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第158話 「ご褒美」って色々あるよね?勘違いと隻眼の軍医モルガーナ。




一夜明けて、エリーゼさんはご機嫌だ。


それはもちろん、「フリード」さんと和解したからだ。


いや、お互いにすれ違っていただけなんだけれどね。


僕たちは一度、「ロナウ・スペンサー」の占領する領地から出た。





「まずは、現状を整理しましょう」


意気揚々と言う。


いつも通りのエリーゼさん。


一安心だ。


ティアさまが歩み出る。


「まず、我々の本拠地となる『エーレンブルグ』は健在」


これは非常に大きい。


経済的にも精神的にも支えになる。


「商人たちも戻ってきつつある」


「そして―――――」


ガレットさんの領地、「エーエンブルグ」は共和政府との戦いで大きな意味を持った。


大陸の北の玄関口。交易の要のひとつ。


厳寒の土地だけれど、地下資源も豊か。


貿易港でもある「ケトゥスの街」はエリーゼさんたちが潰した。


つまり、共和政府は財源のひとつを破壊され、別なひとつを抑えられた。



「私の『薄い本』流通網によって商人たちへの宣伝も広がっている」


ティアさまの趣味と実益を兼ねた「薄い本」。


そこに需要があり、手に取った人々には「宣伝」が目につくようになっている。


これによって「エーレンブルグ」の「価値」はさらなる高まりを見せている。


ふんぞり返っているティアさまの陰で、「俺の領地を、出版元にするなよぉ」とガレットさんが嘆いている。


「そして、共和政府は二度の侵攻を失敗している」


特にこれが大きい。


旧王家の五将がそろっていない状況で、ボロクソに負けたんだ。


大軍を率いても勝てない。


それなのに、「五人」揃った現状はもう勝負が見えている。



「さらに、ハティとそこのジャガイモが奴らの本拠地を潰した」


確かに。


首都でアンジェさんを救うためとはいえメチャクチャやった。


仮の陣営である「本営」もハティさんとコレットがメチャクチャにした。


共和政府にとってはとんでもない痛手だったろう。



「クックックッ」とティアさまが笑う。


「ざまぁみろ!奴らの『信用』は失墜した」


声高に言う。


「なぁにが『負け犬は負け犬らしく、ただハイって言ってればいいんだ』だぁ!」


「『大人しく従っていればいい』?」


「『やることないんなら掃除でもしておけ』?」


「ふっざけるなあっ!」


あ~、反乱時に投降したから。


共和政府でそんなこと言われてたんだね。


「ああ、『掃除』ならしてやるともっ、この国の『掃除』をなっ!」


「ここからだ。信用を失った奴らと取引する商人はいまいっ」


「この【暗黒の凶鎌ダークネスデスサイズ】たる私の仕込みが一気に刈り取るぞ!」


「アーハッハッハッ」と笑う。


うん。ストレスたまってたんだな。


だから、「薄い本」に走っちゃったのかなぁ。


とはいえ、今さらながらみんなでティアさまを危険視するのもわかる。


「それに」


エリーゼさんが付け加える。


「フリードが復帰してくれました」


もう、なんかこの空気感さ、何とかしてくれよ。


付き合い始めて浮かれたカップルなの?


〈ロッシェっ、ロッシェっ、アタシたちも負けずにイチャコラしましょうよ!〉

【土寄せ棒】の「アンジェ」さんが僕に言う。


ハハッ、ダメだよぉ。僕たちはちゃんとTPOってものをわかっている熟年「相棒」だろ。


みんなのジトッとした視線を受けてフリードさんが咳払いをする。


「私は、来るべき日のために徴兵と練兵を兼ねた格闘興業をしていたわけですが」


そういう目的だったんだね……ちゃんと考えてたんだ。


「騎士団『白銀の虎』のメンバーに加えて、荒事に慣れている者も新たに加えることができました」


「離反の恐れは?」


「大丈夫です。ちゃんと『教育済み』ですから」


エリーゼさんの言葉に、フリードさんが答える。


いや、「教育」って何?怖いよ。


ガレットさん所みたいな「スポ根マインドコントロール」じゃないよね。


「ようやくですね」


エリーゼさんが呟いた。


「ここで、我が領地を取り返して、『王手』をかけます」


「ふふふふ」と笑う。


「旧マクスウェル領」は、肥沃な土地。

畜産物や農産物の恩恵が見込めるので、陸の「台所」だ。

そして、首都の「水源」もある。


ここまで抑えられたら共和政府は文字通り「干上がって」しまう。


どれだけ「資金」をため込もうと、「自給率」という体力がなければ足場がぐらつく。


民が生活できるだけの「食」の確保ができない。


ただでさえ、負け続けている政府にとって、これは死活問題だ。



――――「共和政府」。


今は、その偽りが、崩れようとしているのだ。



「あんのぉ、ボンクラどもに、今までのツケを払わせてやるんですから!」


エリーゼさんが拳を握った。





「ねえ、クロエ」


僕は会議が終わってクロエに話しかける。


「なんだニ」


クロエが聞き返してくる。


「あのさ、約束の『ご褒美』が欲しいんだけ―――――!?」


言いかけた時だった。


コレットとルーダ、なぜかリャナンが割って入る。


「なななぁんて!いやらしいっ」


「そ、そういうの!ダメなんですからっ」


「ちょっと、クロエ姉さん、未成年に『アダルト』なのは怒られるよ!」


……何のことでしょう?


