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第161話 エリーゼの「初恋」。え!?そんなことまでしてたの?



神聖王家は女神を祭っている。


その女神の聖遺物や邪神の封印を警護するのが神殿騎士団である。


ちょっとだけ興味があった。


彼らは任務の特性上、戦場に出ることはない。


貴族の子弟を中心に魔力と武力に優れた者から選抜しているのでその実力は侮れない。


全員が「聖騎士ホーリーナイト」。

上位の者となると「神聖騎士パラディン」だ。


父と共にその演習を見学したことがあったが、見事というより他はなかった。


(ふふぅん。実力だけじゃなくて見目も麗しい「美青年」の集まり)


(これはもう、「美青年エナジー」をチャージできる機会ですね!)



私は勇んで神殿まで行く。


もちろん走って。


特製スーツを身にまとって。


ズシン、ズシン――――


軽やか(?)な足取りで市街地を走っていると、声をかけられる。


「虎の嬢ちゃん、今日も精が出るね」


私は走ったまま笑顔で手を挙げて応じる。


「この間、うちの人を助けてくれてありがとうよ」


中年の女性がこえをかけてくる。


「これ、持っていきな」


露店の親父さんが私にリンゴを一つ投げてよこす。

よく熟れていて良いものだ。


「ありがとう」


私はお礼を言って受け取る。



神殿の門まで到着すると、衛兵に声をかける。


「はい。うかがっています」

衛兵は表情を崩さない。


まあ、隊員が重りをつけて走ってくるのはいつものことなのでしょう。

ちょっとはリアクションしてほしかったです。


案内されて神殿内まで進む。


「ここで、少しお待ちください」


そう言われて応接室で待つことになった。


なかなかに瀟洒な部屋である。


―――ズシ


ビロードのソファもふかふかだ。財力がわかる。


あ……沈む。


壊したらどうしましょう。

こうなれば「空気イス」ですね。



しばらくして、中年の騎士が扉を開ける。


――――パタン。


あれ?閉められました。


扉の外で話す声が聞こえる。


(ウォルター、「エリーゼ殿」がいらっしゃったと聞いたが?)


(はい。私もそのように聞いておりました)


(では、なぜ「ゴーレム」の仮装をした者が「空気イス」をしているのだ?)


(なんです、それ?)


扉が開いた。


今度は金髪の青年がこちらを見る。


――――パタン。


また閉められてしまいました。


(本当ですね。「ゴーレム」みたいな衣装を着た何かが「空気イス」をしていました)


(で、あろう。私たちは幻覚でも見ているのか)


(しかも、なんです?あの「デバフ」の特盛。真っ黒いオーラ纏ってますよ)


(「呪い」を受けているのだろうか?救いを求めに?)


(それなら、教会に駆け込むはずです。まして、「空気イス」の意味が分かりません)


何やら揉めていますねぇ……


しかたありません。


私は扉に歩み寄って静かに開いた。


「あの~、すみません……」


ビクゥゥ!


