親子と交戦中のエリーゼとエルザを見る。
「フッ」
鼻で笑う。
「なんなんです?あの子」
「ティアよりヤバいですよ?」
エリーゼとエルザが言うのもものともせずにリムが言う。
「オバサンたちの時代は終わった」
『なぁっ!?』
あまりのことに「2エル(ツーエル)・コンビ」が絶句する。
「無駄に大きいもので男を落す時代は終わった」
「誰がオバサンですか!」
エリーゼの非難をリムアンはものともしない。
「時代は機能美。フラットなスタイルが『萌え』る……」
ふふふと不敵な笑みを浮かべる。
「そして、カワイイは正義!カワイイでキュン死させるのがトレンド」
それからビシッとティアを指さす。
「馬女のくせに、『妹』ポジションに居座るなっ!」
「な、なにを言っている?」
「リムはお前にできない技を持っている。そして、この奥義が発動した瞬間、ハティは『即死』を免れない」
「なに……?」
「使いたくない。使いたくなかった……でも、あんなハティを見ているくらいなら、せめて彼の尊厳を保つ……」
斧槍を旋回させて構えをとる。
「時間を稼げ、オバサンたち。リムの本気をみせてやる」
啖呵を切るリムアン。
(なんであの子、センターにいるの?)
アンジェがティアに耳打ちする。
(知らない。というより、後が怖い)
ティアは殺気立つエリーゼとエルザを見る。
「あの娘、あとで理解させる必要があるみたいですね」
「こればかりは私も同意します」
◇
夢を、夢を見ている。
どうも記憶があいまいだ。
僕は今どこにいるんだ?
母上が、死んだ。
海を渡った。
姉上と会って、アンジェと会って、姉上と仲直りができて……
気づいたら眼下に見慣れた、でも遠く昔に失ったあばら家が見える。
風が凪いでいる。とても静かだ。
夕日に染まるその景色の先に、一筋の煙が上がっているのが見える。
夕餉の支度が出来たという母の声がする。
涙がこぼれた。
この声をもう一度聞くことができるだなんて。
涙をぬぐう手は小さかった。
辛くもどこか幸せを残した時間に戻っている。
お祖父さまの使者が来るとき、僕は山に逃がされた。
乱暴狼藉を働く恐れがあるからだ。
母も守れる自信がない。
それでも、少なからず来た時だけは米や味噌といったものも手に入る。
この夕餉を知らせる声は、親子二人が堪えて、みじめで、それでもひと時だけ気を緩められることを知らせるものだ。
……あれ?
視界が暗転した。
四書五経をそらんじている。
先ほどまで何をしていた?
「こんにちは、おばさま」
そう言って銀髪の女性が入ってくる。
「姉上?」
「や、信繁。久しぶり」
そう言って笑う。
この違和感。
姉上?だよね。綺麗な着物を着て美しい。
「どうしたの、信繁。従姉の英莉お姉さんじゃない」
「あ、はい。義姉上」
「私だけじゃないわ」
そういうと恥ずかし気にしている金髪の女性が目に入る。
「あ、ティ――――」
「輝姫ちゃんでしょ?」
「て……?」
「なに、兄さま」
この言葉に胸が「きゅぅぅん」としめつけられるような甘酸っぱい感じなった。
「あっと、輝姫、よく来たね」
「ん」
照れながら髪をいじる姿が可愛らしい。
「ちょっとぉ、信繁。お姉ちゃんを忘れないでくださいね」
なんだろう、違和感しかない。
けれど、みんなが元気でいる姿がとても嬉しい。
「ちょっとぉっ!なんでアンタたちが先に来てるの!」
この声は……
「アタシのこと忘れないでよ」
勢いよく入ってきた人を見る。
黄金の髪、紅玉の瞳、幼い外見ながらも理知的な雰囲気……
しかも、き、き、着物だとぉぉぉっ
華美ではないながらも紅を基調とした着物。
髪飾りも慎ましやかで品があり……
「もう、なに?『お兄ちゃん』」
アンジェがちょっと照れたようにこちらをうかがう。
「ぐはぁぁぁっ」
僕は思わず鼻血を吹いてしまった。
◇
リムアンが手にしていた斧槍を地に突き立てる。
先ほどの斧槍の構えはなんだったのか。
とはいえ、徒手空拳で向かうつもりだ。
手を広げる。