「でも、試合に出たら『ご褒美』あげる約束をしたニ」


クロエさん?


彼女は頬を朱にして、もじもじと指先を弄ぶ。


「私は約束を守らないといけないニ」


なんで、そんな恥ずかしそうな顔?


「ちょっとちょっとぉ!ナニヲヤクソクシタノ!?」


「みんなの前では……言えない」


うぅぅわぁ、ワザとらしい。


しかも、語尾忘れてる「フリ」。


「恥ずかしいから、ふたりきりの時じゃないとダメだニ」


ぎゃああああああああ!


女子三人が頭を抱える。


そして、僕を睨み付ける。


「この、『エロ男爵イモ』め」


え?なんで僕が怒られるの?


「女の子にそういった要求をするなんてっ」


いや、「そういった」ってどういったものなの?


『サイッテイ!』


なんか勝手に誤解されて、勝手に幻滅された。


「ここは騒がしいニ」


そういって僕の腕にクロエは自分の腕を絡めてくる。


「え?ちょっと……」


ルーダたちが目を見開いた。


ワザとらしくクロエは腕に顔をスリスリしてくる。


「あ、ああ、あああああ」


なんか、三人が呻いている。


「はやくふたりっきりで『約束』のアレをするニ」


そういって腕を絡めたまま引っぱる。


「あ~んな、お子ちゃまたちは放っておくニ」


彼女たちに背を向けたクロエはニヤニヤしている。


(ハルはモテモテだニね)


僕が?嘘だろ。


(ちゃんと、『約束』のご主人さまの『元カレ』について教えてあげるニよ~)


(でも、人に言いふらすものでもないニ)


(だから)


「ふたりっきりで……ね」


そうイタズラっぽく笑った。





フリードが戻ってきてくれた。


これで、私はまた「戦える」。


私……エリーゼ・カナン・マクスウェルはあの時に戻れるのだ。


そう思い、エリーゼは拳を握る。


私は取り戻す。


失った時を。奪われたものを。


仲間と、「家族」と共に―――――




13歳になった私は士官学校に入ることとなった。


通学期間は3年間。

その後、一人前として就職する。


士官学校に入った場合、従騎士エクスワイアとなる。

教官である先輩騎士が就く。


従騎士の生活は、午前中は学校。

午後は先輩騎士の下で手伝いをしながら学ぶ。


もちろん、「正騎士」の先輩騎士と共に従軍もする。



私は実家を離れて寄宿舎に入った。


うん。必要最小限。


炊事場や洗濯場、トイレは共用。

風呂はないので、街の浴場を使うか湯で体を拭くくらい。


部屋はベッドと机、ランプにつり下げ棚が一つずつ。


衣服は、自分で持ち込めるタンスに入れるとしても……


いったい、服はどこで乾かすのです?



部屋に荷物を置いてすぐに校舎へと向かう。


そこで自分がつく先輩騎士が紹介される。


といっても、選ぶのは向こう。


数人いる「従騎士エクスワイア」の品定めをして、自分に合った子を指導するのだ。


居並ぶ「騎士」たちの中、さっそく一人が歩み寄ってきた。


「モルガーナ・クロムエルだ。よろしく」


大柄の女騎士。

長い前髪が左目を覆っている。隻眼か。


私は手を差し伸べて「よろしくお願いします」と握手を交わした。


―――――ググググ


彼女から圧力をかけられる。


握りつぶすほどの力で手を握られ、魔力とともに体を押しつぶす圧力。


(フッ……)


私は内心ほくそ笑んだ。この程度、可愛らしい。


――――ミシッ


思わず、お返しをしてしまった。


「……ほう」


モルガーナは興味深げに私を見る。


「笑っているな」

「失礼いたしました。歓迎の意に嬉しく思いまして」


「それで、私に仕返しか。気が強いな」

「ダメでしたか?叛意はありませんが」


モルガーナは「フッ」と笑って手を離す。


「エリーゼ・カナン・マクスウェル」


私を見る。


「合格だ」


それから周囲へ向けて宣言した。


「この子は私がもらうぞっ」




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