第157話 「農」の極致!「田歩氏の楼琉」炸裂!そして、コレットは禁断の扉を開かれる
「な、なんだあの動きは」
騒然となる。
僕は上半身を振り子のように動かしてゆっくりと前進する。
「フッ、まさか伝説の『拳闘士』いや、『農家』の技を受け継ぐ者がいるとはな」
ティアが不敵に笑う。
「遥か東にいるという『神仙』。その農業の『仙人』である『田歩氏』」
「彼の者が効率よく耕作するため編み出した『歩法』――――『楼琉』」
「それが、あれだ」
その説明に皆が驚く。
「あれは振り子のように上半身を動かすことでリズムをとりつつ、相手に的を絞らせないように幻惑する」
もっともらしい解説。
農業関係なくね?とは誰も突っ込まない。
「また、上半身を戻す重心移動と共にパンチを繰り出せば、絶大なる威力を――――」
「な、なんだアレは!」
ブレイブも上半身を振り子のように振り出した。
「やるなっハル!ならば俺も『肥溜・マッシュ・ダンス』だ」
ハルと同じような動き。
肥溜をかき混ぜるかのように腕を前にして8の字を描いて揺れる。
的を絞らせない動き。
ユラ~ン、ユラ~ン
互いに向かい合って上半身を揺らしている。
「な、なんかすごいけれど」
「うぅっぷっ、こっちが酔ってくる」
「なるほど、まさに『肥溜』をかき混ぜるかのようなダンス」
延々と二人で向かい合って揺れている。
「何やってるんだ、アイツら……」
殴り合いの合間、彼らの様子を見たガレットが呟く。
ユラ~ン、ユラ~ン
それもそのはずだ。
男二人がただ向かい合ってユラユラ揺れているだけなのだから。
横では縦横に飛び跳ね、アクロバティックに技を繰り出す二名がいる。
「はああああああ!」
「やああああああ!」
アビスとアルセイスだ。
跳び回し蹴りやらクロスチョップやら「派手」な技を選んで攻防を繰り返す。
その必死な動き。
そしてさらにその向こうでは――――
鈍い音を立てながらハティたちが壮絶な殴り合いをしている。
1人佇む「オジサン」は動かない。
ユラ~ン、ユラ~ン
ブレイブ叔父さんとハルは互いにユラユラ揺れているだけだ。
◇
「いくよっ、叔父さん」
均衡を破ったのはハルだった。
「来い、甥っ子よっ!」
ハルが素早く踏み込む。
「ロッシェ『豊穣の種まき』!」
種を広く撒くかのようにハルが手を振り上げる。
下半身の屈伸を利用したアッパーカット。
「なんのっ、ロッシェ『実りの草刈り』!」
ブレイブが横薙ぎに拳を振るう。
それは、実りを残さずに刈り取る鎌のようなフック。
ボクシャァァァァァァ
互いの拳がお互いの顔面を捉える。
――――― クロスカウンター
ふたりの動きが止まる。
観客からは大きな歓声が上がった。
◇
はぁはぁはぁ
荒い息遣いが聞こえる。
「うふふふふふふ」
幼さを残す少女の笑い声。
「ねぇ、ベネット」
囁くような少女の声。
「もう、我慢できなくなったの?」
その声に応じるように女性の切なげなため息が漏れる。
「ん…くぅ……」
「どうしたのかしら、ハッキリ言わないと、私はわからないわ」
「う……」
意地の悪い少女の言葉に、ベネットと呼ばれた女性が息をのむ。
「お、おねがします」
擦れた声で言った。
「なに?聞こえないわ。ハッキリと言ってごらんなさぁい」
少女の声。
それがきっかけとなったのか、ベネットは言う。
「ください、私に、ください」
切羽詰まったような叫びに、少女は冷淡に返した。
「はしたない子。ちゃんと、具体的に言わないと伝わらないわ」
「ああ……」
絶望したようなベネットの声。
「お、おねがい……します。コレット様の、その手ではしたない私に―――――」
―――――ガチャリ
扉が開く。
「あ……」
ベネットとコレットは開かれたドアを見た。
「あ……」
ドアを開いたエリーゼも声を漏らす。
跪いているベネットの前に、チョコレートを手にしたコレット。
しかも「薄い本」を手にしながら。
どうやらチョコレートを目の前でちらつかせて「おあずけ」をしていたようだ。
