第162話 「神殿爆破事件」勃発!突然の別れと絶望と。そして家族の支え。
「ここまでは、気楽に話せただニが……」
クロエがふと話を区切った。
眉根を寄せる。
「このあとは、ちょっとマジな話。キツいだニ」
そう言って僕を見る。
ふざけてばかりのクロエ。
でも、まったく善悪や状況が理解できないわけじゃない。
だから、この顔をしているというこは、話の「核心」に移るということだ。
そして、クロエは静かに語り出した――――
◇
「騎士の叙勲が決まった」
唐突な通達。
「まだ、従騎士になって2年足らずですが」
私は答える。
「だからっ!前代未聞なんだっ」
モルガーナが机を叩く。
「ほんっとぉぉぉにっ、お前は何してくれとるんだ」
彼女が怒鳴り散らす。
「職務に忠実に」
「なら、この半年で、帝国幹部をことごとく斬り殺しているのは何だ」
「あ~」
私は困った。
帝国八大竜将とかいうが、火竜のオルドレイクをはじめほとんどが強敵ではなかった。
にもかかわらず、自軍の兵を多く負傷させている。
私は必然的に要救護者の多い彼らのいるとこへ向かう。
そして、決まったように邪魔をされ、因縁をつけられる。
だから、人命救助の邪魔どころか量産するので退散してもらった。
「とにかく、騎士の叙勲が終わったらお前は実家に戻ることになる」
言葉に私は驚いた。
「正式な跡取りだ」
すこしだけ、ほんの少しだけ私は泣きそうになった。
私は、本当に「マクスウェル家」を継いで良かったのか。
2年前、モルガーナに言われても、それでも自信はなかった。
「これだけの軍功を挙げた者を私は見たことがない。しかも、救助を主としているのにだ」
モルガーナが続ける。
「しかも、医術、薬学もよくぞ短期間で修めた」
「モルガーナさんのおかげです。多くの症例にも立ち会いました」
「それでも、自慢の弟子だよ」
「人の命を救う事、その尊さを教えてくださった我が師に心よりの感謝を」
「それは私の誉だ。クレア姉さまにも恩返しができた」
◇
私は騎士叙勲を受け、他の人よりも数カ月早く士官学校を卒業した。
これで本当に良かったのだろうか。
もっと学ぶべきことがあるではないか。
そんな思いを胸に、実家に戻る。
家族は温かく迎えてくれた。
出迎えてくれたお父様とお母様。
少しお痩せになったようにも見える。
「おかえりなさいませ。姉上」
ハティも出迎えてくれる。
―――――驚いた。
父にそっくりだ。
それよりもとんでもないイケメンに成長している。
長い髪を後ろで一つに結んでいる。
前髪は無造作に垂らしている。
姉弟おそろいの跳ね毛はそのまま。
ダークブラウンの目はやや切れ長であるものの睫毛が長い。
顔立ちもやや面長ながら無骨さがなく、中性的。
体も無駄なく引きしまっている。
「エリーゼ?」
「姉上?」
私の様子に両親も弟も首をかしげる。
「あ、いえ。ハティが見違えるほど成長していたので」
「そ、そうですか。お褒めいただけるとは嬉しいです。姉上もお元気そうで重畳」
少年のように笑う。
やばい、かわいい。よだれがでそう。
後ろに控えているフリードとルークに視線を移す。
背が高くなって体つきもたくましい。
あ、二人とも髭を生やしている。
久しぶりの実家と変わらぬ部屋。
ちょっとだけ変わったけれど、それでも変わらない家族。
――――嬉しい。
何とも言い難い幸福感がある。
私は、父の副官と言う立場に収まった。
マクスウェル領の運営を手伝い、出陣の折には同行した。
フリードとルークは私の補佐として変わらずに務めてくれた。
弟のはずなのにルークの方が兄より背が高い。
そして、ちょっとおっさんぽい見た目。
顔の右側に痣があるフリード。
少し険のある神経質そうな顔。
少し癖のある黒髪の兄弟。
