第13話 熟成芋を持って行こう!イモはいいものだ。その頃「脂身くん」はマスターとして覇道を歩み始める。
「おい」
フードを被った男が声をかけてくる。
反射的にポルコは身構えた。
「そう警戒するな」
男は言う。
「俺は、『共和政府』の者だ」
そう告げる。
「お、俺に何の用が?」
「お前は『使える男』だと思ったからだ」
フードの男は臆面もなく言う。
(お、俺が「使える」?それも、「政府」にとって?)
「お前の立ち振る舞いを観察していた」
「その才能をこんな田舎で埋もれさせるには惜しい」
そう言ってフードの男は近づいてくる。
ポルコとて知っている。
共和政府になってから、有能な者は身分を問わずに仕官できるようになっていた。
「お前は、特に『陰で操る支配者』の器だ」
その言葉にポルコはのぼせる。
(お、俺が、支配者の器!?)
「俺は、実は政府に反逆の意思を持っている」
(実は反逆者だって!)
もはや痛々しいまでの中二病設定。
だが、ポルコはその言葉に心が躍った。
「私は私の仲間たちを率いる者を探していた」
男はそこで一度言葉を区切った。
「『主人』には知恵あるものを選びたい」
ポルコは唾を飲んだ。
「お前は、我々を率いる『マスター』足る器だ」
ポルコは興奮した。
「ともにこの国を統べないか?」
「現体制をひっくり返して」
ポルコは無言で首を縦に振った。
ぷよんぷよんと肉が波打った。
「それは僥倖」
フードの男が口の端を歪める。
「ところで、マスター。我々の覇道を邪魔する者がいる」
「あなたの知る中で、『医術に長けた白銀の髪の女』はいるか」
その言葉にポルコはすぐに「エルザ」に思い当たる。
「いる」
「どこに?」
「麓の村。ノービス村の孤児院だ」
その言葉にフードの男は笑う。
「その者は害悪だ。アナタの覇道を邪魔する」
「これから、この村を足掛かり始める『覇道』の、な」
そして、男は言った。
「これから排除しに行くが、マスターはどうする」
「俺も行くよ」
ポルコは前のめりで言う。
「だが、殺すな」
ポルコはそう続けた。
「ほう?」
「ソイツは俺が辱めなければ気が済まない」
そう言ってポルコは下卑た笑いを浮かべる。
「それに、うまいやり方がある」
そう言って自慢げに胸を反らす。
腹の方が突き出たが。
「ああいう『正義面』した奴は、周りの奴らに非難されるのに弱いんだ」
「まずはシスターの婆ぁに金を握らせて追い出させる」
「出て行こうが行くまいが、アイツを『晒す』」
「凹んでいるところを捕らえて……後は、『お楽しみ』」
そこまで言い、「ブフフフ」と涎を垂らす。
「さすがは、我が『マスター』」
フードの男は言う。
「他者を操り、敵を挫くという智謀。まさに将の器だ」
「だろう?」
ポルコは気をよくして笑う。
◇
お姉ちゃんが難しい顔をしてハルが届けた野菜を見ている。
(なに、これは……)
嫌悪感じゃない。
とても驚いているのが「心の声」で伝わってくる。
(魔力じゃない、何かの「加護」?清浄な神気を放つ野菜って?)
それからジャガイモを手に取った。
(特にこれは強い「神気」を蓄えている。下手をすればエクスポーション並の……)
(「ハル・ロッシェ」やっぱり……「ロッシェ一族」で間違いない)
お姉さんはジャガイモを籠に戻す。
(それに、あの【棒】。間違いない、アレは――――)
足音が近づいてくる。
「腹減ったぁ~」
みんなが帰ってきたんだ。
「エルザさ~ん。腹減ったよぉ」
みんなが口々に言う。
「まだご飯には早い!」
お姉ちゃんが声を上げる。
「え~」
ぶーぶー文句を言いながらみんなが厨房に向かってくる足音。
「喉渇いた~」
「そんなの、唾飲んで我慢していなさい」
どっかのオカンみたいなことを言う。
私ものぞき見していたことがばれないように、そっとその場を離れた。
◇
僕は「ハル・ロッシェ」。
いたって、「普通の農家」だ。
その僕は、今、大事な時期を迎えている。
〈あ……〉
「アンジェ」さんのため息とも取れる声。
僕は、そっと左手で抑える。
しっとりと柔らかな感触。
少しさわさわと手をくすぐる。
〈ロッシェ……〉
アンジェさんが声をかけてくる。
〈そこ……根元にある小っちゃいそれ……〉
