第160話 躍進!? 猛虎は「救う」ために「倒す」道を選ぶ!?そして「運命」の出会いへと……
こうして、私は従騎士としての日々を過ごすこととなった。
早朝を救護隊の詰め所で過ごす。
朝から昼までは士官学校で過ごす。
午後から詰め所に戻って仕事を手伝いながら「医術」や「薬学」、救護について学ぶ。
そして、門が閉まる前に戻る。
日課の鍛錬は普通では意味がないとわかると、負荷を高めた。
重りをつけたり、魔術によるバッドステータスを纏ったりした。
私は重りをつけて、おどろおどろしい「呪い」をまとって走り回る。
「ふふふっ、うふふふふ」
おかげで、体力もそうだが、状態異常耐性が高まった。
これで、父母の期待。「最優の騎士」に一歩近づいた。
まだまだ足りない。
もっと、もっとだ。
「ふふふふふ」
ちょっとハイになって笑ってしまう。
「ひぃ!?」
シヅキとクラインが悲鳴を上げた。
「どうしましたか?」
私の問いにふたりが顔を引きつらせる。
「『どうしましたか』じゃないわよ!」
「エルがどうかしているわ!」
何がですかね?
「なにそのモコモコした服?中は砂鉄詰まってるの?」
ああ、この自作の「鍛錬スーツ」のことですか。
フードにも砂鉄が詰まっていて首も鍛錬できています。
偏らないようにキルト加工をしてちゃんと層をつくっているのですよ?
「なかなかオシャレでしょ?街歩きにもなじむシルティルック――――」
「違和感しかないわ」
「ゴーレムと間違われるよ」
そうですか。
やはり、最先端のファッションは最初は受け入れられないのですね。
◇
初陣では、後方支援。救護隊として参加した。
「戦場で負傷者を治療できない。まずは、戦場から遠ざける。可能ならば後衛まで下がらせてそこで治療をする」
「イエス、サー!」
「だが、急を要する時もある。どうするか」
モルガーナが言う。
「撤退と治療を同時にする」
(つまりは、負傷者を連れて逃げながら治癒をするということか)
「返事は?」
「イエス、サー」
普通に脱力した人間を抱えて走るのは大変なことだ。
しかも、【治癒術】を使いながらだとなると負荷は倍になる。
まして、術を使用するときは思考がそちらに割かれる。
もちろん、重傷者は状態が悪くならないよう、瞬時に固定しなくてはならない。
一度搬送すると決めたら、途中で瀕死の者がいても自身の搬送者を優先する。
無茶を言ってくれているわけです。
「戦闘の中盤までは待機。矢と魔術の遠距離の打ち合いが終わってからが我々の出番だ」
そう言ってモルガーナは救護所の椅子に座る。
「まずは体力を温存しろ。すぐに休む暇もなくなるぞ」
私は、モルガーナにお願いをした。
「私は、この本営から戦を見ても良いですか?」
「ああ、構わないぞ。間違っても勇んで乱入するなよ」
釘をさされる。
私のことをよーくご存じのようですね。
◇
「大丈夫ですか?」
私は声をかける。
うめき声を上げるだけだ。
モルガーナの言った通り、すぐに出番はやってきた。
白兵戦が始まった。
救護所にはシヅキとクラインが詰め、運ばれてくる人たちの治療にあたっている。
私はというと、戦場を駆けて負傷した人を回収している。
至る所で戦闘が繰り広げられ、すぐに戦場の場所が変わる。
戦闘が終わった場所へ急行して、負傷者の救護にあたる。
私は声をかけた彼が動かしても問題がないことを確かめる。
そして抱えて走り出す。
走る訓練をしていたおかげか、すぐに救護所まで運ぶことができた。
◇
「お願いします!」
法術師に引き渡すと、私はすぐに戦場に戻ろうとする。
「水を飲め」
モルガーナに言われる。
次いで爪の先ほどの白い塊を渡される。
「舐めろ」
甘じょっぱい味がする。
「糖蜜と塩を混ぜたものだ。動き続けるのだから、補給も忘れるな」
「イエス、サー」
「戦の間、いかにして長く、多くの要救助者を救えるかを考えろ。私たちが倒れたら救われない者がいる。動けなくなる前に休憩をとるのも仕事だ」
「サー、イエス、サー!」
私は答えて駆け出す。
◇
何人を救っただろうか。
救えなかった者もいた。
その場で治癒術を施しても失われた者は戻らない。
……分かっていたことだが、悔しい。申し訳がない。
(次は、前衛右翼……)
戦場を駆けながら周囲をうかがう。
味方はもとより、敵もただ駆けまわっている者に注意を向けることは少ない。
それよりも目の前にいる敵に集中していた。
だが――――
足元に光の帯が巻き付くように現れる。
私はそれを跳躍してかわす。
(盗賊職の【拘束】か)
見ると、軽装備の兵が数人こちらに向かってくる。