「なにを、するつもりだ」
ウォーロック父子ですら、ただならぬ雰囲気に身構える。
――――コホォォ
リムの息吹が聞こえる。
「ハティ、私がその闇から救ってあげる。私はあなたのすべてを受け入れる」
じりじりと距離を縮めるリムアン。
「させるかっ」
ウォルターが魔術を放つが、エルザがそれを阻む。
「食らえ……これが渾身の一撃」
一足一刀の間合いまで詰めると、リムがその手を合わせる。
俯いていた顔を上げた。
『もう、「お兄ちゃん」ったら、いつまで寝ているの?お寝坊さんなんだから』
…
……
………
誰もが制止した。
『うふふ、隙だらけの「お兄ちゃん」に、リム、いたずらしちゃうぞ』
小首をかしげる。
そして、とことこ歩み寄ると、ハティの頬をつつく。
『もう、お寝坊さんの「お兄ちゃん」……「めっ」なんだから』
僅かな間。
「ぶふぁぁっ!」
ハティが血を吹いた。
「ええっ?!」
「うそ、うそでしょ!?」
あまりのことにその場の皆が動揺した。
「どうだっ!」
リムアンが自慢げに胸を反らす。
「いや、どうって言われても」
ガクガクと震えて吐血しているハティがいる。
状況だけ見ればハティに効いているようにも見える。
(精神に干渉する類の術だから?)
アンジェだけが冷静に状況を分析していた。
◇
「上総之介さま」
声に振り返る。
「上総之介さま?」
「そうよ、未来の旦那様。お父様を継いで上総之介になるんでしょう?」
「安寿ちゃん、気が早いわよ」
母上が笑う。
「あんじぇ……」
「あんじぇ?あんじゅ、だけど」
僕の言葉に、「安寿」が首を傾げる。
(安寿をお嫁さんに、確かにそういう約束をしたけど)
「何を言っているのですか」
「え?」
従姉上が割って入ってくる。
「私たちを側室に迎えるって約束は?」
なにを、言っているんだ?
姉上じゃないか。
「一族とはいえ、血は繋がっていないのですから」
恥ずかし気に言う。
「冗談じゃない。親が決めたとはいえ、側室などと」
輝姫がいう。
そうだよ。冗談じゃないよ。
「私は正妻がいい」
僕は絶句する。
なんで?みんな、おかしいよ。
そして、女性三人が揉め始める。
少しして、お開きとなる。
みんながいなくなって僕は茂みで嘔吐していた。
(姉上が、あんなこと言うはずがない)
えも言えぬ拒絶感と気味の悪さ。
腹がひっくり返るようで気持ちが悪い。
僕は吐き続けた。
そんなこと望んたことなどない。
想像すらしたことがない。
なんだ、これは、あのときの、右腕の時のような頭を掻きまわす―――
◇
「ふ、ふふふふふ」
エリーゼの笑い声が聞こえる。
「ふははははははは」
笑い声を上げる。
「笑止千万!なっていないわ」
それからウォルターから距離をとる。
「エルザ、少しだけ時間をください」
いつにない真剣な顔で言うエリーゼにエルザが頷く。
「真・姉の私にしてみれば、そのようなもの児戯に等しいわ」
(いや、コレは世間一般では「児戯」なんですよ)
ティアは冷めた目で見ている。
「弟を起こすのは、こうするのです」
いきなり掴みかかるとバシバシと頬を叩く。
「起きなさい、ハティ!いつまで寝ているのです。遅刻しますよっ」
暴力的な起こし方をする。
「朝ごはんを食べる時間もなくなってしまいますよ」
それから、そっと頬に手をあてて耳元で囁く。
「それとも、このままお姉ちゃんの添い寝でお昼まで過ごしちゃいましょうか?」
血を吹いて震えていたハティが止まる。
「いいんですよ、おねえちゃんはあなたの望むように……」
言った瞬間、「ごえっ」と音がしてハティが嘔吐した。
「ええええええっ?」
その様子に全員がドン引きした。
「ひ、ひどい……」
エリーゼが膝をついて涙を流す。
「コンチクショウ!」
エリーゼが立ち上がってハティを殴り飛ばす。
ハティが吹っ飛ばされて地面を転がる。
「ばかぁぁぁぁ」と泣き叫びながらエリーゼが走り去った。
「ちょ、え?ちょっと、待ちなさい」
エルザが呼び止めるが、すでにその姿は遠くにあった。