うっとりとした彼女の声に僕は頷く。
右手で根元にあるぷっくりとしたそれを摘む。
〈乱暴にしちゃダメよ〉
「わかっているよ」
そう言ってさらに奥へと指を這わせる。
〈ああ、ロッシェ、上手よ―――――〉
「じゃあ、いくね」
僕は右手を動かした。
―――――プチッ
〈ああ!いいカンジ!〉
細いわき芽を摘み取る。
〈キレイに取れたわね〉
「ふふふ、これぞ熟練の技さ」
何をしているのかって?当然「芽かき」さ。
残すべきは「ゴンぶと」イケメン。
それを残して、根元から生える「わき芽」を取るのさ。
非常に神経を使う。
でも、そうすることで、栄養が分散されることなく育つんだ。
〈今日はお天気も良くって、最高の「芽かき」日和ね〉
【土寄せ棒】の「アンジェ」さんが機嫌良さげに言う。
今日は「金先」のないただの「棒」。
〈ああ、でも日焼けしちゃうかも〉
「健康的に日焼けしたアンジェさんも素敵だよ」
〈やだぁ、もう、ロッシェったらぁ〉
「あとで、オイル塗ったげるね」
〈ふふふ、楽しみ~、でもぉ、ヌルヌはぁ、ダ・メ・だぞっ!キャハァッ!〉
作業の手を止めることなく談笑する。
「あ、そうだ」
〈ん~、どうしたの?〉
「熟成させたジャガイモさんがまだあったよね」
〈ああ、けっこうあったわね〉
アンジェさんも憶えていたみたい。
「エルザさんに持っていってあげよう。喜ぶかなぁ」
〈アンタね~、なに貢いでいるのよ〉
アンジェさんが呆れたように言う。
「違うよっ、ほら、エナを助けてもらったお礼!一回きりじゃ返せないだろ」
〈ふぅ~ん〉
疑わしげに言うアンジェさん。
「本当だって。それに、コレットや孤児院の子たちも喜ぶだろ」
〈べつに~、いいけどさ~〉
◇
「フッ、リムは賢い」
リムアンが左手の中指で眉間を抑え、指の間からゴーレムを見る。
「既にヤツの弱点を看破した」
半身でポーズをとっているリムアンに対し、アルセイスとスヴェンが囁き合う。
(ねえ、たぶんコアのことを言ってるんじゃないかな)
(余計なことを言うなって、わかっていても言わないのが兄妹の優しさだろ)
バッと左手を前に差し向ける。
「ヤツが修復する時、中心に核のようなものが見えた。おそらくそれが動力源。魔術で動く木偶人形ならば、それを破壊するとどうなるか」
クックックッと忍び笑いをもらす。
「火を見るよりも明らか。哀れな傀儡よ、相手がこのリムアン・マクスウェルであったのが不幸だったな」
(ああ~やっぱりかぁ)
「そういうことで」
リムアンがアルセイスを振り返る。
「火力担当」
「はいはい」
アルセイスが心得たとばかりに杖を構える。
「【エア・ブラスト(風爆)】」
風の魔術で衝撃波を放つ。
ストーンゴーレムの体にヒビが入る。
「ちゃんとリムも働く」
言い終えると同時にゴーレムとの間合いを詰める。
瞬きの間に距離を詰める瞬発力。
小柄ながらに長柄武器である斧槍を軽々と振るう。
ひび割れた箇所を的確に叩く精巧さ。
ゴーレムの体に連撃を加えてヒビ割れを大きくしていく。
しかも、修復の間を与えない。
「もう一発」
そう言って後ろへ跳んで距離をとる。
「【ウィンド・ランス(風槍)】」
アルセイスは今度は錐のように渦巻いた風の槍を投じる。
「――-十条」
十条の槍がゴーレムを貫く。
ゴーレムの外殻が壊れ、コアがむき出しになる。
「チャンス」
リムアンが踏み込もうとしたした瞬間だった。
闇から一筋の矢が飛び、コアを破壊する。
「クロエ」
リムアンが恨みがましい目で暗闇を見る。
闇の中に琥珀色の瞳が浮かび、こちらを見ている。
「てへっ、だニ」
ぺろっと舌を出す。
「可愛くないっ、腹立つっ、リムが決めるところだったのに」
「ごめんだニ」
闇が揺らぎ、フードを被った少女が姿を現す。
「ずっと隠れていて何もしないくせに、いいところだけ持っていくのズルい」
「スナイパー(狙撃手)が姿現してどうする二」
しっぽをユラユラさせながら言う。
「うう~。ハティは『狩りはみんなでするもの』って言っていた!」
「私はあの犬っころの子どもじゃないニ」
「リムも子供じゃない!」
無言でにらみ合う。
「やるか、チビッ子」
「クロエもチビッ子」
「ちょっとだけ大きい二」
「耳の分だけね!」