味方がいれば、おそらく救護隊は率先して守られる。
だが、周囲には誰もいない。
「女だ」
「えらい、いい女じゃねえか」
下卑た声が聞こえる。
傭兵か。
「“いい女”というのは、わかっているじゃないですか」
私は駆け通しで弾んだ息を整えながら言う。
「ひゃはは。イキもいいな俺たちの『お楽しみ』に付き合ってくれるなら生かしておいてやるぜ」
三下の決まり台詞を吐く。
「あら?いいのですか」
私は笑う。
「?」
「ちょっと、急いでいるんです。手身近に『楽しみ』ましょう」
言うなり、駆ける。
武器といっても護身用や治療に使う時用の短剣を持っているだけだ。
だが、この程度の連中には事足りる。
くだらないこの連中に短剣を急所にプレゼントしてさしあげた。
彼らは絶命する。
「さて、要救護者はどこでしょう?」
◇
「くっ、帝国の八大竜将とはここまで」
兵士が呟く。
片刃の大剣を手に巨躯の男が立ちはだかっている。
「我が剣を受けたこと、冥土の土産にするがよい」
言うなり振り下ろす。
炎を纏った剣魔術。
兵士の姿が跡形もなく消えていた。
(消し炭になったか)
そう思い、振り返ると。
「大丈夫ですか?火傷は治りにくいんです。裂傷以外はどうですか」
背後から声がする。
軽装備の女が先ほどの兵士を抱えていた。
「おかげで、火傷はない。剣で受けた傷だけだ」
「そうですか。離脱します」
「救護隊か、すまない」
そのやり取りを邪魔するように巨躯の騎士が立ちはだかる。
「行かせると思うか」
「膝を屈した者に追い打ちですか?」
「戦のならいだ」
「他の人は助からないようです。せめてこの人だけでも助けます」
「打ち取らせてもらうぞ」
「話の分からない人ですね」
騎士が剣を構えるのを銀髪の女は不快そうに見る。
「共に、逝け」
剣を振り下ろす。
だが、その先に女はいない。
「ごめんなさい。ちょっとここで休んでいてください」
言うと、治癒術を兵士にかける。
「応急処置です。すぐに戻りますので、ちょっとだけ我慢してくださいね」
女は背を向ける。
「ダメだ。逃げろ、相手は帝国八大竜将のオルドレイクだ。火竜相手に素手では!」
兵士の言葉に女は立ち止まる。
「そう…ですね」
いまさら気づいたとばかりに振り返る。
「じゃあ、あなたの剣を貸してください。人に剣を貸すのは抵抗があるでしょうけれど」
そう言って兵士の手にしていた剣を奪い取る。
「だから、ここは逃げるべきだ」
「そうでした、そうでした」
女はちょっといたずらっぽく片目をつむってみせる。
「私が戦ったこと、上司には内緒にしてくださいね。怒られてしまいます」
そう言って自分の口に指をたてて「シー」とする。
(な、かわいい…)
兵士はその可愛らしさに状況を忘れて頬を赤らめた。
◇
「ええ、と、オルドレイク殿でしたね」
私は相手に声をかける。
「いかにも、帝国八大竜将の火竜オルドレイクとは私のことだ」
「八大って、結構いるんですね。それだけの人材がそろってるのか、とび抜けた才のある者がいないのか」
思わず口にしてしまう。
これは勘に障ってしまったようである。
「女、その口は生来のものか」
「ごめんなさい。両親にもよく叱られています『正直にも程がある』と」
私は苦笑いする。
これがますます相手の気分を害したようだ。
「その減らず口、死体にしたのちに名を広めてやる。名乗れ」
「あら、名乗りを許すというのは騎士道をわきまえているではないですか」
私はちょっとだけこの男を見直した。
「私はエリーゼ。エリーゼ・カナン・マクスウェルです」
私の名乗りに、男は反応した。
「トリスタン・アドルフ・マクスウェルの娘か」
「あら、父をご存じで」
「ならば、使いようがあるな」
オルドレイクの目の色が変わる。
どうせろくなたくらみではないでしょう。
◇
「ところで、負傷者がいるので早く始めたいのですが。良いですか?」
「ふ……」
この男の笑いを見ると、私をじらして隙を誘おうというのでしょう。
まあ、どちらでもよいか。
「では、こちらから」
ちょっとしたあいさつ代わりに足元の小石を蹴りあげた。
オルドレイクはその動作を把握していないよう。
そして、小石が彼の頬に当たった。
だが、ちょっと反応したくらいの鈍感さ。
私はオルドレイクに向かって駆けた。
兵から借りたロングソードはなかなかに良いものだ。
一気に振り抜いてオルドレイクに叩きつける。
一撃を受けたオルドレイクは簡単に吹っ飛んでしまう。
(え~、ちょっとぉ、そんなに大きい体で軽すぎです)
(紙で出来ているんですか?)
