第176話 【悲報】ハル、街を芋畑にして宙吊りにされる? そして空駆ける「無能」の逆転劇!
戦いが終わり、僕たちは「ロナウ」に祈りを捧げた。
〈ロッシェ、行きましょう〉
【土寄せ棒】の「アンジェ」さんが僕を促す。
最後に聞いたあの声。
ロナウとは別の、女性の声だった。
あれが、「不浄の悪魔」の正体。
あれが、「異界から渡ってきた者」のなれの果て。
昔、父さんに聞いたことがある。
「悪魔」とは異界からこの世界に渡ってきた存在だって。
そして、この大陸にはたくさんの「悪魔」がいて、その「子孫」も。
「ロッシェ」一族も、元をただせば「悪魔」の血を引いているって。
◇
僕たちは館を後にした。
「戦い」が終わったことを皆に告げるためだ。
けれど、街に降りてのエリーゼさんの第一声は悲鳴だった。
「なんじゃこりゃぁ!?」
勝利宣言とかじゃない。
エルザさんは笑いをかみ殺している。
エルザさん、今はもう鎧姿じゃない。
あれは魔術か何かでつくられた鎧なんだろう。
エリーゼさんは街の惨状に肩を震わせている。
「ああ、エリーゼさん無事でしたか」
フィンレーたち、「魔狼騎士団」たちが集まってくる。
「いやぁ、やっぱり『恩寵』を使われたんですか?なんかみんな『ゾンビ』みたいになっちゃうし」
フィンは頭を掻きながら言う。
「そうそう。警告文のおかげで住民は外に出ていませんよ。俺たちが相手したのは『兵士』だけです」
スヴェンも声をかける。
「『眷属』だっけ?なんか魔獣か何かみたいなのが出てきて、結構強くて大変だったの」
リャナンが笑う。
なんかさ、ルーダとオーレ、次の作品の構想練っているね。
「もっと小型化できないかな」
「魔晶石は使い捨てになるかぁ……コスト高いよ」
「『六連式』とかカッコいいな」
「ハットとかも欲しいね」
「小遣い足りないなぁ」
「親父に肩叩きしておねだりするかぁ…」
何かアイディアが浮かんだのかな?
あ……ティアさま何か一生懸命書いている。
リムアンはそれを興味深げに覗き込んでいた。
「『眷属』が出たのか?」
フリードさんが尋ねる。
「ええ、なんか動物と人が合体したみたいな」
「なるほど、『実験体』だな」
「首都で戦ったナハトよりは弱かったけれど」
「ナハトは『完成体』だからな」
「……では、その中に『モグラ型の眷属』でもいたのですか?」
震える声でエリーゼさんが聞いてきた。
みんな「ギョッ」とした顔をした。
メチャクチャ怒っている。
「いえ、いませんでしたけれど?」
不思議そうにフィンか答えた。
「じゃあ、なんで街中の道が掘り返されてるんですかっ!?」
そう、エリーゼさんのお怒りは「道路状況」だった。
舗装された通りが掘り返され、それはもう「ふかふかの畝」が出来ていた。
……僕の仕業です。
「あ~あ~、それはぁ」
さすがのフィンたちも答えに窮した。
「……フム。良い状態だ。絶妙な柔らかさ、そして『神気』すら感じる」
あああっブレイブ叔父さんっ!?
叔父さんはしゃがみ込んで土の状態を観察していた。
ヤバい。叔父さんにはわかってしまう。
「ハルっ、腕を上げたなっ!」
爽やかに笑う。
ちょっとぉ、今、それ言わないでよっ!
「あ~な~た~で~す~かぁぁぁあ」
エリーゼさんが足音を立てて寄って来る。
がしっ!
あいたたたたたたたたたあ!
頭を掴まれ、片腕で釣り上げられる。
「街を芋畑にするつもりですか?道全部掘り返して、人が通れないでしょう!」
「痛い、痛いっ!悪魔の菌糸を取り除いてたんですって」
僕の言い訳を聞いて、エリーゼさんが手を離した。
「~~っ」
街の惨状と領民の救出を秤にかけたみたいだ。
「ごくろうさまでしたっ!」
ピシッとデコピンされる。
あ……これで許してくれたみたいだ。
「ところで、ガレットがいないみたいですけれど?」
気を取り直したエリーゼさんが尋ねてくる。
そういえば、いないね。
あんなに騒がしい人なのに。
「ああ、アイツなら共和政府の援軍を迎え撃ちに行きましたよ」
ティアさまが気のない返事をする。
……へ?
