第155話 テッカテカの筋肉に「清め水」を!~暴走する推し活とキレる運営~
「もっと、もっとだぁぁぁぁ!」
観客が叫ぶ。
蒸し風呂状態の闘技場よりもスタンドの熱気の方がひどい。
「もっと、『汗と筋肉の躍動と友情』を見せろ!」
いやさ、最後の「友情」はいいんだよ?
でもね、前半二つは問題でしょうよ。
オオオオッ―――――
歓声が上がる。
僕が見ると、相手チームが二人がかりでスヴェンに攻撃している。
スヴェンはガードを固めて耐えている。
アルセイスを庇っているんだ。
「ちょっとは、スタミナつけろっ、よ……な」
「ご、ごめん。この暑さで」
「良いって良いって、気にすんな」
そう言うスヴェンもさすがに押され気味だ。
「いいぞ、そのモブゴリどもに『6ティポイント』ずつやろう!」
「ウチの筋肉ドーベルマンをもっと苛めてやれ」
ティアさま、いい加減にしなよ。
ここはなんとか役に立たなきゃ。
よし、カットだ!
僕は走って救援に向かう。
どうこうできるなんて思わないけれど、的が増えたらちょっとは混乱するでしょ?
◇
僕はカットインするために走る。
「おおっ、良いぞっ『愛と友情』!」
愛は余計だ!
気を取られたのがまずかった。
この熱気でスタミナも削られていたんだろう。
足がもつれ、転んでしまう。
あっっつぅ!あちちちちちち。
地面がメチャクチャ熱い。
火傷するレベル。
僕はあまりの熱さに転げまわる。
「っ!?」
転がりながら勢いで相手選手の足元まで来てしまった。
そしてゴロゴロと股下を抜ける。
相手も「ポカーン」だ。
ヤッべぇっ!
このままじゃ場外の熱湯に落ちる。
「ハルっ!」
アルセイスたちの声が聞こえる。
こうなりゃぁぁ。
「ど根性」で相手の足首を掴む。
もちろん、掴まって転落を避けるためだ。
けれど、相手も相当疲労していたのか……
「うわっ!?」
なんと僕に掴まれたことによって足をとられて転んでしまう。
そして隣にいた人も巻き込んで「灼熱の地面」に―――
「ああっアッツぅぅぅぅ!」
ふたりとも悲鳴を上げて転げまわる。
それぞれが互いに絡みあうように。
ワアアアア――――
歓声が上がった。
「なんという、芸術的な『アンクルピック』だ!」
「あの子、股抜きしたぞ」
「ムクツケキ男二人が絡み合っているぅっ」
観客がどよめく。
途中、「腐」属性の誰かが言ったことは無視しよう。
「ハーッ、ハッハッーー!」
ティアさまの笑い声が響く。
「あれが、最近話題の『ジャガーノート』だ!」
会場がさらに騒然となる。
「なに!?『ジャガーノート』だと?」
「知っているぞ。共和政府軍10万を一人で退けた」
「首都を壊滅寸前まで爆破した『不可抗力の破壊者』!?」
「つい最近、共和政府本営でも大暴れしたらしいじゃないか」
「あのランドルフ将軍をも圧倒したという…」
「どうりで。あの動きは『玄人』のものだった」
「そして灼熱の地面に押し付ける『残虐ファイト』」
いや、ねつ造しないでよ!
僕は「ジャガイモ農家」なんだって!
―――――バシャッ!
水がかけられる。
転倒して背中を火傷した相手選手にだ。
「さすがに、モブゴリでも『火傷』はかわいそうだわ」
エリーゼさんがバケツを手にしている。
な、なんて慈悲深い……
「と、いうことで『良いこと』したお姉ちゃんにもう一杯お酒を……」
酔眼で言う。
台無しだよな。
うおおおおおおおおッ!
なぜか雄たけびが上がる。
小屋が震えた。
「水かけ祭りだ!」
「マッスル水かけ祭りだっっ!」
は?なんだよ、それ?
「見ろっあのスキンヘッドのモブゴリを」
いや、もう「モブゴリ」呼び定着している?
酷くないかな。
「テッカテカに輝いてるぜ!」
誰かが言った。
「いい、いいぞぉ!筋肉の隆起がハイライトで輝いているっ」
ティアさまも叫んだ。
「よぅし、私の創作意欲に火をつけたお前たちに『100ティポイント』を授けよう」
ああ……この二人、「薄い本」のネタ確定じゃないか……
「先ほどの絡みといい、もっともっとだ!もっと魅せろ」
ティアさまが手を伸ばすと、ジャンヌさんが水の入ったバケツを手渡す。
「そぉれぇっ!」
躊躇うことなくぶちまける。
それも、僕らに。
うおおおおおおおおっ
またもや歓声。
「筋肉青年っ、輝いているぞ!」
「金髪細マッチョもっ!」
「ロン毛イケメン君っ、水も滴るいい男ザマスぅ」
「ハル……やだ、ちょっとそれは刺激強すぎる」
他の観客たちが興奮を露わに叫ぶ。
ルーダ、さっきから何言ってるの?良く聞こえないんだけれど。
「そうれ!もういっちょう」
バシャー!
「おかわりザマスっ!」
バシャバシャー
「そうら、『清め水』っ!」
バシャバシャバシャ!
暴走した観客たちが「キャーキャー」喜びながら僕らに水をかける。
《 え~、運営からです。選手に水をかけないでください 》
「キャー!ムクツケキ男たちが汗と水でッ」
「これ、面白い」
リャナンとリムアンも面白がって水をかけてくる。
《 繰り返します。選手に水をかけないでください 》
「ヌルテカのモブゴリに『4ピカポイント』!」
「こっちは、金髪細マッチョくんに『6キラキラポイント』だ!」
《 勝手にポイント付与もやめてください 》
「水だ!」
「ポイント入れるぞ!」
《 ……おい 》
「筋肉青年!髪を掻き上げてくれ!おおお、いいね『10ポイント』!」
〈いいなぁ、アタシもやりたいのにぃ〉
「水のおかわり行くぞ」
《 おい……聞けよ 》
あ……なんか運営さんがお怒りだ。
《 話聞けっつってんだろぉ、コラァァァ! 》
あ~、ついに怒っちゃた。
《 現時点を持ちまして、試合続行不可能と判断し、「没収試合」といたします 》
「ええ~」
「つまんね~」
「もっと、テカテカさせたかったぁ」
「筋肉の躍動と絡みを見せろよぉ」
観客からは大ブーイングだ。
いや、運営さんの判断は正しいと思うよ?
ジャカイモ仲間の皆さんへ
最近は本当にいろいろあって落ち着かない日々ですね。
皆さんの周りはなんとか落ち着いていますか?
とにもかくにも安全第一。
明日もマイペースで、危ないことには「スン」して関わらないようにしましょうね。