私の不満を余所に彼は信じられないという顔でこちらを見ていた。
「何を呆けているのです。剣を構えなさい」
私は告げる。
促され、我に返ったオルドレイクが怒りをあらわにする。
「舐めるなっ、小娘が!」
「ハッ!」
私は気合いと共に、剣を振るう。
先ほどのあいさつ代わりと違い、魔力を纏わせた。
オルドレイクは大剣で受けたが、押し負けたようだ。
「まだまだ!」
私は連続で剣を叩きつける。
「ぐ、くっ」
彼のうめき声が聞こえる。
「おのれっ!」
私を振り払おうとオルドレイクは横薙ぎに、剣を振るう。
それを飛びのいてかわすと、着地の反発力を使って前進する力に変える。
振り抜いた姿勢でがら空きの胴体に向かって突っ込む。
オルドレイクは反応できていない。
私はロングソードを彼の喉に突き立てる。
わざわざ厚みのある鎧を狙う必要はない。
そこから体を回転させて首を斬り飛ばす。
オルドレイクの胴体を蹴り、距離とる。
「……ふぅ」
胴体が倒れるのを見届け、絶命しているのを確認する。
私は血振いをして、負傷兵のもとに戻る。
「いい剣ですね。ありがとうございました」
兵士は口を開けたまま黙っている。
「さて、治療をしないと。本営にもどりますよ」
私は剣を返すと、彼を抱えて走り出す。
◇
戦が終わり、数十人は救えたと思う。
しかし、救えなかった方が圧倒的に多い。
休憩もとったがほぼ走り通しだったので疲れた。
救護所の横で休んでいると、モルガーナが血相を変えて来た。
「エル!ちょっと来い」
「サー?イエス、サー」
私は立ち上がり、彼女についていった。
「お前、何をしてくれた」
「何を?」
「兵が噂している」
「あ……」
あのおしゃべりめ。
内緒にしてと言ったではないですか。
比較的軽傷の兵は自分の部隊に戻される。
戦が終わり、生き残った兵のテンションが上がっているのはわかる。
だが、本営の騒ぎは異様だった。
「あの娘はすげぇ!なんたって帝国八大竜将をガキでもあしらうように簡単にやっちまったんだ!」
男の声がする。
「白銀の髪、美しい顔立ちとブルーの瞳。竜を倒す獣っていえば何だ?獅子か?いや、あのしなやかな動きは獅子というより虎だ!俺は“白銀の虎”の化身に助けられたんだ」
興奮冷めやらぬ様子。
鍔を飛ばしながら包帯に巻かれた兵士が周りに叫ぶ。
「そんなにすげえのか」
「すげえのなんのって、小さな体で、山のような大男だった火竜を吹っ飛ばしたんだぜ!」
「しかも俺のこのなまくら剣で。そのあとも火竜が反撃もできずに押されっぱなしときたもんだ」
周りの兵士が喚声をあげて煽る。
「最後は一突きで仕留めた。しかも、その速さときたら、目で追えなかった。気づいたらオルドレイクの喉を貫いて、とどめとばかりに斬り飛ばすんだ」
身振りを交えて説明する。
私はモルガーナとともにその様を見ていた。
それに気づいた兵士が声を上げる。
「みんな、彼女だ。エリーゼ・カナン・マクスウェル!白銀の虎!我らが戦乙女」
手でこちらを示す。
兵たちが一斉にこちらに注目をした。
「こんな可愛らしいお嬢さんがか!?」
「信じらんねぇ」
「トリスタン卿の娘?」
「羨ましい。俺の娘と交換しよう」
「嫁に来てくれ」
口々に好き放題のことを言う。
騒ぎを聞きつけた士官がやってくる。
