第181話 【第一部完】孤独の終わり。春風に吹かれ、少年と少女は明日へと歩み出す。そして放置された「虹の聖杯」。
君たちは、本当の「孤独」というものを知っているだろうか。
物理的に誰かが傍にいないことではない。
「気持ち」を共有できないことを言うんだ。
つまり、「心」が「孤独」と感じることこそが本当の「孤独」だ。
……ねえ、なんで「僕」と「コレット」ほっぽって楽しそうなのさ。
共和政府の人たちも何もなかったかのように騒いでいる。
あの大人たち、ダメだよ。
子供の「孤独」に気づいてない。
僕たちだってキャッキャッ騒ぎたいんだからさ。
ちなみにさ、目の前で「楽しそうにしている」のを見せつけられるのってさ。
とんでもなく、腹が立つってさ、わかってやってるのかな?
人間関係から切り離すやり方って「エゲツナイ」よ。
怨嗟の念を奴らに送ってやる。
(ほぅれ、ほれほれ、ジャガイモの怨念がおんねん。お前たちのジャガイモ、ぜぇんぶ芽が出てしまえええええええ)
そう思いながら隣のコレットに目をやる。
寂しそう……
僕はかわいそうな「妹」の手を握った。
「ひぃうん!?」
コレットが変な悲鳴を上げた。
「大丈夫。あんな奴らいなくたって、僕がいるからさ」
そう励ます。
コレットの顔がかみるみる赤くなっていく。
あ?もしかして怒った?
妹のエナもときどき「ちがう」って怒るから。
コレットが手を握り返してくる。
「ははははははは、ハル!」
なんだか緊張した顔。
「『僕がいる』って、い、いっしょにいてくれるの?」
コレットがそう言ってくる。
良かった。怒ったわけじゃないんだね。
「もちろんだよ。これからが大変でしょ?」
そう、いろいろ大変だ。
ほっぽっていた畑とか、いろいろ。
コレットだって、エリーゼさんたちの手伝いとかさ。
「コレットを一人にしないよ。僕もいっしょに頑張るからさ」
僕の言葉にコレットが目を見開く。
それから何度も「うんうん」って頷く。
元気が出たみたい。
よかった―――――
「ジーーー」
僕とコレットを間近で見ている女の子。
いえ、見た目は少女。
中身は成人女性。
その名はリムアン・マクスウェルさん。
僕とコレットは慌てて手を離した。
「人は、忘れ去られたとき、本当の『死』を迎える」
なんだか、重いことをいうなぁ……
「すぐ近くに居ながら、ガン無視されてイチャつかれるリムの身にもなれ」
「す、すみません」
僕はリムアンに謝る。
「私の尊厳は辛うじて保たれたか」
なんだかいつもの「中二病感」出ているね。
それから「フッ」と哀愁を込めた笑いを浮かべる。
「わかればよいのだ」
そう言ってハティさんたちを見る。
「気高き王よ……」
リムアンがボソリと呟いた。
「私と共に――――」
え?王様?誰が?
◇
(……嫌だ)
(消えたくない)
黒い煤のようなもの。
わずかに草の陰に残ったもの。
「転生の悪魔」だ。
最期、マクスウェル姉弟の「合技【蝕】」を受ける前に「因子」を残した。
(せっかく「異世界転生」したのに)
(「転生するたびに体の持ち主の能力を奪える」チートになったのに)
彼は最初の転生時を思い出した。
この世界に転生する前。
「役立たず」と言われ、苛められた。
スポーツ、学力、共に「普通」。
見た目は平均以下。
仕事についても「誰でも替えがきく」とバカにされた。
要領も悪ければ、人付き合いも上手くできない。
ある日、仕事の「飲み会」で無理やり飲まされた。
フラフラになって帰宅する途中、コンビニに寄った。
コンビニから出たところで複数人の若者に襲われた。
暴行を受け、財布を盗られた。
(奪われる……なんで、どうして?僕が?僕が何をしたってんだよ)
遠のく意識の中で彼らへの「恨み」だけがこびりついていた。
目が覚めると「この世界」にいた。
体は10代にまで若返っていた。
どこからともなく声がする。
『君は生まれ変わった。これから何度も別な人に生まれ変わる。欲しければその場で入れ替われる』
『奪われた君が、奪う側になる』
そんなことを言っていた。
それから、何度も、何度も「奪った」。
その度に自分は「万能に近づく」。
その度に自分が「満たされていく」。
それなのに。
同じ「転生者たち」が邪魔をした。
僕が「生まれ変わる」ということを知って、「封印」した。
(ちくしょう、ちょくしょう!僕のこと何もわからないくせに。僕の辛さなんか何も知りもしないくせに)
でも、まだ「消えていない」。
(今度だって、やり直せる)
そう、何度でも……
ディアブロ(転生の悪魔)は、目の前にいる「ハル」と「リムアン」を見る。
「ハル」は以前の自分と同じような普通の見た目。
隣の「リムアン」は女の子で可愛らしい見た目。
性別は違うが「リムアン」に狙いをつける。
そっと忍び寄った。
◇
「っ!?」
それに真っ先に気づいたのはコレットだった。
振り返る。
黒い靄。
いや、それよりも小さい「煤」のようなもの。
それが、風に乗ってこちらに向かってくる。
(……ヨコセ)
そんな「心の声」。
(オマエノ……スキル……カラダ)
その「煤」は意思を持って向かってきている。
(ヨコセヨ!)
