第184話 ジャガイモ狂戦士とポテト神。「命」を育む苦労を何だと思ってんだ!「芋泥棒」に鉄槌を。
進軍を続ける「共和政府軍」。
攻略対象の「城塞都市」はすぐ目の前だ。
守護者「アンジェ」による「炎の防壁」によって守られている。
裏門より増援が入ったが、寡兵であった。
補給にしてもごくわずかであろう。
これならば、「捻り潰せる」。
エーレンブルグの時は、堅牢な城塞や地形を利用した防衛線が張られていた。
奇襲を仕掛けた折もそうだが、「備蓄」も十分にあった。
だが、今回は違う。
攻め寄せ、陥落させた「侵略者」側が、一転して襲われるのだから。
「実験体」のハシビロコウが倒されたのは誤算だったが、奴らを疲弊させる「捨て駒」としては役だった。
(さあ、どうする?「エリーゼ」)
ウォルターがそこにいるであろう女性へと問いかける。
事は上手く進んでいる。
それは、「共和政府」の敗戦も然りだ。
「ウォルター」は自身に満ちる「活力」に愉悦を感じている。
(もっと、もっと私の渇きを癒してくれ……)
行軍の足が止まった。
すぐに伝令が向かってくる。
「申し上げます!」
一礼をすると、伝令が告げる。
「門より『敵』が撃って出てきました」
この言葉に、ウォルターは薄く笑う。
(さすがと言ったところか。このまま包囲されるのを待つより、幾分でも攻城軍の数を減らそうというのだろう)
(魔術兵の攻撃は「アンジェ」が無効化している故な)
(まあ、さすがに、今度は「逃げる」という選択肢は持たないとは思うが)
ウォルターは伝令に告げる。
「迎え撃て。まずは弓兵による斉射。後に槍兵で迎え撃ち、近づけさせるな」
「了解!」
「ルーンナイト、魔術兵たちを集めろ。「アガートラーム」の攻撃を凌がなければならん」
「承知しました」
そう、今の相手には「火力持ち」がいる。
戦略級の広域殲滅ができる者が、4人もだ。
「アンジェ」「ハティ」「エルザ」……「エリーゼ」。
アンジェを防衛として釘付けにする。
エルザはそこまで積極的ではない。
問題は、ハティとエリーゼだ。
特に、「使用回数」を考慮すれば、「魔人」として膨大な魔力量を持つハティが動くだろう。
(結構、扱いが悪いからな)
そんなことも思う。
「し、司令!」
伝令が慌ててやってくる。
「どうした」
そのただならぬ様子に、ウォルターは問いただす。
「ダメです!」
「何がだ」
「濃いんです!」
「何がだ」
「顔がっ!」
ウォルターはしばし、沈黙した。
「それに、何の問題があるのだ?」
聞き返す。彼とて狭量ではない。ちゃんと、話を聞き、情報の精査もしよう。
「『絵面』の違う濃い奴らが、暴れて突っ込んでくるのです!防げません」
「弓兵の斉射は」
「ジャガイモの花っぽいので全てはね返されました!」
「槍兵の防衛網は?」
「筋肉の鎧で、刺さるどころか槍を折りました!」
ウォルターは沈黙した。
「ジャガイモの花」?「筋肉の鎧」?
冗談としかとれない単語だ。
だが、奴らは「やりかねない」。
「総員密集隊形!とにかく、奴らの突撃を食い止めろ!」
戦場は慌ただしくなった。
◇
「あの~、エルザさん?」
とぼとぼと歩く僕の前を歩く「エルザ」さん。
「なんですか?」
口調はいつも通りなんだけれど、「アメコミ」みたいに絵面の圧が酷い。
「僕たちは何を?」
「決まっています。城壁周りに群がっている害虫を駆除するのです」
「はぁ」
僕は気のない返事をする。
だって、「二人」ってないよね。
もうちょっと人を割いて欲しかったなぁ。
しかも、同行するのが「ハティさんのストーカー」という危険人物。
「私だって、不本意です」
僕の思いを知ってか、彼女は言う。
くっそ。
見た目はエリーゼさんにそっくりの銀髪美女。
もう、体系なんてトランジスタグラマー。
世の男性は喜ぶだろうけれど、内面が破たんしている。
「いましたね」
うっわ、メチャクチャいるじゃない。
しかも、「魔術」バンバン撃ってるし。
……というかさ、栄養ドリンクよろしく「マナポーション」飲んでるね。
「ファイトー」とか叫んでるし。
どこも「企業戦士」は「我慢タイム」だ。
「やりますよ」
エルザさんの声。
なんだか「やる」に不穏な気配が。
(あの、ちょっと怖いんですけれど)
(何がですか?)
(初めてなんです)
その言葉に「エルザ」さん、なんだか「きゅぅぅぅん」とした。
(は、はっ、初めてですか?)