「何を騒いでいる。戦が終わったとはいえ、気を抜きすぎだ」
全員が口を閉ざす。
「グラウス中隊長、君から扇動してどうすね」
士官の叱責が飛ぶ。
というより、彼は中隊長だったのか。
それにしてはあまり強そうではない。この国の兵力は大丈夫なのでしょうか。
「ハッ、申し訳ありませんでした上官殿」
グラウスが敬礼をする。
「しかしですな、私の命を救った英雄。エリーゼ・カナン・マクスウェルさまの武勇を皆で讃えておったのです」
士官は「マクスウェル」のところで反応を示した。
「なんだと?」
「はい。マクスウェル卿のご息女が、単身、戦場にて敵将を見事に討ち取られたのです。重傷を負った私を庇いながらです」
ちょっと話がおおげさになっていませんか。
「かの火竜を打倒したことで、この戦は我らに優位となりました。その功労者でもあり、私を救護所まで運んでくれた慈悲深さ。私はその雄姿に気持ちが抑えられないのであります」
このグラウスという男、口が上手い。
「皆!讃えよ。我らが戦乙女を。我らが戦友の敵を討ってくれた恩人だ」
言葉に胸が詰まる。
そうか、ただ興奮してのことではない。
多くの仲間を目の前で失っている。
自分の明日も知れない。
今日を生きていることもありがたいが、自分のせいで死んだ多くの者がいるなら、彼らの心中ははかり知れよう。
「私は、無力ですね」
そうつぶやいた。
モルガーナは驚いた顔をしたが、すぐに表情を和らげて私の頭を撫でた。
「それに気づいてもらえただけで、良かったよ」
◇
火竜討伐の報はすぐに広まった。
とはいえ、従騎士の私の生活は変わらない。
士官学校や戦場での扱い、噂話などなどが多少変わった程度だ。
この一カ月、モルガーナと共に戦場に出た。
私はより熱心に救助活動をし、医術の勉強に励んだ。
様々な症例を間近にし、応急処置を施したり、時には手術も手伝ったりもした。
もちろん、戦場での救助活動を邪魔する者はすべて駆逐した。
そこから「猛虎千里を走る」だの、「白銀の虎」などとさまざま言われた。
グラウスが煽っているのだ。
そうして過ごしていたある日のことだ。
◇
「エリーゼ、ちょっといいか」
詰め所で書類を整理していた私にモルガーナが声をかけてくる。
「サー?イエス、サー」
私は答えて椅子から立ち上がり、敬礼する。
「ちょっと使いを頼まれてくれるか」
「イエス、サー」
「神殿騎士団本部に」
そう言って書状を渡す。
「中身は医薬品の発注だ。私のサインは入っているし、交渉もまとまっている。後日受け取りに行くことになって手間だが、正式な依頼書は隊員でなければ頼めない」
「構いませんよ」
私は快く引き受ける。
そう、このお使いで私は、彼と出会うことになる。
彼との出会い。
ウォルター・H・ウォーロックと―――――
◇
ようやくクロエの「スリスリ」から解放された。
「匂い」をつけるって……
僕は自分の腕の匂いを嗅いでみた。
「ちょっ!?さすがにそれはハズカシイだニ!」
クロエが僕を抑える。
「え?匂いつけるっているから、どんな匂いかなって」
「オマエは変態だニかっ!?メスの匂い確認ってっ」
慌てるクロエ。
〈ロッシェ!ダメよ。そんな趣味があったの?〉
いや、【棒ジェ】さん?
そんなに慌てるってどういう事さ。
それならはじめっからつけないでよね。




