第12話 仲直りの握手と誤解される僕。その裏で活躍中の「モズク」冒険者の話
僕は改めて「ノービス村」の教会に来た。
エルザさんに言われた「野菜」をお礼に届きに来たんだ。
本当はワインも持って来たかったけれど、ポルコたちがうるさいだろうからやめた。
今日はエナもついてくると言ってきかなかったので仕方なく連れてきた。
というか、お隣さんのハンナまでついて来ている。
「ハンナちゃん、エナはね、おねえちゃん先生にお礼を言いにいくの」
「エナは偉いね」
非常に気まずい。
エナとハンナは仲がいい。
僕たちが働いている間は彼女がエナの面倒を見てくれている。
この間のことだって感謝をしている。
僕は「いつもありがとう」ってお礼を言ったりしている。
それなのに、ハンナは僕に素っ気ない。
他の子がいる時は、結構話すのに。
〈……〉
アンジェさんもなぜか黙っている。
僕はハンナに悪戯なんて、もちろんしたことがない。
「えっと、この道の先にある孤児院にいるんだって」
僕が言うと、ハンナは「そう」とだけ返事をしてエナの手を引く。
ほんと、こんな感じだ。
馬車でこの村まで荷運びをする人がいたので乗せてもらった。
おかげでこの気まずい時間が短縮された。
良かったといえば、そうなんだけれど。
僕、何か気に障ることしたかなぁ。
村に来てはしゃいでいる妹の手を引き、歩いているハンナを見る。
「なに?」
「え?いや、なんでもないよ。ハンナはノービス村に来たことあったっけ」
「お父さんの仕事で一緒に来たことがあるよ」
「あ、そうなんだ」
そういえば籠を背負っている僕も行商人みたいだ。
◇
教会の扉を開く。
「すみません」
声をかけるが、誰も出てこない。
「いないね」
エナが言う。
「そうだね」
礼拝堂を見渡す。人影がない。
そういえば奥の扉は孤児院に繋がっているんだっけ。
僕はふたりと一緒に奥に入る。
石造りの薄暗い廊下。
ちょっと気味が悪いな。
エナも同じように感じたのか僕と繋いでくる。
「誰?」
廊下を歩いていると声をかけられる。
思わず体が跳ねた。
恐る恐る振り返ると、女の子がいた。
ボサボサの栗色の髪。
よく見るとお下げにしているけれど、わからないくらい適当なまとめ方。
前髪も鼻先まで伸びているので表情があまりわからない。
相手も僕の動揺を感じ取ったのか、指をもじもじと動かしている。
「……ごめんなさい、びっくりさせるつもりはなくて」
視線を泳がせながらぼそぼそと呟くように言う。
あれ?コレット?
暗いから、わからなかった。
「あのね、エナはお礼を言いに来たの」
おお、わが妹よ、ナイスだ。
この気まずい雰囲気が何とかなりそうだ。
「お礼?」
「そうだよ。おねえちゃん先生におなかが痛いのをなおしてもらったの」
「そう、なんだ」
あんまり空気感変わらない。
けれど、一応コミュニケーションはとれている。
「たぶん、エルザさんは裏庭にいるよ」
そういうとコレットは急ぎ立ち去ろうとする。
「エナはうらにわがどこかわからないよ」
「え?」
正直すぎる妹の言葉にコレットは戸惑った。
「うらにわってどこにあるの」
「あ、う」
彼女は困ったようにまた手をもじもじと動かす。
「あのさ、コレット!僕だよっ、ハル」
そう声をかけた。
途端にコレットの顔が華やいだ。
「ハル!」
そう言って近づいてくる。
「ちょっと、気づくの遅いよぉ。酷いなぁ」
「ごめんなさい。暗くて、気づかなかった」
「コレット、うっかりしすぎ。僕もだけれどさ」
お互いに笑い合う。
ぷく――――――
あれ?
なんで、ハンナもエナも膨れているの?
〈……はぁん?どうぞ、ご自由にぃ〉
アンジェさんもご機嫌な斜め。
◇
「あーっ、コレットにイタズラしてるヤツがいるっ!」
男の子の声がする。
この声に「なんだなんだ」と子供たちが集まってきた。
「なんですか、あなたたち」
シスターまで登場した。
「誰かわかんないけど、コレットにイタヅラしているヤツがいたから」
ちがう、ちがいます。誤解です。
「ちがうよっ」
妹が言い返す。
ありがとう妹よ。代弁者になってくれて。
「じゃあ、なんでコレットの手を握ってるんだよ!」
男の子の声に「そうだそうだ」と他の子も同意を示す。
あっ!?しまった。つい勢いで……
〈チィ!たらしがぁ〉
アンジェさん?どういうことでしょうか。なんで寝返ってるんですか!?