「リュックという将軍が出張ってきたので」
ちょっとちょっと、「将軍」?
ランドルフみたいなのが来てるの?
「ああ、そうですか」
エリーゼさんもっ!
もっと心配したっていいじゃないですか。
「ガレットさんなら安心だね」
「ね~」
フィンたちも頷き合っている。
扱い酷くない?雑すぎるよ。
そんな僕を見て、フリードさんが言う。
「ハル、問題ない」
彼は力強く頷く。
「彼は強い。一対一でハティと互角に戦えるのはエリーゼ様とガレットだけだ」
え?ああ、そうなの?
「遠距離や範囲攻撃ができないというだけで、近接戦闘では並ぶものは無い」
「あれ?ハティに2回半殺しにされましたよ」
「それは言わないで上げましょう」
エリーゼさんの軽口に、フリードさんは苦笑いする。
「君も『五将』の強さを知っているなら、彼がどれだけ強く、民衆の憧れであるかわかるだろう」
◇
「おっさん、やっぱ強いな」
ガレットが大剣を構えて言う。
「お前に褒められる日が来るとはな」
リュックは口髭の形を歪めて笑う。
共和政府将軍、リュック・シュナウザー
元は帝国の軍人。
帝国の南に位置する群部の貴族。
「なんで、アイツらに味方しているんだ?」
ガレットの問い。
「愚問だな。裏切者」
リュックは辛辣だ。
「なるほどねぇ、おおかた『帝国』の恨みってところかね」
「そうだ」
リュックが戦斧をガレットに差し向ける。
「おまえが離反して王国に寝返らなければ状況は違っていた」
この言葉にガレットは意外そうな顔をした。
確かにガレットも帝国出身だった。
ただ、彼は物心ついたときには路地裏生活をしていた。
両親の顔を知らない。
いつも飢えに苦しんでいて、そこから抜け出すために「剣闘士」になった。
そして、殺されそうになったため、逃げて「傭兵」となった。
ガレットは声を上げて笑った。
「ハッ、ハハハッ!こいつは傑作だ!」
終いには腹を抱えて笑う。
「何がそんなにおかしい」
「だ、だってよぉ」
リュックの問いにガレットが顔を上げる。
「こんな俺がお偉いさんたちに頼りにされてたってのがな」
なおも笑いが収まらないでいる。
「さんざん『出来損ない』、『剣奴あがり』、『夜盗まがいの傭兵』とか言ってたのによぉ」
この言葉にリュックは黙るしかなかった。
「扱い悪いったらなかったぜ」
笑いを堪えながらガレットが言う。
「そんな俺がよぉ、いなくなっただけで戦局が変わるとは思えねぇんだわ」
カカカカカと笑いながら言う。
「都合がいいよなぁ、人のせいにするんじゃねぇよ」
その言葉にリュックが頭を下げた。
「すまなかった」
「お、おいおい」
これにはガレットも驚いた。
「確かに、お前の扱いには酷いものがあった」
「いや、恨んじゃいねぇって。そう聞こえたなら俺も言い方悪かったな」
ガレットが手を振る。
「でもよ、俺は『傭兵』だぜ?いつ命を落とすかもしれねぇ場所で金を稼いでるんだ」
「綺麗ごとじゃやってけねぇよ」
「おたくさんらみたいに『誇り』やらなにやらで、命は落とせねぇ」
「国だってあってないようなもんだからな」
そのように言うガレットを静かにリュックは見ていた。
「そうか、そうだったな」
リュックが戦斧を構えなおす。
「余計なことを言った」
「私らしくもない。愚痴がでてしまったようだ」
リュックの言葉にガレットは薄く笑い、剣を構える。
「いいって、いいって。俺なんかいつもだからよ」
「フッ」
互いに笑みを浮かべる。
「んじゃぁ、仕切り直しだな」
◇
リュックの戦斧が振り下ろされる。
その威力は地面を削り取った。
ガレットは受けることなくそれをかわした。
「おおおっ!」
気合を入れて横薙ぎに大剣を振るガレット。
リュックはその巨躯に似合わず軽やかな動きで剣線から身を外した。
体を起こす勢いでリュックが戦斧を振り上げる。
ガレットは大剣を手元に引き寄せて受けた。
ガレットの体が浮き、弾き飛ばされる。
彼は宙で姿勢を直して着地する。
互いに体の大きさを感じさせない俊敏さ。
そして、長大な武器を軽々と扱う筋力。
何よりも、派手な動きではない「強者」どうしの「技」の競い合い。
