第175話 不浄の悪魔VS掃除屋農家さん。決着の「スン」でカビ消滅!
僕が目にしたのは「凄惨な光景」だった。
「ふぅぅぅん!」
ブレイブ叔父さんが腰を落とし、「ショベル」を振りかぶった姿勢で構える。
――――ドクン
体から湯気のような「闘気」が吹きあがる。
そして全身の筋肉が膨張したかのように、一回り体が大きくなる。
「これがっ、我が兄『オルコス・ロッシェ』と共に編み出した奥義!」
ええっ!?父さんと編み出した「奥義」だって!?
「【ポテト・ディグアップ・クラッシャー】!」
ショベルを振り抜く。
石造りの床に突き立ったショベルから、ロナウへと地割れが向かう。
いやいや、叔父さんっそれダメなヤツ!
「クラッシャー」って「破壊」じゃないっ!?
ジャガイモさんまで酷いことになるよっ!
床にまで菌糸を張り巡らせていた「ロナウ」の全体が露わとなった。
叔父さんの放った衝撃波は、ロナウ本体を傷つける。
「がぁっ!?」
「魔術ではない」一撃を食らい、何が起きたか理解できていないロナウ。
……ああっ!床から出てきた菌糸の中に「出っ張ったおへそ」がっ!?
「核が出ましたね」
エリーゼさんの声。
いや、「核」って「デベソ」なのかよっ!?
「いや~ん」
って、ロナウ、恥ずかしがってる。案外余裕なのか?
瞬く間に菌糸が「デベソ」を覆う。
まるで「シェルター」でも作るかのようだ。
でも、結果的には「デベソ」が単に大きくなっただけ。
「フッ……」
あ~、アビスさん?
なんで左手を顔に当てて指の間からロナウを見ているの。
「いま、我が内なる混沌より生まれしは【深淵なる闇】」
うっわぁ、この人いい歳して「中二病」全開じゃない。
「混沌の汚泥を現出させる【奈落の門】」
――――バッ!
右手を横に広げる。
痛い痛い痛いっ!ちょっと「ティアさま」にキャラ被りつつあるよ。
おおおおっ!?
なんか、彼の背後に渦巻く黒い物体。
なにあれ?なにあれ?
「食らい尽くせ!【奈落の闇】!」
やっちまったぁぁぁっ!?
この人、自分の「アビス・シャドウ」って名前を技名にしてるぅぅぅっ!
背後の黒い物体がロナウへと勢いよく飛ぶ。
まるで高圧洗浄機みたいだ!
「あばばばばっ」
ロナウの顔面に、それはもうビシャビシャと「放水(?)」される。
ちょっとかわいそう。
危険だから、人に向けちゃいけないものだ。
「チャンスですね」
エリーゼさんが飛び込んでいく。
え?なんかエリーゼさん「湯気」出してない?
「闘気」とかいうの?でもちょっと違うような?
あまりの速さに瞬間移動したみたいだ。
――――ジュッ!
彼女が振るった剣が「ロナウ」を焼き切る。
なんて、高温。
でも、彼女が着地した場所には霜が降りていた。
すさまじい猛攻。「白銀の猛虎」だけに。
ロナウの「巨大デベソ」の周囲を削り取って「核」を露出させる。
ロナウはたまらず逃げようとする。
「させるか」
フリードさんが剣を構える。
「お力をお借りします」
そう言うフリードさんの剣に「冷気」が集まる。
「剣魔術【永久凍土】!」
「突き」を放つように剣を振る。
纏った冷気が塊になってロナウへと飛ぶ。
ささささっさぶぶぶぶっ!
周囲までその冷気で凍結し始めた。
〈ちょっと!ロッシェまで凍るでしょ!〉
【土寄せ棒】の「アンジェ」さんが非難の声を上げる。
―――スン
彼女は「冷気」をシャットアウトしてくれた。
けれども、ロナウへと向かった「霊気」は彼を氷結させる。
これじゃあ、分裂どころか再生もできない。
……んん?なんで凍ったロナウはちりちりの「パーマ」ヘアーになっているんだ。
って、フリードさん!?
何?魔術の反動なの?あなたまで「パーマ」になっているよ!