昔からどちらも顔立ちは整っていてイケメンなのだ。
「あれ?結婚は」
私は無礼を承知で聞いた。
二人とも「マクスウェル家に身命を捧げておりますので」と返した。
いや、忠誠心はありがたい。
けれど、どうかこの二人も幸せになって欲しい。
ゆくゆくは私が跡目を継ぐ立場というのを父は公言していた。
戦場にあって私は危なげなく指揮を執った。
負傷者の回収も率先して行い、何より戦死者を減らすことに注力した。
父は満足げだった。
私に最も教えたかったことが身についていることを確信したのだろう。
◇
不幸というのは連鎖するものだ。
一度堤防が決壊すると、とめどなく濁流が押し寄せるように、勢いは留まらない。
私は、この日のことを忘れられない。
運命というものがあり、神がその差配を採っているのならば、なぜこのようなことをしたのか問いただしたい。
そう、私から愛しい人、ウォルターを奪った。
彼と共に歩む未来をなぜ奪い給うたのか。
私がマクスウェル領に戻って数か月後。
領地の運営に忙殺されていたこの日、王都で騒ぎがあった。
神殿が爆破されたのだ。
警護にあたっていた神殿騎士団の部隊が壊滅。
その警護担当がウォルターの率いていた隊であった。
翌日には王国全土にこの報が届けられた。
近衛騎士団も出動し、事態の究明と対応がなされた。
諸侯も王都での変事とあっては人をこぞって送り、支援を始めた。
私もマクスウェル家の当主代理として、すぐに出立した。
王領に到着して別邸に入らずそのまま王都に入り、神殿へと向かった。
◇
視界にはいたのは瓦礫の山だった。
いつも通り抜けていた門も壊れ、鉄扉が落ちていた。
規制線が張られていたが、無視した。
制止する兵もいたが、私が誰であるかがわかると通してくれた。
進むにつれて現場のただならぬ状況がわかってきた。
神殿内は内側から破壊されていた。
瓦礫が外側に向けて飛び散っていた。
「その先はたとえマクスウェル様でも」
そう止める者があったが無視した。
私は爆破の中心地と思われる場所、神殿中央へと足を進めた。
「エルか?」
モルガーナと救護隊のみんながいる。
「これは、一体?」
私は彼女らに問うた。
「正直、私にはわかりかねる」
モルガーナが首を振った。
騎士たちの装備がいたるところに転がっていた。
血の跡もあった。
「負傷した者は?治療中ですか?」
事故が起きてから日が経っている。
要救護者は収容されていることだろう。
「いや、『いない』んだ」
モルガーナが言う。
「何が『いない』んですか?」
嫌な予感がした。
私は震える声で彼女に尋ねた。
「ここにいたはずの神殿騎士団が『いない』んだよ」
モルガーナが言った。
私は弾かれたように動いた。
そして探した。
あの人の物が残っていないか。
なにか、彼の、彼がいたと裏付けるものがないか。
けれど、ウォルターの身に着けていたものは何一つ残ってなかった。
私は希望を持った。
もしかしたら、ウォルターはこのときいなかったのではないか。
何かの偶然が重なって、彼だけその時、この場所にはいなかった……
「エリーゼ殿」
ルシウス様が私に声をかけた。
この神殿の警備における最高責任者。
「何があったのですか」
私はことの経緯を問いただした。
「ここでは、申し上げられない」
気ぜわしく周囲をうかがう。
「ここでは…」
なおも同じことを繰り返すルシウス様。
「では、どこでならお話しいただけますか」
私は食い下がった。
「お願いします。何があったのですか……ウォルターはどこにいるのですか」
私の声は震えていた。
おそらく血の気が引いていたのだろう。
いつもは頭に血をのぼらせて喚き散らす私が、こうも大人しいことにルシウス様も気持ちをくんでくれた。
「王領騎士団の詰め所に間借りしています。そちらで」




