第185話 ガチンコ戦闘。
攻め時とあってエリーゼも出陣した。
戦局に合わせ、大多数を前に力押しできる者を前に出している。
入れ代わりで休息をとらせていた。
「白銀の虎!」
エリーゼが兵たちに指示を出す。
「集中!」
号令に、兵たちが両脇から彼女を追い抜く。
次々に盾を地に突き立てるようにして並べ、バリケードをつくる。
「盾」
彼女の声と同時に、聖騎士でもある騎士たちが魔術で盾を展開する。
そこへ、敵の騎兵が衝突した。
戦斧を叩きつけながら向かう。
しかし、強固な盾に阻まれて弾きとばされ、馬ごと転倒する者が出る。
共和政府軍は向きを変えて立て直そうとする。
そこへすかさず、エリーゼの号令がとぶ。
「爪!」
盾を構えた兵の両脇を越えて、後ろに配していたいた「白銀の虎」が駆ける。
ブレイブ、アビスを先頭にして。
離脱を図ろうとする共和政府軍に両側から襲い掛かった。
虎が爪で獲物を抑え込もうとするかのような動きである。
何人かが削り取られ、動きが鈍る。
再度エリーゼの声が響く。
しかも、間近で。
「牙!」
その声が共和政府軍の首筋に冷たいものを感じさせる。
政府軍の指揮官が後ろをふりかえった。
――――なんたることか。数メートル後ろにまでエリーゼたちが迫っている。
そして、首筋に牙を突き立てるかのように次々と兵を切り倒していく。
そう、頭である指揮官を落すためである。
双剣を扱うとはいえ、エリーゼは右利きだ。
咄嗟の反応のとき、左が遅れる。
故に左を狙われると馬上では手綱をてにしているせいもありやや遅れてしまう。
相手もバカではない。
長物で突いてくる。
例にもれず、やや対処に鈍さがあった。
だが―――――
「はぁぁっ!」
裂ぱくの気合と共に騎兵が割り込み、その凶刃を防ぐ。
「『私のエリーゼ様』に触れること、このフリードが許さん」
啖呵を切る。
返す剣で敵を打倒した。
「……あれ?」
フリードが周囲を見渡す。
敵味方ともに動きを止めて見ていた。
「え、ええ?」
振り返ると、エリーゼすらも顔を覆っていた。
「そ、そんな……こんなところで……」
そう言って耳まで赤くして悶えている。
右の顔に痣があり、それをひけめに感じているフリード。
それを受け入れてくれたエリーゼにだけは気にせずに右側の顔を見せていた。
そう、彼はエリーゼの左側に常に控えていた。。
「え、『私』って…ちょ、フリード……」
身もだえるエリーゼ。
マクスウェル家臣団から喚声が上がった。
「うぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉおぉっぉ!」
まるで戦に勝ったかのような大音声だ。
◇
「よぉぉぉしゃあぁぁぁああ!」
その様子など見えるはずのないハティが突然雄たけびを上げる。
当然、何も知らない周囲の兵は驚きのあまり硬直した。
「祝福あれっ!」
両の拳を天に突きあげる。
「神王『ヌアザ』の力、お借りする」
右拳を一度地に打ち付ける。
その衝撃で地が揺れる。
「『雲造りのヌアザ』っ、フリードの告白を祝福してくだされっ!」
勢いよく天に拳を突いきあげた。
魔力を放出する。
「【恵みの雨】!」
空がまたたくまに厚い雲に覆われる。
そこから通り雨が降った。
だが、その雨を受けた者たちの傷が癒える。
敵味方関係なく……
「ふはははは、ふはははは、誰か酒もってこぉぉぉい」
◇
マクスウェル領・負傷兵収容所―――
「コレットさま、お願いします!」
「はい、そこのシートの空いているところに!」
次々と運ばれる負傷兵。
その治療にあたるのは数名のプリーストとコレットであった。
いや、もはや単なる「コレット」ではない。
王女である。
しかしながら、在野のころからエリーゼのもとで医術を学び、助手を務めてきた彼女は負傷した者をただ見ていることができなかった。
止める者たちを「人手はあって不要ということはないでしょう」と退け、陣頭に立って治療に当たる。
治癒魔術も使えるが、深手に関しては縫合なども自ら行っていた。
そして、時には手の施しようのないものを看取り、選別するすることもした。
(なんという御方だ)
◇
「くっそぉ、水、水をくれっ!」
ガレットが叫ぶ。
後衛の兵が水筒の水を持ってくると苦笑いする。
「あんがとよぉ、でもよ、俺が言ってんのは、頭から水ぶっかけてくれって言ってんだ」
言うが早いか、コレットがバケツから水をかぶせる。
「ぶっ!?」
ガレットが吹く。
だが、被った水がすぐに蒸気を上げる。
それほどの高熱だ。
「やるなっ、コレットか」
「はいっ、ガレット様」
「不意打ちたぁいい教育だ」
「蜂蜜酒飲みますか」
「ますます気に入った。頼むぜ」
コレットが走り去ったと同時にティアが帰ってくる。
「誰か、水をくれ」
後衛の兵は意を得たりとバケツの水をティアにかけた。
「ぶっ!?」
ガレットと同じようにティアが吹いた。
「……おい、誰が水をかけろと頼んだ」
頬を引きつらせてバケツを持っている兵を睨み付ける。
「水分補給だろうが、かぶせてどうする」
そのやりとりをガレットが笑いをかみ殺している。
「早く水筒を持ってきてくれ。あと、ヒールを使える者もつれてこい」
言葉に兵は逃げるように去っていく。
「おう」
「何だ」
ティアは自身の腿を軽くたたく。
「調子がいいじゃねぇか」
「そちらもな」
『ハッ』
互いに短く鼻で笑う。
コレットが戻ってきてガレットに盃を渡すとともにティアを診る。
「酷い……筋肉がボロボロ」
呟くコレットにティアが笑いかける。
「まずは鼓舞を。傷を癒してください」
コレットは、くっと言葉を飲む。
「ヒール!」
回復の法術を使う。
「ありがとうございます。これでまだ戦えます」
「ここまでして……」
「今も兵は前線で戦っています。我らは彼らのためにも前に出るのです」
ティアの言葉を遮るかのようにガレットが言う。
「ごちそうさん!」
盃をぽいっと投げる。
「もういっちょお行ってくるわ」
大剣を肩に担いで言う。
「おたくらのおかげで俺らも戦える。おたくらはおたくらの戦場で頼むわ」
ニカッと笑う。
「も少ししたらうちらの奴らも下がってくるんで、その時はよろしくな」
走り去っていく。
それに次いでティアが言う。
「腹立たしいですが、アイツの言う通りです。あなた方がいてくれるおかげで私たちは後顧の憂いなく敵に向かえる。ありがとう」
「……」
少しの間に、状況の報告がある。
「エリーゼ様とハティ様が突出しています」
「あの、バカどもがぁぁぁぁ」
ティアが叫ぶ。
「補給も、休息もなしでっ、あの野郎。体力バカにもほどがあるってものだ。一回も休んでないだろっもっと自分を大事に――――」
じっと見つめるコレットの視線とティアの視線がぶつかる。
咄嗟にティアが頭を掻いた。
「大将が斬り込んでどうするっ!やるならハティだけにしろっ」
そう言いながら立ち上がると、再度腿をぱんぱん叩いて言い聞かせる。
「しょうがないなぁあ、もう」
気づいたときにはその姿が消えていた。