僕の動揺など関係なく、フリードさんがロナウへ向けて走る。
「フリード!」
「エリーゼ様!」
ふたりが剣を構える。
『これで、終いだ!』
ふたりの声が重なる。
『【断罪】!』
光を纏う剣。
エリーゼさんの双剣が縦横に「核」を斬る。
同じくしてフリードさんの剣も袈裟懸けに「核」を切り裂いた。
「アアアアアアアア」
耳障りな絶叫を上げてロナウの体にまとわりつく「菌糸」が崩れ始める。
「わ、わたしの『力』……『恩寵』が……」
◇
ロナウの体が傾ぐ。
「うっ!?」
ロナウが呻く。
「なっ?なにが……やめ、やめろ」
ロナウは体を掻きむしる。
「『不浄の悪魔』?意識が残っているのか!?」
ロナウの体から赤黒い「菌糸」があふれだしてくる。
『ヤダ……ヤダヨ。キエタクナイ』
『ナンデミンナ、ワタシヲ嫌ウノヨ』
『転生シタノニ、アタラシイジンセイガハジマッタノニ』
『菌デ、ペニシリン作ッテ、タスケタノニ』
これが、「不浄の悪魔」の声?なのか?
『ミンナ、ミンナ、ワタシヲ褒メナイ』
『ミトメナイ』
『ソンナヤツラ、イラナイ』
『思イドオリニナラナイナラ、ソウナルヨウニシテヤル』
『ミンナ、ワタシノ人形ニナレバイインダ!』
その声が叫びとなったときだった。
「ぎゃああああああ」
ロナウの体が形を失って粘性の塊になる。
「っ!?ロナウっ」
エリーゼさんたちは「核」だけを狙っていた。
それはきっと、「ロナウ」の命を奪うのではなく、「やり直すための慈悲」を与えていたんだ。
それも、もう意味をなさない。
「転生者」―――――いや、「悪魔」って一体?
『オマエハ、ズルイ』
菌糸がエリーゼさんを捕らえようとする。
「どおぉぉぉぉすこーーーい」
銀の塊が突っ込んで行き、菌糸を本体の塊ごと弾き飛ばす。
「あらあらあら、『義姉さま』なにを呆けているのですか」
エルザさんが大盾を構えている。
盾技【シールドバッシュ】でこの威力って
「もしかして、お酒の飲み過ぎで『痴呆』が始まっているのかしら」
なんで煽るかなぁ。
「なんですって?」
ほらぁ、血の気多いんだからすぐ挑発に乗る。
「コイツはもはやあなたの『従弟』、ロナウ・スペンサーではありません」
エルザさんの言葉にエリーゼさんも「ハッ」となる。
「我が故国、帝国を滅ぼした元凶『不浄の悪魔』です」
◇
「ハルっ!」
コレットが呼びかける。
「『デベソウ』さんを、『不浄の悪魔』をもう眠らせてあげましょう」
コレットの瞳が「金色」に輝いている。
その目からはとめどなく涙があふれていた。
「『流転の悪魔』の子孫、あなたが、『還して』あげるのです」
エルザさんが言った。
(でも、どうすれば?あの時みたいに「叩く」だけでいいのか?)
「大丈夫」
コレットが力強く言った。
「ハルならできるよ」
不安になった僕の背中を押すような言葉。
「アレはもう『核』むき出しの状態だもの」
「そう!もう、無残にむしり取られてポイ捨てされた『廃棄デベソ』!」
さっきのさ、憐れみもへったくれもない呼びかただね。
「どこを叩いても『除菌』できるよ」
僕はコレットの言葉に後押しされて、【棒ジェ】さんを構える。
足止めをしているエルザさん。
結局、この人は「心根の優しい」お姉さんなんだな。
「不浄の悪魔」こと「廃棄デベソ」に向かって走る。
エルザさんの傍を駆け抜ける。
「さあ、行くのです!」
エルザさんの声援。
―――――エトス・カタ……
「除菌剤くん!」
この人はぁぁぁぁぁぁっ!
〈ロッシェ!「彼女」を救うわよ!〉
【土寄せ棒】の「アンジェ」さんの声。
「わかったよ!」
僕は【棒ジェ】さんを振り下ろした。
――――――――スン
棒が「廃棄デベソ」を叩く。
音もなく形を失っていく「不浄の悪魔」……あ、「廃棄デベソ」。
崩れた天井から光が差し込む。
それはどこか、「彼の者」の魂が天に上るためのかけ橋のようだった。
風がそよいだ。
(もう、苦しまなくていいのね)
そんな「誰か」の囁き声が聞こえた気がした。
ジャガイモ仲間の皆さんへ
今日も今日とてお疲れ様です!
何はともあれ、毎日を懸命に生きているだけで、「ヴィクトリー」ですよ!




