↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

170/257

第170話 ちょっと「ご主人様」って何?そして土壌改良!農家の本気と高貴なるインサイト!



ランドルフの狙撃を捌きながら、ハティとエルザは「リュック」の一団へと接近しつつあった。


「っ!?」


嫌な気配に城塞都市を見る。


吹きあがる「瘴気」。


そして放たれる禍々しい魔力。


「『恩寵』を使ったか」


ハティが呟く。


(けれど、これは……?)


離れていても聞こえてくる人々の悲鳴。


(まさか、「不浄の悪魔」じゃないだろうな)


視界に「リュック」率いる重装備の兵団を捉える。


兵団は城塞都市へと向かっていた。


そして、離れた場所で斬り結んでいる二人の人物。


――――ガレットとリュックであった。


「ガレット!」


ハティが声をかける。


「おおっ!」


ガレットがリュックの戦斧を弾き、バックステップをして距離をとる。


「コイツは俺が相手をする。お前は兵を」


言った時には斧が振り下ろされる。


それを「いなす」ガレット。


だが、地に落ちた斧は大地を割り砕いた。


「承知した」


ハティは城塞都市へと迫る重装騎兵団へと向かう。


後ろでランドルフの矢を防いでいたエルザが静かだ。


無理もない。


彼女は「元・帝国の英傑」だ。


そもそもエルザが剣を執った理由は「民のため」であった。


だから、帝国を蹂躙した「不浄の悪魔」は許し難いものだ。



「あの野郎――――」


エルザの低い声。館を睨んでいる。


「エルザ!」


ハティが声をかける。


「旦那様―――」


言いかけるエルザに、ハティが言う。


「行っておいで」


言葉にエルザは目を見開く。


「ここまで、十分に協力をしてくれた。ありがとう」


ハティは苦笑いする。


「君の怒りは、痛いほど『伝わってくる』よ」


ハティが自分の胸をトントンと軽くたたく。


その言葉に、エルザは小さく笑った。


「だから、遠慮なくぶっ飛ばしておいで」


ハティが拳を差し向ける。


エルザがそれに合わせた。


「怖がりな僕も、ちょっとはやれるってところを見せなきゃね」


ハティの右腕が銀へと変じる。

そして、それが伝播するように、エルザの腕へも広がっていった。


「――――はい」


エルザは微笑み、返事をする。


ハティに合わせた拳から広がる「銀の鎧」。


それは彼女の全身を覆い、「フルプレートメイル」へと変じた。


「ハティ・銀の右腕アガートラーム・マクスウェルが眷属。エルザ・ジグニュール・ブライトガードにこの力を分け与える」

ハティが静かに告げる。


月光を思わせる青白い光。


それがエルザの体を包んでいる。


(ああっ!感じるっ「旦那様の愛(魔力)」を!)

うっとりとする「エルザ」。


「遠慮なく暴れておいで。エルザ」

ハティは微笑む。


それを、エルザはアーメット越しに見詰め、頷いた。


「行ってまいります。『ご主人様』」


(それ、やめてって言ったよね)


ハティは内心抗議していた。





ロナウの「恩寵」によって操られる兵士たち。


屋内でも暴れる音がする。


中の人たちも「ゾンビキノコ」に憑りつかれているのだろう。



「悪魔」の持つ力を分け与えられ、深く同調し、一体となった者。それを「眷属」と呼んでいた。


中には異形となる者もいる。


そして、この戦場においても「眷属」が紛れ込んでいた。



ブフゥ、ブフゥ……


オーク(豚頭獣人)のような魔物が歩いている。


鉄の棍棒を持ち、鎧を身にまとっている。


「うおおおお!」


格闘興業によって仲間となった「新参兵」。


それらが「オーク」へと立ち向かう。


だが、オークは一振りで、彼らを吹き飛ばした。


そして、ある一角を見る。


戦っている「リャナン」たちだ。


「ニチャァァ」と下卑た笑みを浮かべる。


「オ、オレ……可愛い子、好きだ」


巨体をゆすって向かって行った。





リャナンたちに向かってくる「オーク」。


彼女たちは眉をひそめた。


「オレ、可愛い子、好きだ」


呟くオーク。口の端からは涎が垂れている。


「あ、ああ……ありがとう」


引きつった顔でリャナンが言う。


リムは嫌そうな顔をしたまま無言。


「ちがう。後ろの、髪の長い子」


「っ!?」


リャナンとリムアンは同時に後ろを振り返った。


そこには後衛に「アルセイス」がいたのだから。


「え?ウソ……僕?」


あまりのことにアルセイスは自分を指さす。


オークは力強く頷いた。


「は、ははははは」


アルセイスが乾いた笑いを漏らす。


(キ、キターーー!)


リャナンとリムアンは内心叫んでいた。


(ねえねえねえ、すごいシュチュだよ、リム)


(ねえねえねえ、まさにBLTサンド、リャナン)


(それ、もしかしてLGBTQのこと?)


