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第156話 レジェンド対決!黒鷹VS白狼。「岩の拳」って叔父さん!名前!「岩」二回言ってるよ!?




没収試合になって、相手チームは去っていった。


そして、なぜか僕たちだけは待たされた。


まあ、「身内の不始末」でもあるからね。



……しっかし、まだ暑いよ。


水を撒かれたときはちょっと涼しくなったけれど。


今は湿度が上がって余計に暑い。



「これを、飲んでおきなさい」


エリーゼさんの声にそちらを向く。


「ポーション」の瓶が4人分投げ込まれた。


「あれ?僕の分は?」


ハティさんが尋ねる。


「あなたは、何もしてないでしょう」


「あ~、そうでしたね」


ほのぼのと笑う「マクスウェル姉弟」。



そういえば、騒がしい人が静かだな……


あ……寝てる。


金髪のツインテール。


「最悪の魔女」アンジェ・フラン・スカーレットさんは酔いつぶれていた。


近くにエールのコップが転がっている。


そういや、あんまりお酒強くないんだよね。


雰囲気で飲むタイプ。


僕たちはありがたく「ポーション」をいただく。


……うん。付け焼刃とはいえ、体力も負傷も回復したよ。





《 え~、お待たせいたしました 》


アナウンスが入る。


《 先ほどの没収試合で観客の皆さまも不完全燃焼と思います 》


いや、あれは炎上するくらいの惨事だったよ。


《 そこで、「エキシビジョンマッチ」を開催いたします 》


このアナウンスに歓声が上がった。



「さて、ここからが本番だね」


ハティさんがストレッチを始める。


「フィン、スヴェン、アルス」


ハティさんが声をかける。


「たぶん、僕はまともに戦わせてもらえないだろう」


「君たちは、自分たちの力で乗り越えてくれ」


え?何を言って……


僕は彼らを見る。


三人とも冒険の時のような真剣な顔。


「殺す気でいけ。でないと、君たちがやられる」


その言葉に、三人は力強く頷く。


ちょっと、待って。


この三人がそんだけ頑張らないといけないのって何が出てくるのさ。


「魔獣」?それとも「悪魔」?


「ああ、ハル」


ハティさんが僕の方を向く。


「ガードは絶対に下げるな。顎と首を守れ」


真剣な顔。いや、マジ「将軍モード」で言わないで。


「一撃で意識を刈り取られるぞ」


「ボディや手足は犠牲にしろ」


いやいやいやいや、なんてこと言うんだよ!


それから「ニヤッ」と笑う。


「最後まで立って『生き残ったヤツ』が一番強いんだよ」


ハティさんが僕の肩を軽く小突く。


みんなも順に僕の背を叩いた。




《 お待たせいたしました。「エキシビジョンマッチ」開幕です! 》


対戦相手が出てくる。


あっ……あああああっ!?


僕は相手を見て「負け」を悟った。


これ、完全に「詰んだ」わっ!





《 彼の者は、帝国にあって数々の伝説を築き上げ…… 》


《 戦場にあっては、鷹のように宙を舞い、敵を打倒してきた―― 》


巨躯の男が入ってくる。


《 伝説の剣闘士!「黒金の鷹」団長!戦場のぉぉ覇者! 》


筋骨隆々。それでいて無駄もなく、俊敏さも兼ね備えた肉体。


《 ガレット・グランハーートぉぉぉ 》


その言葉に会場が騒然となる。


いやさ、「ガレット」さんがここで出てくるって誰も思わないでしょう。


数カ月前にガレットさんの領地「エーレンブルグ」が共和政府に攻撃された。


二度の侵攻を跳ね除けて「復興」真っ最中。


その領主がなんでここにいるのさ。


観客もその辺は知っている。


でも、伝説の「剣闘士」の試合を、時を経て目られるのだという興奮が上回っていた。


……僕にとっては絶望でしかないけれど。



《 続いて、参りますのは…… 》


《 虎の氏族 「ゲンス・ティグリス」! 》


続いて、四人の男の人が出てくる。


少し癖のある黒髪の人。


あれ?クロエと僕を監視していた人?


そして、続いて出てきたのは、「顔の右側に痣のある人」。


見た瞬間に鳥肌が立った。


この人は、ヤバい。


ガレットさんやハティさん並の化け物だ。



次に出てきた人を見て、僕はさらに驚いた。


そこまで背は高くない。


けれど、体は鍛え上げられ、傷だらけ。


見覚えのある茶色の髪。



「お……おっ、おじさあああああん!?」





「よっ、ハル。兄貴の葬式以来か?」


軽く手を挙げて挨拶をしてくれる。


「う、うん。久しぶり……」


彼は、僕の叔父さん。「ブレイブ・ロッシェ」だ。


「いやぁ、噂は聞いているぞ。兄貴の後を継いで、ハティ様に仕えているんだって」


はぁっ!?


