第15話 マトモな人っていないの?
「ヘイヘイヘイ、そんな姿勢で種芋植えられるのかぁい?」
ガレットさんの檄を受けながら僕はスクワットしている。
横でフィンとスヴェンも一緒にやっている。ちなみにアルセイスは逃げた。
「良いね良いね、その汗、ダイヤモンドのように輝いてるぜ!」
目の前で檄を飛ばすガレットさんは土嚢を担いだままスクワットをしている。
アンタの大殿筋がダイヤモンドだよ。
その後は素振り。
これは全員が強制参加。
アルセイスも捕まり、女子連中も混ざっている。
「腰を入れるんだ!ただ回数をこなすんじゃない、体と対話しろ!」
「ウィイィッ!」
いつの間にかみんなで野太い声で返事をするようになっていた。
「踏み込みの体重移動と一緒に振るんだ!得物はお前のトモダチだ!」
そう言うガレットさんは丸太で一緒に素振り。
アレとはトモダチになれそうにない。
一通りの基礎メニューが終わると今度は技術訓練。
「オラオラオラ、行くぞ!」
「バッチコーイ!」
「千本ノック!」
「しまっていこー!」
ガレットさんの声にみんなで声を上げる。
なんかもう、よくわかんない。
敵の攻撃を捌く訓練。
魔力でコーティングされた泥団子をガレットさんが打ってくる。
アルセイスが魔力総量向上のために作らされている。
「ヘイッ」
後ろ手に催促するガレットさん。
「ヘイッ」
アルセイスがボール(泥団子)を渡す。
「うぉぉらぁ」
ただの泥団子が火を吹いた。
ああっ!?
「ぶっ!?」
弾雨を避けていたリムアンが転ぶ。
「こ、コーチ、もうダメ」
弱音を吐く。
「大丈夫だ、お前の足も腕も終わっちゃいない。まだトスを上げられる。レシーブでつなげられる。みんなと心を繋いで、明日にアタックだ!」
「はいっ、コーチ!」
……競技変わってない??
最後に走り込み。
「走れ!風を感じろ!お前たちは風になるんだ!」
延々と檄を飛ばしながらガレットさんが並走する。まるでホラーだ。
しかも土嚢を担いでいる。
「大地を踏みしめろっ!地面から力を貰えっ!ポテトのように力を貰うんだ!」
そしてすべてのメニューが終わった。
息も絶え絶えの僕らの前でガレットさんは爽やかに笑ってポージングする。
「今日、頑張ったお前たちはMVPだ。辛いことに堪えられる勇気あるジャガイモ戦士だ」
「こ、コーチ……」
「さあ、みんなで明日に向かって叫ぶぞ!」
「「「ヴィィィクトリィィィィッ!」」」
思い思いのポージングで虚空に向かい叫ぶ。
…
……
………はっ!?
僕は何をさせられていたんだ?
◇
「ふんふんふんふふ~ん」
お姉ちゃんがご機嫌だ。
ハティさんと再会してからずっとこんな感じ。
(可愛い妹と弟に囲まれて私は今、最高に幸せね!)
……妹っていうのは嬉しい。
いつか、「先生」じゃなくって「お姉ちゃん」って気軽に呼べるようになりたい。
「コレット、そこ水たまりがあるよ」
ハティさんがさりげなく手を差し伸べてくる。
(君が汚れてしまうのは忍びない。さあ、僕の手をとっておくれ、可憐なお嬢さん)
……とっさに出しかけた手を引っ込めて、私はジャンプして水たまりをやり過ごした。
(ああ、残念。でも、無邪気にジャンプするコレットも可愛いなぁ)
ハティさんの重たい愛情が視える。
そろそろ私もこの力についてわかってきた。
その1、言葉と思っていることが違う、つまり嘘をついているとイメージとして“視える”
その2、強い感情がイメージとして“視える”
その3、魔力の塊みたいなもの、特に黒い色をしているのが“視える”
ちなみに“視える”って言っているけれど、脳裏にその人がしゃべっているイメージが浮かぶ。
そして、私が視界に納めていないと“視る”ことはできない。
お姉ちゃんとハティさんは言っていることとやっていることが同じだから、1つ目の視え方はしない。どっちかっていうと2つ目の方で視える。
そして、ハティさんだけ3つ目が当てはまる。とても黒く、深くて……怖い。
見た目は超イケメン。銀髪の王子さまって言ってもいいくらいで優しいのに。
「ところで姉上、目的地はどちらでしょう?」