「……どうぞ、ごゆっくり」
そう言ってエリーゼがドアを閉めた。
「ち、ちがうのぉぉぉ、おねえちゃぁぁん」
コレットは大急ぎでドアを開けようとする。
それを向こう側からエリーゼが押さえた。
「いえいえいえ、どうぞどうぞ、お楽しみあそばせ『コレット様』」
「ちがうちがうちがう!」
「なにも違わないですよ『コレット様』。どうぞ、存分にお楽しみください」
「ちがうのぉぉぉ、調子に乗っちゃっただけなのぉ」
コレットが必死にドアを引っぱって弁解する。
「ちやほやされて、いい気になっちゃたのぉ、ごめんなさぁぁい」
「いやいやいや。痛い子はもうティアだけでじゅうぶんです。そっちの住人は結構です」
「反省してます。許してください。お家に帰りたいですぅぅぅ」
「大丈夫。永住権はありますよ『不思議の国のコレット様』」
「ごめんなさーーーーい」
◇
コレットを連れてエリーゼが観客席に戻ってくる。
コレットはしくしくと泣いていた。
エリーゼはそのコレットの襟首を掴んで提灯のようにぶら下げている。
「ごめんさい。ごめんさい。もうしません」
「本当に、悪ふざけはこれっきりになさい」
「うええええん」
その時だった。
「まてぇえええ!エリーゼ・マクスウェル!」
男たちの叫び声が響き渡る。
◇
「え、エルザ!」
白銀の髪を揺らし、駆けてくる女性。
エルザ・ジグニュール・ブライトガードであった。
後ろに大勢の「警備隊」を引き連れている。
いや、「警備隊」に追われていた。
「ほーほほほ、捕まえてごらんなさい」
高笑いしながら猛然と走って来る。
「ああ…こんなに多くの殿方から追いかけられるなんて。私ったら罪な女ね」
頬を抑えて笑う。
「あら、ちょうどいいところに。義姉さまハッケン伝ですね」
エリーゼに向かってくる。
「ちょっ!あなた、こっち来ないでください」
「ヤダッ、義姉さま、そんなイケズなことを言わないでください」
「だれが『義姉』ですか!」
「だって『私の旦那様』の『姉』ではありませんか」
「ふざけないでください」
罵り合う。
素早くエルザは駆け寄ったかと思うと、エリーゼの周りをぐるぐると回り始めた。
「シャッフルタイム!」
さらにエルザはエリーゼの背後で上半身を円の描くように上下させた。
「なっ!?エリーゼ・マクスウェルがふたり?」
追いついた警備隊が驚く。
そう、エリーゼとエルザの外見は瓜二つなのだ。
「どちらかが偽物なのか?」
ピキッ
エルザのこめかみに血管が浮き出る。
「偽物ですって?」
その様を見てエリーゼが笑う。
「ですってよぉ『偽物』さん」
「はあ?」
エルザがエリーゼを睨み付ける。
「言っておきますけれど!私があなたに『似ている』のではないです!」
「あ・な・た・が、私に『似ている』だけです!」
エルザが叫ぶ。
「ええい、どちらも捕らえればわかる話だ」
警備隊員たちが包囲を縮める。
「かかれっ!」
一斉に向かってくる。
「やかましぃわぁ!」
エリーゼが「グーパンチ」。
エルザが「張り手」。
警備隊員たちを吹っ飛ばす。
「クソッ、やはり強い」
地に転がった隊員たちが呟く。
そこに、新たなる警備隊が増援に来た。
「なんだっ、ここは!」
そう、この「格闘興業」は公の遊興場ではない。
「違法興業の現場だ!全員捕縛しろ!」
その言葉で他の観客たちも騒然となった。
「捕らえろ!抵抗する者は手荒にしても良い」
隊長格の指示に従って隊員たちが動き始める。
もちろん、エリーゼたちを牽制しつつだ。
「あ……」
エリーゼが気づいたときには「エルザ」の背中がはるか遠くにあった。
「またお会いしましょう『義姉』さま」
「オーホッホッホッーー」と高笑いを残して。
◇
(くっそ、あの女ぁ)
エリーゼは内心毒づく。
だが、今はそれどころではない。
「みんな、逃げるのですっ!」
エリーゼが闘技場に向かって叫ぶ。
とにかく、散り散りに逃げて、警備隊から姿をくらますしかない。
悪いが、他の観客には目くらましになってもらおう。
観客席のアンジェたちはコレットを連れてさっさと逃げ始めていた。