そう強く発したかと思うと、体積を増した。
「リムアン」へと飛ぶ。
「ハル!」
コレットが叫ぶ。
コレットの声にハルも振り返る。
「悪魔よっ、まだ消えてなかったっ!逃げて!」
◇
なっ、なんですとぉぉぉぉっ!
あの姉弟、本当に何やってるの!?
倒しきってないじゃない。
コレット、「逃げて」って言うけどさっ、どうやって!?
「黒い靄」はリムに向かっていく。
「ふざけんなよ!」
僕は走った。
ハルさん、本気出しちゃうぜ!
僕はリムに飛びついて転がった。
「黒い靄」を回避できた。
僕たちは勢いのまま転がる。
そして、僕は勢いを活かして立ち上がる。
【土寄せ棒】を構えた。
「僕の―――――」
「大事な人に触るなっ!」
そう叫んで棒を振り下ろす。
―――――【星霜の洗滌】
黒い靄に【土寄せ棒】の先が触れる。
――――――スン
「黒い靄」は音もなく消え去った。
『ウソ……だろ?なんで、だよ』
どこからともなく声が聞こえ、そして「ソレ」も消えた。
◇
リムアンはが座り込んだまま「ハル」を見ている。
「はぅっ!?」
我に返ったみたい。
「ハル」
「あ、大丈夫だった?」
リムの声にハルが問いかける。
「大丈夫」
リムが答える。
それから咳払いをする。
「急に告白されても困る」
そう言って頬を染めて横を向く。
「え?何のこと?」
ハルがキョトンとする。
「だって、『大事な人』って」
「そうだよ。『大事な仲間』じゃないか」
ハルが驚いた顔をする。
その言葉にリムアンが目を見開く。
みるみる顔が真っ赤になった。
「~~~~~~っ」
立ち上がると肩を震わせて睨みつける。
「おまえ、紛らわしい言い方するなっ!」
そう言ってぽかぽか叩く。
「いたたたた」
ハルは逃げ出した。
「待て~」
リムアンはそれを追いかけていく。
◇
あ~あ~
ハルったら行っちゃった。
私、コレットはそっと自分の手に触れる。
ハルに握られた手。
まだ温かい。
『僕がいるよ』
『コレットを一人にしないよ』
嬉しい。
私は「気味の悪い子」だったから。
「みんなに嫌われている子」だったから。
いっつも、ひとりぼっち。
誰も見てくれなかった。
でも、今は違う。
昔のことはまだトゲみたいに刺さって残ってる。
時々、痛い。
でも、それでも「ハル」がいてくれる。
私がいなくなっても一番に迎えに来てくれる。
嬉しい。
私は頑張れる。
彼がいてくれたなら……
風が吹いた。
私はその風に目を瞑る。
―――――あ
再度目を開いた私の視界に入ったもの。
「バケツ」と、十二の宝石がついた「剣」。
(あれは、確か「転生の悪魔」の?)
ちがう。
そっか、あれは「ウォルター」さんの……
私は歩み寄る。
剣を手にした。
『ありがとう』
そんな「心の声」が視えた。
『あの寂しん坊と一緒に歩んでくれて』
ウォルターさん……こんな顔で笑う人だったんだ。
『これからも、頼む』
そうか、この「剣」はひとつの「完結した世界」なんだ。
ウォルターさんは消える前にここに「心」を映した。
でも、これからも頼むって……
『都合が良いとはは思うが、頼みがある』
『私に代わって、エリーゼに伝えてほしい』
え?ちょっと待って……
『私は、本当に君を愛していた、と』
『そして、寂しい思いをさせてすまなかった、と』
そう言ったウォルターさんは消えていった。
私は、この剣を手に歩き出した。
お姉ちゃんに渡さないと。
草を踏む音が、サクサクと響く。
春はもうすぐ終わる。
濃い草の匂い。
少し湿ったような風。
ひと雨来るのかなぁ。
きっとこれからもたくさん理不尽な目に遭うんだろう。
でも、私はもう負けないと思う。
みんなといっしょなら、きっと。
私は、その場を後にした。
「虹」の欠片を集めた「バケツ(聖杯)」を残して―――――。
――――― 第一部・完 ―――――
ジャガイモ仲間の皆さんへ
日々、理不尽に耐え、また「スン」と乗り越えている皆さん。
その毎日こそが、勝者の証です。
ハルくんの物語「第一部」はこれにて一度終わりますが、またいずれ第二部がスタートします。
その前に、ストックを増やしたり、今投稿済みのものを「リライト」しようと思っています。
また、是非とも作品を読みに来てください!
お待ちしております。
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この度は、読んでいただき、本当にありがとうございました。