ハティさんののんびりとした問いに、お姉ちゃんが不敵な笑みを浮かべる。
「まずは下ごしらえをしに行くのです」
それからゴキゴキと拳を鳴らし始める。
(クククク、私のかわいい領民たちを、かすめ取ろうだなんて万死に値します)
今さらながらだけど、お姉ちゃん血の気が多い。
(まずは手始めにアイツらの手下どもをいたぶってから、乗り込んでやりますか)
白銀の虎将軍の二つ名どおり。
ハティさんは噂に反して温厚……というよりのんびり過ぎておじいちゃんっぽい。
「そうですかそうですか、腕が鳴りますねぇ」
(姉上、嬉しそう。実に楽しい旅になりそうだ。……コレットやっぱり可愛いなぁ)
訂正、この人も最悪の魔人だった。
◇
田舎道で悲鳴が上がる。
いかにもというガラの悪い連中が荷馬車を取り囲んでいる。
倒れている男性は足蹴にされていた。
まだ三十歳にも届かないであろう女性が少女を胸に抱いて怯えている。
「荷物はいただいていくぜ」
そう賊の一人が言う。
「おい、ついでにそっちのも連れてこい」
他の賊どもが女性と少女を囲み、手を伸ばそうとした。
その時だった。
「とぉぉう!」
掛け声と共に宙を舞い、立ちふさがる者がいた。
「なんだテメェは!」
賊たちが声を上げる。
「フッ」
その男は鉄紺色のマフラーを風になびかせて不敵に笑った。
「黄泉路を急ぐ者に名乗っても仕方あるまい。だが、慈悲だ。三途の川の六文銭代わりには教えてやろうか」
左腕を腰だめにし、バッと右腕を左上に突き出す。
それから半円を描くように右腕を腰に持っていき、同時に左腕を突き出す。
「ハティ・アガートラーム・マクスウェル!」
どおぉぉんと背後で爆発が起きた。
背後に庇った女性と少女は不思議と守られているが、それ以外は爆風に煽られてしまう。
「ぎ、銀の右腕っ!?」
「ハッタリだ!」
ぞろぞろと賊が武器を手に集まり始める。
「この右腕が訴えかけてくる……そう『汝、蕾愛好者ならば護れ』と」
「ロリコンが何を血迷いごとをっ!殺れっ」
そう言って賊がハティに襲い掛かろうとした。
「どぉぉぉらぁぁぁぁ!」
雄たけびと共に突っ込んでくる者がいた。
そして問答無用に賊を殴り飛ばす。
吹っ飛んだ賊は錐もみしながら宙を舞って茂みの向こうへと消えた。
「悪い子いねぇがぁ、いじめっ子はいねぇがぁ」
おどろおどろしい気を放ちながら、コハァと息を吐く銀髪美女がいる。
「あ、あう……」
あまりの異様さに賊がたじろぐ。
「悪者はお姉ちゃんが……ぶっ殺してあげるんだからっ!」
咆哮する。
その後は瞬きの間に終わった。
ハティの高速の打突とエリーゼの剛力による暴行。
なぜか気絶した賊たちはミルフィーユみたいに積み重ねられていた。
「お嬢さん、大丈夫ですか」
ハティが恭しく膝をついて声をかける。
「あ、はい」
そう女性が答えるが、ハティは舌打ちした。
「いや、アナタじゃなくてっ、そちらのお子さん」
「……あ、はい」
混乱しながらも女性が抱いて庇っていた少女を覗き込む。
「ふぇ」
女の子は怯えて鼻水を垂らしている。しかも、団子のような鼻をした雀斑顔。
「ああ、ああ、もう大丈夫だからねっ、泣かない泣かない。悪い奴はやっつけてあげたからさ」
ハティは贔屓目にも可愛いとは言い難い幼女の鼻水をマフラーで拭ってあげる。
「飴ちゃんあげようか、おいしいよぉ」
頭を撫でて安心させる。
不審者のようなようなご機嫌取り。
「ハティ、この旦那さん重傷なんですから遊んでいないで街に連れていきますよ」
後ろでエリーゼの声がする。
「あ、はい。姉上……って姉上の法術ですぐに治せるでしょう」
「そこは、ほら、『お約束』ですよ」
「ああ、『お約束』ですね」
ジャガイモ仲間へ
日曜日の夜ですね…
明日は月曜日。非常にダルい感じです。
明日、仕事の人も学校の人も、もちろん家から1歩出ようと頑張る人も、ハルくんたちの特訓(?)を思い出して脳内変換してみてください。
ちょっとした区切り、5分でもできたら脳内でガレットさんと「ヴィクトリー!」とシャウトしましょう。




