第167話 チャラ男はいらないのです!ロナウ(脂身くん)の執着と黒い菌糸のバイオハザード再び!?
階段を騎馬で駆けあがる。
驚いた。
なんという馬術だ。
馬も階段を踏み外すことはない。
「エリーゼ様っ!」
フリードさんが叫ぶ。
最奥の謁見の間。
そこへフリードさんが先行して踏み入る。
――――ドッ!
すさまじいまでの魔力が放たれる。
閃光がフリードさんを包んだ。
「フリードっ!」
エリーゼさんの声。
「問題ありません!」
煙の中、フリードさんの声がする。
……てか、無傷って何よ?タフ過ぎっ。
「それよりも、馬をダメにしてしまいました」
気落ちする。
そこなのか?
「大丈夫」
そう言ってエリーゼさんが下馬する。
倒れた馬に近寄り、「回復の法術」を施す。
馬は復活した。
◇
「いきなりとはご挨拶ではありませんか『ロナウ』」
エリーゼさんが部屋に入る。
主人が腰かける上座に座す男。
彼が、静かに言った。
「我が家を脅かす賊を払いのけただけだ」
なんとも傲慢な物言い。
元はあなたの物ではないはずだ。
彼が立ち上がる。
―――――っ!?
僕は驚いた。
ロナウ・スペンサーは……ハティさんにそっくりだった。
「あなた、その姿……」
エリーゼさんも動揺を隠せない。
「どこかおかしいか?もとより、私は『美しい』オーラを放っていたが」
「嘘をおっしゃい!」
エリーゼさんが叫ぶ。
「確かに、髪の色は白銀でした。目の色は私と同じ、ブルー」
「でも、あなたはずっと、『おデブちん』のロナウでしたっ!」
うっそ!?
じゃあさ、きっと頑張ってダイエットしたんだよ。
言わない方が良くない?
ほら、ロナウさん、肩を震わせているよ。
「誰のせいだと思っている?」
あれ?
「お前たちが、私を追放したっ!だから、このような『貧相な』体となったのだ」
えええ?今の方がいいと思うよぉ?
「ああ、嘆かわしい!この顎を見よ!魚のエラのようではないかっ」
いえいえ、シュッとしていて素敵ですよ。
「ああ、柔らかくも艶やかな私の肌が……」
……マクスウェルの一族はマトモな人はいないの?
「私は誓った。お前たちに償いをさせる」
「お前たちの奪った『脂身』を取り戻し、失った父の名誉を取り戻すと」
う~ん、この人しんどいわ。
「故に――――」
ロナウが手を広げる。
魔術が発動した。
「ここからは、『己の技量でのみ』語るのだ」
―――『【アーザ・ロウ(浅瀬の決闘)】』
◇
石柱が現れる。
それを結ぶかのように結界が張り巡らされ、内側には「くるぶし」が浸かるほどの水をたたえた「浅瀬」が生まれる。
「どうした?」
ロナウが言う。
「怖いのか?」
その挑発に、エリーゼさんが鼻を鳴らす。
「バカを言うんじゃありません」
歩み入る。
「待ってくださいっ、そこは――――」
フリードさんの言葉に、エリーゼさんは自身の唇に指を立てた「しー」って。
(せっかくノリノリでいるんです。もうちょっと調子に乗らせてあげましょう)
やっぱり、エリーゼさんはエリーゼさんだった。
そのまま結界に踏み入る。
「クッ」
ロナウが引く釣った笑いを浮かべる。
「かかったな!ここは『魔力無効空間』」
「お前のような女、魔術が使えなければ、どうということもない」
ロナウは自信満々だ。
「そうですか」
エリーゼさんは何の感慨も示さない。
「どうでもいいので、さっさと決着をつけましょう」
双剣を抜き、構える。
腕を交差させる構え――――
それはかつて「十字の騎士」が得意としたもの。
「ふん、どこまで思い上がったものか」
ロナウは「槍」を構えた。
◇
冗談じゃない。
僕は正直に思った。
ふつう、こういった敵は「ザコ」なんじゃないのか?