静かに声をかけたものの、ふたりは飛び跳ねた。


「な、なにか、用かね?」


「いえ、書状を届けに来たのですが」


私の言葉にふたりはじろじろと私を見る。


「モルガーナ様よりお預かりしました」


なおも私を眺めている。


……うん。金髪の彼、イケメン。


ぱっと見で好みのタイプ。


実は私は自他ともに認めるイケメン好きなのである。


教養や中身は当然であるが、まずは見た目である。


まず、背が高いこと。


175センチオーバーであるのが、基本のラインである。


そして、細面の中性的な顔立ちが好みだ。


鼻立ちが通っていて、目元が涼しげなのが好き。


ちょっと切れ長だったらなおいい。


体つきはやや細身の筋肉質がいい。


髪の色や肌の色はあまり気にしない。

だが、長髪が似合うのなら文句なしである。

ここまでの説明で分かるように、実はハティは私の好みの外見をしている。


今はまだ子供で、あどけない感じがあるけれど、数年後にはぜっったいにイケメンになる。


あ、ちょっとよだれが。


装いも私の趣味が反映させている。ふふっ、絶賛教育中。


ああ、いけません。いけません。


目の前のイケメンに……いえ、任務に集中しなくては。


「救護隊の方で……まちがいないですか?」

イケメン君が尋ねる。


「はい。私はエリーゼ・カナン・マクスウェルと申します」


恭しく社交界の用のお辞儀をする。


そこで、ふたりは「ほっ」と息を吐いた。



「こちらをお納めください」


私は書状を渡す。


中年騎士は受け取り、私に椅子に掛けるように促す。


一礼をして私は腰を下ろす。


おっと、沈んでしまう。


空気イス再開です。


中年騎士も向かいに腰を下ろすと、書状の封を解いて確認をする。

イケメン君は騎士の後ろに控えて直立したままだ。


「内容は間違いがないようですね。サインも本物だ」

騎士は言うと、顔を上げる。


「2週間後にとりに来てください。この数量ですので、荷馬車をこちらで用意します。輸送を手伝いますよ」


穏やかに笑う。

人の好さそうな物腰の柔らかさだが、その実武力面では相当な手練れである。


「承知いたしました」


私も微笑んで席を立とうとする。


「あ、お急ぎですかな」

騎士が声をかける。


「え、いえ」

私は首をかしげる。


「噂に名高い戦乙女とお会いできたのです。少し、お話を伺いたいものです」

そう騎士が申し出る。


「私など、大したことをしておりません。噂も誇張されたものです」


「ご謙遜を。ウォルター、お茶の用意を」


「はっ」


イケメン君の名前はウォルターというのですか。


さっそく「イケメン帳」に登録ですね。




この中年騎士とお茶を付き合った。


この騎士、神殿騎士団の団長でルシウスといった。


イケメン君ことウォルターは騎士団の大隊長。

ゆくゆくは副団長候補というわけだ。


ルシウス卿は私の話に少年のように目を輝かせた。


「エリーゼ殿、次にお会いできるのが楽しみです」


別れ際にそういってくれた。


門までウォルターが同行してくれた。


神殿から出ると、ウォルターが口を開いた。


「ルシウス様の手前、口出しを控えていたが」

そう断ってから私を見る。


「いささか、無礼ではないか」


はて、私は何かやらかしてしまったのでしょうか。


「まず、その装備は何だ。貴人との謁見にコスプレしてくるとは」


ああ、そのことですか。


「まして、そのリンゴ。そんなものを持ってくる者などはじめてだ」


腰のバッグから覗くリンゴを指さす。

「空気イスなんて、わけがわからん」と眉間を抑える。


「あら、それは失礼いたしましたわ」


私は微笑んで返す。


「……わかればよいのだ」

ウォルターはそれで矛を収めた。


が、私は別である。


「民が厚意でわたくしに捧げてくれたものを『そんなもの』呼ばわりする狭量な騎士様。常在戦場で鍛錬を欠かさぬ者を『無礼』という怠惰な騎士様。次にお会いする時には着飾ってきましょうね」


「ふふん」と鼻で笑って差し上げる。


「ぐっ……」

ウォルターの眉間にしわが寄る。


「どうも、失礼いたしました。さようなら」


ちょうど門まできたので、私は手を振って門扉をくぐる。



私とウォルターの出会いはこんなだった。





わが国での医薬品は概ね2種類ある。


神殿騎士団所属の法術師によって精製されたもの。


市販の主に魔術師によって精製されたもの。


効果はそこまで隔たりがない。


けれど、神術師の手によるものは加護が与えられているので信心深い者に重宝された。

アンジェのような宮廷魔術師もいるので、けして魔術師の精製したものが粗悪品ということはない。


魔術師の方が新薬を開発したり、多岐にもわたって薬をつくったりする。

さらに、安価であったりもする。


要はブランドがあるかどうかだ。


王国の国軍に所属する救護隊は、神殿騎士団の医薬品を使うことになっている。


だから、私は毎度お使いで神殿まで行くことになる。




私はお使いの度、ウォルターと口論をする。


でも、嫌いじゃない。

いや、むしろ惹かれていた。


だって、教養もありイケメン。

堅物だけれど、とても優しい。

剣の腕もたつ。

我々姉弟ほどではないけれど。


ウォーロック卿の長男だったと知ったのもすぐだった。


口喧嘩をするのは相変わらず、でも、時々私に気づかいをする。


ウォルターに会うのは、私にとって楽しみになっていた。



――――そうして2年ほど経った。


10代半ばともなるとそろそろ結婚相手を探す年頃。


だいたいが50歳を過ぎると余生を考えるのだから、当然か。


だから、私と一つだけ年の違うウォルターにも見合い話があり、結婚についても話は持ち上がっていた。


けれど、ウォルターはことごとく断っているという。


だから私は、疑問を口にした。



―――ズシン、ズシン


いつものお使いの帰り。


いつもの鍛錬着を着て神殿の廊下を歩く。


私よりも頭二つ分は背の高い彼と並んで。


「ウォルター」


私は彼を呼ぶ。


「なんだ?」


「この間、聞いたのですが、お見合いを断り続けているそうですね」


―――ズシン、ズシン


「身を固める気はないのですか?かわいそうなご令嬢ばかりつくってばかりいないで」


あれ?