一度開いた距離。
それを助走として互いに駆ける。
「斧技【土貫】」
「戦技【兜割】」
お互いに上段からの斬り下し。
刃がぶつかり、火花が散る。
その衝撃に耐えられない地面が陥没した。
「「うおおおおおっ!」」
力を込めて押し合う。
少しでも緩めれば押し潰されるだろう。
競り勝ったのは「ガレット」だった。
大剣で戦斧を跳ね上げる。
上体が浮いたリュックに体当たりをする。
吹っ飛ばされてリュックの体が地を跳ねる。
バウンドしながらもリュックは体勢を立て直した。
「【岩飛礫】」
リュックが「土魔術」で岩の塊を飛ばす。
ガレットはそれを避けて走り回る。
「ヘイヘイヘイ、ドッチボールなんていい趣味してるな」
「スポーツ脳」に変換して言う。
「ほらよ『ボレー』だ!」
今度はテニスに変換して岩の塊を打ち返す。
リュックはそれを戦斧で叩き割った。
ガレットは次いで飛んできた岩の塊をジャンプして股下から打ち返す。
「おっし『股抜きショット(トゥイナー)』」
だが、破片が尻に当たる。
「いててててっ」
ガレットは自爆しながらもすぐに立て直して駆ける。
(この「おっさん」やっぱ「戦士」だな)
ガレットは考える。
変なこだわりがない。
近接戦闘で敵わないと分かると、距離をとり、「魔術」のよる「中距離」へと変えた。
ガレットとの差を埋めるために。
「【砂礫弾】」
(ヤベェ!)
ガレットはスピードを上げて走った。
砂の塊が飛んでくる。
これは斬っても弾けて「衝撃」を食らう。
もちろん受けても「衝撃」がくる。
(「初見殺し」……あの「砂かけババァ」との特訓がなけりゃやられてるぜ)
ガレットの言葉に、遠く離れた「アンジェ」がくしゃみをしたのは言うまでもない。
ついでに「誰がババァじゃ」とも呟いていた。
(このまま距離をとられ続けるのもまずいな)
ガレットは「砂礫弾」を避けつつも、急旋回する。
(ここだ!)
急停止する。
腰を落とし、剣を横に構える。
「戦技【断空剣】!」
わずかな魔力をを纏い、瞬時に練り上げた「闘気」と共に剣を振る。
剣風が「竜巻」のように飛ぶ。
リュックの「砂礫弾」を巻き込みながら進み、リュックを襲った。
風が止む。
満身創痍のリュック。
リュックも「闘気」を纏い、自身の魔力を戦斧に纏わせる。
(長引かせる気はないな)
ガレットが身構えた時だ。
「斧技【獄門】」
リュックが戦斧を振り下ろす。
衝撃が地を走る。
ささくれ立つように岩が突出して、ガレットの近くで一際大きく岩が突き出る。
周囲から迫るように突出した「岩の槍」を避け、ガレットは「上空」へと跳んだ。
「岩の『磔刑』。ここで朽ちろ、『英雄・黒鷹』!」
なおも迫りくる「岩の槍」。
「ハッ」
ガレットは鼻で笑う。
脳裏にはある女性の姿が映った。
――――月明りを受けた銀の髪がなびき、アイスブルーの瞳が見据えている。
『その目は千里もの先を見通し、その翼は万里を飛び、その爪は仇なすものを屈服させる』
それはいつの頃であったか。
ガレットが見た侵しがたく威厳に満ちた女騎士の姿があった。
『ガレット・グランハート。戦場の覇者。あなたがすることはもう決まっているのですよ』
『戦塵の中、天駆ける鷹が、それ以外の場所ですることなどないでしょうに』
(やっぱ、姐さんは「いい女」だ)
ガレットは空中で「足場」をつくり、踏みしめる。
溜をつくり、足に力を込める。
「いくぜ!」
ガレットが大剣を構える。
「戦技【黒金の鷹】!」
足場を蹴る。
まるで獲物を爪で捕らえるかのような急降下。
リュックの体を大剣の一振りで捉える。
そのままの勢いで地面へと叩きつける。
衝撃に、爆破でも起きたように地面が抉れ、土砂が撒きあがる。
「が……は……」
リュックが血を吐く。
そのまま意識を失った。
「ふぅ~」
ガレットは深くため息を吐く。
「このおっさん、強すぎだっての」
立ち上がると大剣を肩に担ぐ。
「悪いな。俺も『仲間との約束』があるんだ」
リュックを見下ろして呟く。
「こんなところで立ち止まってるワケにゃいかないんだよ」