それが、ロナウは違った。
高速の刺突。
繰り出したと思ったら、すぐに手元に戻っている。
エリーゼさんが近づけない。
脛なども容赦なく狙う。
しかも、「突き」技だけじゃない。
薙ぎ払いや叩きなど、さまざまに変化する。
エリーゼさんが斬り込むが、受けられる。
それどころか、いっこうに距離が縮まらない。
厄介だな……あの「円錐」。
そう、ロナウの前に円錐形の守りが構築されている。
そのおかげで、いくら斬り込んでも、距離を縮めようとも、『辺』にそって外側に押しやられる。
だから、円錐の内側にいる「ロナウ」に届かない。
これは、純然たる「技術」だ。
「なかなか、やるようになったではありませんか」
エリーゼさんが笑う。
「ぬかせ」
ロナウが槍の穂先を下に向ける。
明らかな「下段」の構え。
エリーゼさんが踏み込む。
足元の槍を、踏み折ろうと――――
その瞬間だった。
槍の穂先がエリーゼさんの喉を狙うように跳ね上がった。
ロナウが左手を支点に、右手で槍を押し下げたんだ。
シーソーのように押し下げられた石突。反対に穂先が上がる。
エリーゼさんが体をひねる。
けれど、しなる槍が、勢いを増して彼女の頬を割いた。
「っ!」
けれど、彼女は止まらなかった。
反転しながら、腕を振るい、剣先をロナウへと叩きつける。
ロナウは咄嗟に槍を引き戻して受けようとした。
―――ゴシャッ!
鈍い音がしてロナウの体が弾き飛ばされる。
エリーゼさんが片腕で振るった剣によってだ。
「ぬるい。軽い。そして――――弱い」
血に濡れたエリーゼさんが言う。
冷たい光を放つアイスブルーの瞳。
それでいて、遠くからでもわかる威圧感。
これが、「最優の聖騎士長」。
十字の騎士、エリーゼ・カナン・マクスウェル……
「技量は認めますよ?」
ニタリと笑う。
「でも、そもそも論として」
エリーゼさんがロナウに追撃をかける。
ロナウが槍の柄で受けようとする。
グシャ―――――
そのまま押し切られて剣を体で受けてしまう。
「あなたの槍には『重さ』がないのです」
◇
圧巻だった。
両腕から繰り出される剣撃。
それは暴力だった。
グシャッ!ゴシャッ!バキッ!
どう考えても鈍器で殴る音だ。
「軽いんです!ドイツもコイツもっ!」
斬ると言うより殴り続ける。
「ハティやガレット、フリードやルーク!ウォルターみたいに打ち返してきなさい!」
「彼らの骨をも軋ませる一撃に比べれば、アナタなど軽すぎるのです」
「掠ってもなお『骨を削ろう』とする意地が、アナタにはないのですよ!」
もはやそれは「折檻」だった。
一方的に打ち据える。
「ちょっとやそっと齧っただけで、物まねしてわかったつもりになっても『本物』にはなれないのです!」
「彼らがっ、私たちがっどれだけの時間と月日を費やしたかっ!」
「自分の命を危険に晒して練磨したかっ」
エリーゼの一撃でロナウが転がる。
「そのすべてが『剣』によって語られるのです」
◇
しばらくロナウは動かなかった。
やがてゆっくりと体を起こす。
「ロナウ。もうやめましょう」
エリーゼさんが言う。
「伯父様の件は、不幸な行き違いでした」
「私にも責任の一端はあります」
「でも、血のつながりがある者同士で殺し合う道理はない」
「どうか、ここは槍を納めて、投降してください」
エリーゼさんの説得にロナウは答えない。
「ふ、ふふふふ」
不意にロナウが笑う。
「よくもまぁ……」
ロナウが顔を上げる。
目が、琥珀色に輝いている。
そして、白目が夜の闇のように黒く―――――
「ふざけたことをっ!」
ロナウは【アンチマジックフィールド】を解いた。
「時は来た。この『恩寵』によって私は全てを従える!」
ロナウが息を吸いこんだ。
『聞け、諸人よ!』
『私は、君たちの悲しみを知っている!』
その叫び声はただの音の反響ではなかった。
見えない波紋が広がる。
◇
「あ……ああああっ」
人々が苦しみ始める。
「アアアアアアアアアアッ!」
叫ぶとともに体から糸状の物が生える。
妙に、粘っこく、弾力のある「菌糸」のようなもの――――
それは、過去、帝都で人々を襲った「不浄の悪魔」であった。
ジャガイモ仲間の皆さんへ
ストレスを溜めていませんか?
また、理不尽な目に遭ってませんか?
取りあえず、深呼吸。
そして「スン」って意識の外に出しちゃいましょう!