ウォルターが立ち止まった。


彼が肩を震わせている。

怒ってる?何か気に障ることを言ってしまいましたか?


「おまえは、本当に人の気も知らないで!」


ウォルターが声を荒げた。


私は驚いた。


彼の怒声にではない。


気づけば、私は壁を背にしていた。


ウォルターは私を挟み込むかのように壁に手を当てる。


いわゆる壁ドン。


「なんで断っていると思う?なぜ、気づかない」


「え、あ?え……」


顔が近い。肩を掴まれる。


「妻を迎えるとしたら、お前だと決めている。エリーゼ」


「ふぁっ!?」



愛の告白。



不意打ちだった。


そんな風に思われていたとは。


私は固まってしまった。


そんな私にウォルターの顔が近づいてくる。


……え?なに?何が起こったの?


なんなのだ。なんなのだ、この感触は。


ウォルターの顔が離れる。


その途端、私はわけもわからず、走り出していた。


全速力で詰め所に戻った。


鍛錬場に駆け込むと奇声を発しながら剣を振った。


だめだ、だめだ、おかしい。何かおかしい。ウォルターはイケメンだ。見た目がいい。

堅物で、小言を言ってくる。気づかいをしてくれて優しい。会えば口論になる。

話題こそ少ないが、いっしょにいて気をはる必要がない。家族以外でもいっしょにいて気が楽な人だ。会うのが楽しみで、いないと残念な気持ちになる。


……弟のハティと比べても!



「ふぉぉぉぉっ!」


私は奇声をまたもや上げ、木剣を振るう。


――――剣が折れた。


私は、しゃがみ込む。


顔が熱い。



――――私も、彼のことが好きだったんだ。



そのあと、私は取って返して神殿まで走った。


門番には「忘れ物をした」と告げた。


彼らは快く通してくれた。


「ウォルター!」


私は彼の名を呼んで走った。


彼はすぐに出てきた。


「私とお付き合いしてください!」


出会いがしら私は手を差し伸べて頭を下げた。


「は……」


ウォルターが息をのむのが聞こえた。


「てっきり、拒絶されたのだと」


彼の呟きが聞こえる。


「お付き合いしてください!」


もう一度私は言う。


ややあって


「こちらからもお願いします」


ウォルターが手を取った。


こうして私たちは付き合うことになった。


と、いっても初心なふたりだから、本当に子供のままごとのようなものだった。


休暇の日程を合わせてデートもした。


彼は中々にエスコートが上手かった。


それでいながら不器用さが出ているところにも好感をえた。


私が悪戯で「あ~ん」してと言うと、赤面して固まってしまう。


遠慮がちに私の口に含ませてくれる。


その様子に私は「幸せ」を感じた。


―――――そう、楽しかったのだ。



数カ月、こうして過ごして、彼の人となりを知り、在り方を知った。


彼と共に在れたならば、困難も共に過ごせようかと思うほどに。




匂い確認については保留となった。


というか、保留にした。


クロエと【棒ジェ】さんの二人でとにかくうるさかったから。


そして、改めて話し始めたクロエ。


「……」


僕は、何とも言えない思いで聞いていた。


僕とほぼ同年代の頃のエリーゼさんの話。


いや、聞きたいと言ったのは僕の方だよ。


でもさぁ、なんか……本当にちゃんとした(?)「恋愛」っぽくてさぁ。


複雑だよ。


〈ロッシェ、ロッシェ!アタシ、「あ~ん」はしてあげられないけれど、代わりに夜な夜な声をかけ続けてあげるね!〉


【土寄せ棒】の「アンジェ」さんが鼻息荒く言う。


〈アナタが安らかに寝られるように〉


ははっ、よせいやい。


それだと「永遠の眠り」についちゃいそうだゼ。






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