(そうとも言う。でもリムは「ボーイズ・ラブ・トライアル・サンド」と言いたかった)


(え~と、ボーイズラブに挑戦していろいろ挟まれる感じ?)


(そういうこと!)


リムアンがムフーと自慢げに言う。


そんなふたりを余所に、オークがアルセイスに詰め寄る。


「お、オレと付き合って……」


「いやいや、お互い知り合ったばかりだからッ、それに僕は男の子だよ?」


「知ってる。『男の娘』」


「ちが~~~~う」


じりじりと距離を詰めるオーク。


じりじりと後退するアルセイス。


(おおお、呪われ、異形となった者が戦場で一目惚れ)


(そして、敵として相対する中でもその「想い」はあふれ出て、我慢することができない)


物陰からティアが鼻息荒く観察していた。


(な、なんという僥倖!こんなところに逸材がいたとはっ!)


ネタ帳を取り出して一心に書き始める。


(筆が進むぞ!新作は「オークキングに寵愛される僕」に決まりだ!)





「あっ!?」


アルセイスが瓦礫に躓く。


そして後ろへ転びそうになった。


――――パシッ


なんと、オークがアルセイスの腕を掴んで助ける。


「だ、大丈夫か?」


「え?」


そのまま腕を引いて抱き寄せる。


「気をつけるんだ……」


その様子を見てリムアンとリャナンが囁き合う。


(おおおおおおっ!)


(なんか、なんかいい奴っぽいっ!)


(どうするんだ、アルセイスっ!)


(多様性の時代!「愛は性別を越える」!)


リムアンとリャナンは興奮する。


―――――ニチャァァァ


オークが涎を垂らしながら笑う。


(微笑んで……いるのか?)


「さあ、オレと『家族』になろう。ハニー」



「誓いの『キッス』を…」


(やっぱ、ダメな奴だったーーーーーっ!)


アルセイスが慌てて離れようとする。


「待て待て待て待て、そう言うのは順番ってものがあるだろ!いきなりってどういうことだよ!」


喚き散らす。


それでも、オークが顔を近づけてくる。


「コイツ、力強すぎ!って、『合意なし』は犯罪だからな!」


必死に逃れようとするが、それでもオークは離さない。


「い、いやーーー、やめてぇっ!」


アルセイスが泣き叫ぶ。


――――― チン


金属音。


それは、刀が鞘に納められた時の「鍔鳴り」だった。


オークの首が落ちる。


「そういの、私、嫌いなの」


リャナンが冷たい表情でオークを見る。


「先に乱暴働いたの、オマエのほうだからな」


「あ、ああ……うわあああああん」


アルセイスが泣きながらリャナンにしがみつく。


「ありがとぉぉぉぉっ、たすかったよぉぉぉ」





「また―――」



駆ける一団は戦慄する。


帝都で見た「凄惨な現場」。


あれが再現されている。


そして、今はそれ以上に恐ろしい光景。


あの時にはいなかった、「異形の者」。


愕然となる一同。


そこへ―――――


「ハル!あっち、黒い『デベソ憑き』がっ!」


コレットの指示。


「分かった!」


ハルが駆ける。


「どっこいしょぉぉっ!」


ハルが【土寄せ棒】の「アンジェ」を振るう。


操られた人を叩く。


――――――スン


菌糸が音もなく消えた。


「あ?え?ああ……」


解放された人が膝をつく。


「ああ、よかっ…た。助かった」


泣きながら自身の体を抱く。


(ああ、あの時、彼がいてくれたら……)


そんな切ない後悔が「白銀の虎」たちに浮かぶ。


そして、それは兵士たちの体から「黒い靄」が漏れ出すきっかけとなった。


「みなさん、ここで立ち止まっていられません!」


ハルが叫ぶ。


「僕たちは託されたんだ。『みんなを救ってくれ』って」


「たくさんの人を救いたいんです」


「エリーゼさんたちの代わりに!」


ハルが言う。


「どうか、僕に力を貸してください」


その言葉に兵士たちの顔に「光」が灯る。


そして、「黒い靄」が「スン」と消えた。



「ハルっ!」


コレットが叫ぶ。


地面に手を当てている。


「ここの下に『いる』」


瞳が金色に輝いている。


「わかった」


そう言って、【棒】を構える。



――――【星霜の洗滌エトス・カタルシス



土起こしをするように棒を地面に振り下ろす。



―――――ススススン


まるで波紋が広がるかのように、「何か」が走り抜ける。


地面の中に張り巡らされた「何か」が消える。


(「瘴気」が消えた)


コレットはハルを見る。


相変わらず、何の「色」もない。


何も考えていない。


その「無色」で、「透明」な彼に―――



―――いや、やめておこう。


ここでは、必要のないことだ。


私は、彼の「相棒」として力を尽くすだけ。


この地に救う「魔」から、皆を救う。


ただ、それだけだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。