(はい。こんな場面で「棒」を使うの)
(ふっ!?……はぁぁぁ)
妙な溜息。あの、怖いんですけれど。
だって、今のアナタ「アメコミ顔」だよ?
(うまく、その……できるかどうか)
僕の言葉にエルザさんが拳を握る。
(大丈夫です。下手くそでも、一生懸命さと愛があれば)
……あの、ここには「愛」は必要ないのでは?
ああ、人類皆兄弟。愛を持て無益なことはするなという教えだね。
(そうですね。僕、頑張ります)
エルザさんは満足そうに頷いた。
(では、さっそく「アイツら」の後ろから、その「棒」で……)
その指示を受けて想像した。もちろん、「失敗」した時のことだ。
(やっぱり、僕はっ)
言いかけた時だった。
襟元を掴まれる。
「煮え切らない子ですねぇぇぇ」
こ、怖い。顔もっ!?
「焦らすんじゃありませんよ!どーんと突っ込めばいいんですから!」
大丈夫なの?解釈違いする人いない?
「でも、でも……」
「ああ、もう!」
躊躇う僕にエルザさんが顔を寄せてきた。
え?こんな綺麗なお姉さんに……
『アイツらは、ジャガイモ泥棒』
そう、耳元で囁かれた。
え?今……なんて?
「アイツらは、あなたの大切なものを奪いに来たのです」
僕の目を見て言った。
「許せますか?」
―――――ムリムリムリ
自分でもわかるぐらい、血管が浮き出る。
僕の、僕たちの「ジャガイモさん」を奪うだって!?
『作物泥棒は万死に値する』
僕の「魂」がそう告げた。
「オマエラ―――――」
「農家が、どんだけ苦労して作物育ててるかわかってのかよ!」
「パンピーは、その辺うわっときゃ勝手に育つとか思ってんだろ!」
「じゃぁ、お前の子供が病気になったらどうすんだ?変な奴にイタズラされたら?髪だって切ってあげるだろ?」
「全部同じだよ!病気も、害獣もいるんだよ!」
「こちとら『命』預かってんだ!」
「育てる方も!食う人のもだよ!」
「365日っ、僕らに休みなんてないんだよ!」
「ほんとうなら、旅行なんか行けやしない!」
「だから、僕がほっぽった畑を母さんが見ていたって聞いてマジ泣きそうになった」
「僕ら農家は農閑期ですら、働かなきゃならない!」
「生活のためには兼業だってする!」
「日照りの時には、水をやらないと死んでしまう。彼らに逃げ場はないんだ!」
「嵐の時にはどうするんだ!守ってやらなければ、死んでしまう!その強さを信じていてもさっ」
「刺すような熱さも、凍えような氷雨もっ!僕たちは毎日耐えながらっ『育ててきたんだ』!」
「単価いくらとか、値切ってんじゃねぇ!どんだけコストと命削ってっか知ってるのか!」
「形とか見た目とかこだわるなよ!」
「不細工だって、ちゃんとした『子』だよ!」
「そんな見た目で判断する奴がよっぽどわかってない!」
「オマエ「イケメンじゃなきゃ認めない」んなら、真っ先に淘汰されるっわかってるの?」
「みんな同じ形が良ければ、『個性』なんて求めるなよっ!」
……もう、とめどなく僕の「農」力があふれだす。
目の前の「魔術兵」がこちらに気づいた。
壁への攻撃を中断して、こちらに向かう。
手を差し向けてきた。
『農家はなぁ、いっつも、お天道様たち、天地と向き合って生きてきたんだよ!』
目の前の兵士たちが手から複数の「魔術の矢」を放つ。
でも、今の僕には―――――
「そんなの、嵐の日の氷雨に比べれば―――――」
「棒」を振るう。
固くなった地面をほぐすような。
深く突き立て、そこから掘り起こしながら、「ふかふか」のベッドを用意するように。
そして、ちょっとだけ手前に引いて、「抱く」優しさを。
――――――スン
魔術は消えた。
目の前の兵たち……「奪う者」は唖然としている。
「どすこーーーーーーい!」
轟音が響く。
銀髪の美女の「張り手」。
その一撃で十数もの「魔術兵」が吹っ飛び昏倒する。
「良い仕事をしました」
エルザさんが言う。
「まだまだ、あなたの『作物』を狙う『泥棒』はいますよ!」
にっこりと笑う。
相変わらず絵面は「アメコミ」だけれど。
「すべて駆逐しましょう!」
その言葉に僕は思わず拳を掲げる。
「オマエラさ、一日中『畝づくり』やってみろよ。鍬で」
「やっとこと無いお前らなんて『尻が四つに割れる』悶絶を味わうだろうよ」
「農家の『タフ』さをなめるなよ」