闘技場に目をやると、ガレットやハルたちも逃げつつある。
けれど、いまだに闘技場で突っ立っている者がいる。
ハティとフリードだ。
それを見て、エリーゼは眉根を寄せる。
(まさか、囮になろうってんじゃないでしょうね)
「ふん」と鼻を鳴らす。
「ほんと、世話の焼ける人たちですねっ」
そう言うエリーゼは笑っていた。
◇
「何をグズグズしているのです。ハティ、フリード!」
エリーゼの声。
「逃げるんですよ!」
フリードは動かない。
「マクスウェル家家訓!」
「ヤバいと思ったら逃げちまえ。生きていたらどうとでもいえる!」
エリーゼが家訓のひとつを叫ぶ。
それから、静かに言った。
「二人とも、まずは逃げますよ。『ついてきなさい』」
この喧騒の中でも良く通る声。
「ああ言っているよ。フリード」
ニコニコ笑いながらハティが言う。
「……そうですね。ハティ殿」
クスッと小さく笑うフリード。
「行こうか。『一緒に』」
◇
チャッチャッチャッ
リズミカルな湯きりの音。
湯気の立つどんぶりに、黄金色の麺が泳がされる。
「今日は災難でしたね」
「ああ」
「オッサン」の言葉にガレットさんが気のない返事をする。
「ヘイ、ラーメンお待ちっ」
そう言って「オッサン」がラーメンを出してくれる。
醤油のいい匂い。
海苔と叉焼、メンマにほうれん草。そしてゆで卵。
僕らは屋台でラーメンをすすっている。
試合に参加していたオッサン、ラーメン屋の店主だった。
謎の「強キャラ感」出していたけれど。
ガレットさんが間に合わせて引っ張ってきただけ。
「ただ立っているだけでいいから」と。
裏路地に広げたテーブルと椅子に僕たちは座っている。
大人三人組は屋台の方だ。
「おっさん、かわいそうな俺たちに何かサービスしてくれない?」
「じゃ、メンマおまけ」
「そこ、叉焼とかじゃねぇの?」
「肉は金をとるよ」
「商売上手だな」
ガレットさんが笑いながら箸を手にする。
ヒュ~
風が吹く。
―――――ヘックチッ
みんなでくしゃみをする。
そういや、逃げて来たまんまの格好。
上半身裸のボクサーパンツ一丁だ。
「きっついわぁ……」
誰かが呟いた。
哀愁漂う男たち。
――――ズズズ、ズズズ
麺をすする音だけが響く。
ああ……寒いから余計にラーメンがおいしく感じるなぁ。
◇
「それでは、これで」
そう言ってフリードさんが席を立つ。
「ああ、ここは私が持ちますよ」
そう言って金貨を一枚置く。
「おまえ、文無しになったんじゃないのか?」
「ええ、ですから、これが最後の――――」
言いかけた時だった。
遠くから女性陣の声がする。
「フリード、みんなっこんなところにいたのですか!」
エリーゼさんの声が響く。
「何やってるんです!明日からの打ち合わせをしますよっ」
「ああ言ってるよ?」
ハティさんが笑う。
「ありゃ、逃げたら地の果てまで追ってくるだろうな」
ガレットさんも笑う。
フリードさんは、クッと口を引き結んだ。
泣くのを堪えたようだ。
フィンがスヴェンたちに目配せをする。
『今日は、フリードさんっ、ゴチにぃなりまぁす!』
みんなで大きな声で言う。
『また、これからも、ご馳走してください!』
声を合わせて言う。
それから「魔狼騎士団」のみんながにっこりと笑った。
フリードさんは小さく笑い、「はい」と答えた。
「……また、よろしくね。フリード・バッフェ」
ぽん。
ハティさんが肩に手を置いた。
……僕は、こんなおいしいラーメンを食べたのは初めてだ。
なんていうか、スッとしみわたるような感じがする。
フリードさんはこちらに向かってくるエリーゼさんを眩しそうに見ていた。
――――あ、そういえばラーメン、今日、初めて食べたんだった。
これに、「ポテチ」乗せたら、おいしいかも知れないなぁ
ジャガイモ仲間の皆さんへ
今日も今日とてお疲れ様でした。
いろいろなことが起きてますが皆さん、体を大事にしてくださいね。
ストレスの元は、頭のなかで「スン」しちゃいましょ!