「俺は嬉しい。巷でも『ジャガーノート』なんて言われてさ。俺の一族から英雄が……」


「ちょっと、ちょっと待って」


「んん?」


「僕は、ハティさんの部下でもないし、『ジャガーノート』なんて物騒な名乗りもしてないよ」


「え?そうなのか」


そう言って「ブレイブ」叔父さんがガレットさんを見る。


ガレットさんは口笛を吹いて知らん顔。


あ~、またこの人、適当なこと言ったんだ。


ブレイブ叔父さんは単純。


まず人を疑わない。


今までそれで、どれだけ大変な目に遭ってきたか。


「ま、いいや。ハルが元気でいるのなら」


お、おじさああああん。


嬉しいよぉ。


やっぱり、身内って最高だね。


なんの対価もなくたって向けられる「優しさ」。


そう言ってくれる叔父さんの存在が何よりの支えだよ。


だって、みんな僕に優しくないからさぁ。



「ど、どうしよう。ガレットとハルが……」


ルーダが動揺を示す。


「オレなんかをめぐって戦うなんて」


口元を抑えるが、ニヤついているのがわかる。


「る~ちゃん、それ、ぜっったい違うから」


リャナンが言う。


「『ぜったい』って言いきれないだろ!」


ルーダが食ってかかる。


「なんだよ!実際戦うんだから、最後に『ルーダは任せた』とか」


それをニヤケてリャナンが制した。


「言わないと思うな~」


「わかんないよっ」


「ドゥフフフゥ、そんなに必死になっちゃってぇ、『夢見がちな』るーちゃんは、どちらが『本命』ですかぁ?」


「どっちでもいいだろ!」


「『ハル』が本命って気がするけどぉ」


「っ!?」


ルーダが顔を赤らめる。


「もうぅっ!姉貴ったらうるさいんだから!」


ルーダがぽかぽかと殴る。


「あいたたたっ、ってホントに痛い!るーちゃん力強い」


「うるさ~い」


じゃれ合うふたりを余所に、リムアンが難しい顔をする。


「あのオジサン、何者?」


指さす。


その先には小柄な「オジサン」がたたずんでいた。




顔の右側に痣のある人、あの人がおそらく「フリード」さん。


エリーゼさんの従者をしていたんだから弱いはずがない。


そして、僕の叔父さん。「ブレイブ・ロッシェ」。


僕の父さんの「オルコス」の弟。


ロッシェ一族だから「魔力」がない。


けれど、エリーゼさんに見出されてずっとエリーゼさんの騎士団で働いていた。


騎士団「白銀プラチナムタイガー」の団員。


王家では「白銀の胸鎧ブレスト」という呼び名でもあった。


叔父さんは魔力がない代わりに、体をメチャクチャ鍛えて強くなった。


ということは、隣の黒髪の人は「アビス・シャドウ」さんか。


叔父さんと同じく「白銀の虎」の団員。


一緒にダンジョンアタックしてからの親友。


諜報活動とか諸々「盗賊スカウト職」として活躍していたとか。


やはり「武力」を尊ぶあの騎士団の一員。弱いはずがない。


「おい、ハル」


フィンが声をかけてくる。


「あの人、不気味だな」


そう、僕もわかっている。


四人の後ろにいる「オジサン」。


彼は何者だろう。


痩せていて、そこまで腕っぷしが強いと思えない。


けれど、体の芯がしっかりしていて目に隙の無さがうかがえる。


髪を短く切っているけれど、ほとんどが禿げ上がっている。


もしかして、「技」で圧倒するタイプかも。


「警戒しておこう」


そう頷き合う。


《 それでは、「エキシビジョンマッチ」――― 》



《 FIGHT! 》



――――カァァァァン!


ゴングが鳴る。





ハティさんが先に動いた。


ガレットさんに一直線に向かって行く。


「ハッ、俺狙いかよ!」


ガレットさんが笑いながらそれに応じる。



途端に物凄く重い音が絶え間なく響き渡る。


いや、砲撃か何かが続いているとしか思えない。



正面からの殴り合い。


最強の傭兵団団長にして「戦場の覇者」。

黒鷹のガレット。


最狂の魔人にして「銀の右腕」。

白狼のハティ。


魔力なしのステゴロなら、ガレットさんの方が強いのでは?


