第178話 最狂魔人、義理の娘に攻略される!?「僕は犯罪者だぁぁ」絶望の「ハラキリ」未遂事件。
ハティが戻ってきた。
ランドルフを連れて。
といっても、ロープで拘束したまま引きずっている。
おかげで後頭部など「頭髪」が数本犠牲になっている。
(うっわぁ、残酷……)
その無残な姿を見て、ハルは同情を禁じ得なかった。
相手の最も嫌がることをしている「残酷さ」。
スイッチの入ったハティは、やはり「マクスウェル」の血を引いていた。
気絶しているランドルフをぽいっと投げ捨てる。
「どうぞ、ご自由に」
そう言って離れる。
こういう時の「ハティ」に話しかけられる雰囲気はない。
「白狼将軍」と呼ばれた頃の近寄りがたい雰囲気があるのだ。
「あ……」
ハティは思い出したようにエルザを見る。
「よく、コレットを守ってくれた。ありがとう」
そう言って頭を下げる。
「ふぅぅぅあああん!」
エルザが叫んだ。
「良いんですよ!良いんですよ!善き『妻』たる者はっ、『旦那さま』のご命じになったことは、たとえ周りを更地にしても実行しますわ」
エルザの言葉にハティは薄く笑って頷いただけだった。
(ちょっと、親父おかしくないか?)
(うん……ちょっと、怖い)
フィンレーとリャナンが囁き合う。
「フリード、姉上は?」
ハティの言葉にフリードが歩み寄る。
「エリーゼ様は、『休息』されています」
ハティは頷いた。
「『悪魔』の力を使ったな?ならば、そのまま。誰にも邪魔をさせるな」
厳しい物言い。
「これから、全員『休息』と『補給』を厳命しろ」
静かながら「威」を発する。
そこには普段ふざけた「ハティ」はいなかった。
「魔人」「白狼将軍」などと呼ばれた「戦人」。
フリードは雷に打たれたかのように姿勢を正すと、皆に伝えた。
〈 ポッコツっぷりどこ行ったのよ……〉
ハティのあまりに殺気立った様子。
【土寄せ棒】の「アンジェ」は怯えていた。
「お兄ちゃん……」
コレットが声をかける。
「ああ、コレット……」
いつもなら「にへらっ」とだらしなく笑うハティが、笑わない。
「君は、一度、建物の中に……屋敷がいいだろう。壊れているけれど堅牢だ」
「民を連れて行ってくれるかい?分散しているとあぶな――――」
言いかけた時だった。
「そんなこと、聞いているんじゃありませんっ!」
コレットが叫ぶ。
「何が『視えて』いるんですかっ!?」
コレットがハティに詰め寄る。
「お姉ちゃんも何も言わない」
「ただ、リュックさんの治療をしてからお酒飲んで寝ちゃった」
ぎゅっとハティの上着を掴む。
「私にも『視せて』」
こつん、と額を合わせる。
―――――少し離れた先、数万の軍勢を率いる一団がある。
その先頭に立つのは「ウォルター・H・ウォーロック」。
「っ!?」
コレットは驚いて体を離した。
「僕が、数を減らす」
ハティが言った。
「引きつけている間、君は、『逃げる』んだ」
「子供たちも同行させる」
ハティはコレットの目を見たまま続ける。
「振り出しに戻ってしまうが仕方ない。僕たちが出ていけば、民も―――――」
言いかけた時だ。
バッチーーーーーン!
物凄い音が響いてハティの両頬が挟まれるように叩かれる。
「ふっっざけんなよっ!」
怒声を上げたのは「コレット」だった。
「なんでよっっ!」
コレットが泣きながら睨み付ける。
「なんでっ、なんでなんでなんでっ!」
怒りのままに地団太を踏む。
「なんで、お兄ちゃんたちは自分を犠牲にするのよ!」
「いや……」
「『いや』じゃないっ!」
コレットが泣きわめく。
「傷ついてるのに!辛いのにっ!助けてほしいって思ってるのに!」
「なんで『自分がこんな目に』って思ってるのに!」
「自分が全てを被って消えれば、私たちが平和に暮らせる?」
「ふざけんなよっ!」
コレットの声に、皆が集まる。
「ふざけんなよっ親父!」
「そうだ!俺たちを救っておいてっ、自分だけっ」
「やだやだやだやだっおとうさんっ、おとうさん!」
「親父殿っ!」
フェンリルナイト達が詰め寄る。
「え?いや……」
ハティがたじろぐ。
その輪の外、ガレットが頭を掻く。
「お前よぉ」
呆れたように言う。
「まさか、俺たちまで―――」
「あ、ガレットとティアには残って貰うつもりだったんだけれど」
『ふっっざけんなよぉぉ!』
ガレットとティアが同時に叫んだ。
とはいえ、その顔は笑らっていた。
「あれ?リム?」
ハルが声をかける。
いつもなら真っ先にハティにくっつくはずのリムアン。
それが、離れたところでハティを睨み付けていた。
足音を立てて、ハティに向かって行った。
「?」
ハティが不思議そうな顔をする。
グイッとリムがハティの胸倉を掴む。
「ふざけんな」
リムアンの目じりには涙が溜まっていた。
リムはハティを引き寄せた。
つま先立ちになって、唇を重ねる。
固まるハティ。
リムアンはそっと唇を離した。
「リムは……『本気』なんだ」
覚悟を決めた顔で言う「合法ロリっ子」。
「リムは、ハティが『好き』」
(キターーーーーー!)
全員が心の中で叫んだ。
「ハティだけを残さない。リムも一緒」
(おおおおおおおっ!)
何ともよくわからない「テンション」が陣中を包む。
〈やりやがったわよっ!あの『チビッ子』!〉
【土寄せ棒】の「アンジェ」も興奮している。
「あ、ああ……ああああああ」
ハティが涙を流し始める。
(ハティが感涙している?)
(この「回答」は如何に?)
皆の期待のまなざし。
ハティはがっくりと膝をついた。
「な、なんてことだ!」
ボロボロと涙をこぼし、嗚咽する。
「ぼ、ぼっぼっ僕はぁぁああ」
(リムの気持ちにやっと気づいてっ!?)
皆は趨勢を見守った。
数万の軍が迫っているというのにだ。
「犯罪者になってしまたのかぁぁぁぁ!」
ハティは慟哭した。
「義理の娘に手を出したなどとぉぉぉ、許されることではないっ!」
叫び、服をはだける。
そして、「短刀」を引き抜いた。
「我が穢れた魂を……我が手によって『清め』ます」
そう言って腹に突き立てようとする。
『やめろおおおおおおおおお!』
みんなが止めに入った。




