第169話 ニョニョッと参上!ニョニョッと解決!? 愛の「張り手」ハンドレットフォールド?
―――時は遡り、ハルたちが壁内へ突入した頃。
ハティ、クロエ、ジャンヌ、コリガンは「後詰め」として近くで待機していた。
何が起きるかわからない。
だからこそ、コリガンの使う【失墜した規範からの隠遁者】で非常事態には逃走をはかる。
逃走経路の確保や殿にハティを使う。
クロエやジャンヌは伝令役でもある。
「ただいま~」
本家・アンジェが転移魔術を使って戻ってくる。
「お帰り。みんなは壁内に入れたみたいだね」
「まぁね~」
そう言うものの、表情は険しい。
「何事もなく進めばいいけれど……」
「そう簡単にはいかないものね」
ふたりは城塞都市を包む「瘴気」を察知していた。
「共和政府が後ろ盾ってことは、追い詰められたら『眷属』を投入してくるわね」
「『恩寵』を使うことも考えられる。相手にどれだけのストックがあるかはわからないけれど」
そう話している時だった。
遠くから土埃を上げ進む一団が見える。
「軍旗を掲げているニ!『共和政府軍』だニ」
本営を叩かれたものの、分散しているため、残りの兵もいるのは確かだ。
「軍旗を確認したニ。『破甲のリュック・シュナウザー』だニ」
その言葉にハティは眉を顰める。
「リュック・シュナウザー」とは共和政府の双璧をなす将軍だ。
軍事司令として最高権力を持つ「ウォルター」の元、実直に任務を遂行する武人。
弓将の「ランドルフ」と違い、「リュック」は重装備の兵を率いて戦う「戦斧使い」。
(アレが参戦すると、「ロナウ」を取り逃がす恐れが出てくるな……)
「アンジェ」
ハティがアンジェに声をかける。
「リュックを野放しにしておけない。ガレットかティアのどちらかが応戦したとして、子供たちのフォローに手が回らなくなる」
魔狼騎士団たちは強い。
だが、「恩寵」を使われたり、「眷属」が出てきたりするとなると、どうしても苦戦は避けられないだろう。
「わかった。気をつけてね」
アンジェがハティを送り出す。
「ちゃんと、私がお留守番しているから」
そう言ってにっこりと笑う。
「いってらっしゃい」
◇
フェンリルナイトとティアが縦横に駆け、兵を足止めしている。
ガレットも身の丈ほどもある大剣を振るい、兵たちを薙ぎ倒していた。
「……?」
ガレットは空気の変化に周囲を見渡す。
「おい、お貴族様」
ガレットがティアを呼ぶ。
「なんだ?『脳筋』」
「だれが『脳筋』だ!ちゃんと頭使ってんぞっ」
「そうか……で、なんだ?」
「ああ、空気がピリついてる。ひと嵐くるか」
ガレットが言う。
「相手もバカではないからな。援軍か伏兵か」
ティアが同意を示す。
「ガキどものお守を頼めるか」
「構わんぞ」
短いやり取り。
ガレットは『足場』をつくって上空へと駆けあがる。
「援軍が来やがった!敵は『戦斧使い』だ」
ガレットが状況を伝える。
「俺は、奴らの足止めに向かう。頼んだぞ、『お貴族様』!」
ガレットがさらに「足場」を蹴って向かおうとする。
「おい」
ティアが声をかける。
「なんなら、『全滅』させてきてもいいんだぞ?」
ニヤリと笑うティア。
「ハッ、それなら遠慮なくやろうかね」
ガレットも不敵に笑う。
◇
ハティが野を駆ける。
リュックの足止めに向かうためだ。
だが、それを阻む者がいる。
どーーーーーん
黒い重力を纏った「矢」
躱したハティだったが、近くの地面に突き立つとともに「重力波」を放つ。
「おおっ!?」
さすがのハティも「超重力」を受けては動きが止まる。
(この「矢」はランドルフ……「エガちゃん」だな)
援軍の足止めをするつもりが、伏兵のランドルフによって足止めされる。
(共和政府の双璧がそろい踏みとは、相手も後がないということか)
またも、「矢」が放たれる。
(しかも、また「僕の背中」を狙ってくるな)
背後からの狙撃。
本営の時と違うのは周囲の被害を気にせず、全力で攻撃してくることか。
重力の矢をかわしながら狙撃手の位置を探る。
(相変わらず、身を隠すのがうまいな)
ハティの「索敵」にひっかからない。
(どうする?応じながら移動するか?さすがに仲間を巻き込むなら「重力矢」は使えまい)
移動しながら思案する。
◇
重装備の騎兵たちが駆ける。
「っ!?」
前方に人がいる。
2メートルに及ぶ巨躯。
鍛え上げられた体に獣じみた闘気を放っている。
大剣を担ぎ、両頬に傷のある男。
「ガレット・グランハートだ!」
兵が叫ぶ。
ガレットは剣を腰だめに構えた。
騎兵たちが加速する。
軍馬の蹄で踏みしだこうと迫った。
「っ!」
無言の気合。
巨大な剣が振るわれる。
馬ごと兵が斬られた。
それも、一度に4騎。
勢いのまま地面に転がる兵士たち。
「ふぅぅぅぅ」
息を吐く。
「本盗はさせないぜ?」
不敵に笑う。
騎兵たちは取り囲むどころかそのまま脇を駆け抜けていった。
「あっ、おおい!俺を無視するなっ!扱い悪すぎだろ」
不平を鳴らすガレット。
それを尻目に騎兵たちが去っていく。
「くっそ、アイツら」
ゴガァァァァア!