そう思っていたけれど、実力が拮抗している。


素のパワーはガレットさんの方が上なんだろう。


けれど、スピードでハティさんがその差を埋めている。


正直、拳が見えない。


「ハアァッ!」


気合と共にフリードさんがカーフキックを放つ。


ハティさん前足を狙ってだ。


「っ!?」


打ち合っているハティさんは避けられない。


足に痛打を受けて体勢が崩れる。


「おらぁぁぁっ」


すかさずガレットさんがハティさんに拳を叩き込む。


ゴシャッ


嫌な音が響く。


ハティさんがガレットさんの大きな拳を顔面で受けてしまった。


ズル――――


ハティさんの状態が揺らいだ。





ウオオオオオオオオッ!



観客席が沸き立った。


「……っ!?」


フリードさんとガレットさんが飛び退いた。


ハティさんがゆっくりと顔を上げる。


「痛いじゃないか」


口調とは裏腹に、目が笑っていない。


「スイッチ、入っちまったな」


ガレットさんの声。


同意するようにフリードさんが頷く。


「ふぅぅぅぅ!」


ハティさんが深く、鋭く息を吐き、腰を落とす。



―――――ズン!



それだけで地響きがする。


「『魔力』じゃなきゃいいんだろ?」


「相変わらず、ズルい人ですね」


ハティさんの言葉にフリードさんが呟く。


「『闘気』を練ったか」


ガレットさんが呆れたように言う。


はい?「闘気」?新しい設定出さないでよ。


……あ、前半の「オルジュの街」でウルフスベインさんも使ってた!


くっそ、なんかわからんけれど「強キャラ」は使えるやつなんだろ。


いいなぁ、ズルいなぁ!


「そんじゃ、俺らも」


ガレットさんたちも構えをとる。

「ヴィクトリャァァァァ!」

「ハァァァァア!」


ガレットさんはマッスルポーズ。

フリードさんは両拳を腰に引きつけた構え。


熱が二人の体に収束する。


ふたりは異様に重たい空気を纏った。


「親父っ!悪いっ」


フィンとスヴェンが二人でフリードさんに襲い掛かる。


フリードさんはすぐにハティさんから離れる。


そして、フィンたちの攻撃に応じ始めた。


正直な話、フィンとスヴェンの二人がかりでも彼の足止めをできるかどうか。


でも、ハティさんがフリードさんと戦えば、今度はガレットさんが自由に動ける。


相手チームで一番の脅威はガレットさん。


これに対抗できるのがハティさんしかいない。


他のメンバーが下手に手を出そうものなら「即ダウン」させられる。


かといって、相手側も「ハティ」さんを自由にさせられない。


今も、フリードさんの「邪魔」によって均衡を保った感じだ。


つまり、「ハティ、フィン、スヴェン」VS「ガレット、フリード」の構図。


じゃあ、残りのメンバーはというと。


「いいなぁ、君、イケメンでいいなぁ」


アビスさんがぼやいている。


いや、アビスさん?なんでそんなに暗いんですか?


あなたもけっこう「闇系」イケメンですよ。


「あなたに、僕の『目立たない』という苦しみがわかるかっ」


アルセイスっ、君、そんなに心に病んでいたんだね。


別の意味で「病み」系じゃないかっ!


「「ちくしょぉぉぉぅ」」


なんか、ふたりともハモってる。


そして殴り合いが始まった。


イケメンふたりの戦い。


あ~なんか観客(主に女性)が黄色い歓声を上げている。



キャーー!キャーー!



ほら、気づかないのかよ?


僕には到底向けられないあの声を。



「ハル、ボーっとしていていいのか?」


ブレイブ叔父さんが声をかけてくる。


「俺が相手になるぞ!」


ニッと爽やかに笑う。


叔父さんは変わらないなぁ。


「よぉうし、男の勝負と言った『殴り合い』だ!」


嫌だよ。身内だろ。


「では、行くぞ!『岩の拳・ロッシェ』参る」


叔父さん、話聞いてよ。


それに、その二つ名、メッチャはずかしいいい!


だって「岩」二回名乗ってるよ?叔父さぁぁん。


「頭痛が痛い」人になってるって!


こちらの心配などお構いなしに、叔父さんが向かってくる。


そして、視界の端。



別な「オジサン」は、じっとこちらを見ているのだった。




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