破壊音が響き渡る。
土砂が撒き上がった。
「おいおい、奇襲かよ、おっさん」
戦斧の一撃を紙一重で躱したガレットが言う。
「黒鷹、ガレット・グランハート。お前の相手は私だ」
立派な口髭を生やした男が言う。
ガレットよりも体が大きい。
「元帝国軍人のおっさんが、出世したなぁ。今じゃあキャプテンだものな」
「おまえの例えはいまいちわかりづらいな」
「そうかい」
互いに油断なく構え、機をうかがう。
(やっぱり、手ごわいな……)
ジリジリと距離を詰める。
『っ!』
互いに得物を振るう。
金属を打ち合わせる鈍い音が響き渡った。
◇
ハティへの狙撃。
しかも、過たず背後から。
「黒い重力」を纏ったその一矢は、周囲を薙ぎ倒しながら迫る。
(ちょっとしつこすぎやしないかなぁ)
ハティが思った時だった。
―――――ニョ
なんともぬるっとした音がする。
「ふぅぅぅぅん」
気合と共にその「矢」は弾かれる。
着弾と共に炸裂するはずの「重力波」すら。
「旦那様っ、ご無事ですか?」
エルザ・ジグニュール・ブライトガードだった。
「旦那様をストーキングするなんてっ、なんてけしからん奴でしょう」
(君が言えた義理じゃないよね)
エルザの言葉にハティが心の中でツッコミを入れる。
「しかも常に後ろから攻めるだなんて……」
そこでエルザが頬を赤らめてもじもじする。
「あらやだ。私ったらはしたない……」
(ホント、なんなんだろ……この人)
ハティはその顔を呆れたように見る。
(とはいえ、助かったのは事実だからなぁ)
「え?あれ?」
エルザが動揺する。
「助かった。ありがとう」
ハティが礼を言う。
「~~~~っ!」
エルザはその言葉を噛みしめるかのように拳を握った。
それを余所に、ハティは合理的に考える。
(う~ん、エルザがいてくれたら、防御面は心配ないよなぁ)
またも「黒い重力の矢」が飛んでくる。
「あっと、危ない」
今度はハティがエルザを抱きかかえて避ける。
「ふああああああっ」
エルザが歓喜の声を上げる。
彼女には周囲がバラ色の花園に見えた。
(はあああん、そんなっ急に迫られるなんてっ!いけないわっ)
あくまでも彼女の頭の中のこと。
誰も「君がいけない人なのだよ」とはツッコめない。
(そうだ!彼女に背中を守ってもらいながら「増援」を食い止めに行こう!)
ハティは「名案だ」と自画自賛した。
(とはいえ、あまりに虫のいい話。彼女が同意してくれるか)
「エルザ……僕のお願いを聞いてくれるかい?」
抱きかかえていたエルザを降ろしながらハティが言う。
真剣な顔で見詰めるハティ。
――――ごくり
エルザは唾を飲み込む。
フンス、フンス……
鼻息を荒くしてエルザは彼の言葉を待った。
「君に、僕の背中を預ける。これから僕を守ってくれるかい?」
「……」
わずかな間。
エルザは信じられないという顔で固まっている。
そして、鼻血を吹いた。
(こ、こここれはっ「ぷろぽぉず」ですねっ!)
エルザは鼻血にまみれた手でハティの手をとった。
「はい!はいぃぃっ!一生、365日!24時間、守りますぅぅ!」
ハティが嫌そうな顔をしたのは言うまでもない。
「黒い重力の矢」が迫る。
だが、今のエルザにとってそれは「キューピッドの矢」に見えた。
(もう何万本でも、ウェルカムです!)
ばちこーーーん
盾を使わず、「張り手」で矢を弾き飛ばす。
彼女の心の声が届いたのか、今度は数十本の矢が降り注いでくる。
「オーホッホッホーーー」
高笑いをしながら「張り手」をかます。
あまりにも高速で繰り出されるため、腕が何本にも見える。
(おお、すごい。やはり彼女は心強いな!)
ハティは感心する。
「さぁさぁ、ドンとこーい!ですわぁぁ」