「お兄ちゃんは変質者じゃないっ」
エナが言う。
でも、声が震えている。
「いっつも【棒】さんでヤバい人してるけど!」
って、違うよ!エナっ!?
「お母さんが、ちゃんとした人にするって言ってたもん」
コレットがさっと僕から離れた。
なんでそうなるの?
「なんだよ、やっぱり『変態』じゃないかっ嘘つきめっ」
「ウソついてない!お兄ちゃんは『変態』じゃない!」
「女の子の手を握るなんて、いやらしいだろっ!」
「いやらしくない!お兄ちゃん、エナのこともいっつも優しく触ってくれる!」
あの~、妹さん?
言い方、気をつけて。
僕は頭を撫でたことはあっても他は触ってないからね?
それだと、誤解されるよ?
ああ、なんでハンナまで離れ始めるの?
とにかくここは、お兄ちゃんがしっかり説明しないと――――
「あの――――」
僕が言いかけた時だった。
「あれあれ~、何してるの?ケンカ?ケンカなの?」
僕が話す前に女性の声がする。
エルザさんだ。
「よぅし、誰だぁ相手は。ちゃんと拳で語り合いなさいよ」
ダメだこの人。
なんで煽るかな。
にこにこ笑いながら割り込んでくる。
「あら?あらあらあら、何?その野菜。くれるの?」
目ざとく僕の背負っている籠を見る。
「はいっ、この間のお礼に」
助かったとばかりに食い気味に答える。
「あら、いいのよぉ気を遣わなくたって、しかもこんなにたくさん」
エルザさん、ちょっと仕草がオバサンっぽい。
それからすぐにふんぞり返って、後ろの子たちに偉そうに言った。
「よぅし、皆の者。この者たちは我々に貢物を持ってきたのだ。許してやるが良い」
不満げにしている子供たち。
それをよそにエルザさんはコレットに近づいた。
「コレットはこの人にヒドイことされたの?」
ビシッと僕を指さす。
やめて?お願いだから。
コレットは頭を振る。
「いじめられた?」
さらに頭を振る。
それをうんうんと頷いて頭を撫でる。
「ならば、よし」
そういうとコレットの手を引いて僕たちのところに来る。
「あなたはエナちゃんね」
エルザさんがしゃがんでエナの顔をみる。
「うん」と頷く妹に、笑いかける。
「誤解があったみたい。ごめんね」
そう言ってそっと肩に手をあてる。
「おねえちゃんと仲直りしてくれる?」
エナは基本素直な子だ。
そしてとても優しい。
エルザさんは大きく頷く妹の手をとる。
そして、とても優しくコレットの手に重ねる。
「はい、仲直りのあくしゅ~」
エナとコレットを握手させる。
「じゃあ、解散。かいさ~ん」
手を叩いて他の子を追い散らす。
「それじゃあ、ハルたちはそのお土産を厨房まで運んでね」
それから、寂しそうに笑った。
(私も、もっと『弟』と素直になれたらいいのに……)
コレットが少しだけ驚いたような顔する。
でも、すぐにみんなの勢いに流されてしまった。
なりゆきとはいえ、大所帯になったな。
僕とエナとハンナ、エルザさんにコレットまで加わって厨房まで移動した。
エナはエルザさんのことが気に入ったらしく手を繋いでいる。
ああ、妹をとられたようでちょっと寂しい。
そしてコレットもエルザさんと手を繋いでいる。
ふたりの手を引くエルザさんはお姉さんなんだか、お母さんなんだか。
◇
「いやぁぁぁぁぁ」
悲鳴がこだまする。
「逃げるなっ、リィ」
「無理無理無理」
金髪の青年が咎めるのに対して悲鳴を上げて黒髪の女の子が走り去ろうとする。
「なんか出てきそうな悲鳴だね」
「アル、こんな時に下ネタかよ」
「そう感じるのはスヴェンが変な想像をしているからだよ」
「おまえなぁ」
長髪の美青年と大柄な青年が言いあう。
「だいたい、ウチの女どもはお化けとかいつまで怖がってんだ」
朽ちかけた鎧を身に纏った骨の集団を見る。
「スケルトンって、生で見るとさ、ちょっと肉とが残っていて気味が悪いよね」
「だから、言うなって」
「ぁぅぁぅぁぅ」
「ほら、リムが使い物にならない」
「ああ、ごめ~ん」
「ワザとやってる?」
スヴェンがアルと呼んだ青年に問いかける。
「違うよ~」
スケルトンの一体が真っ二つになって朽ちていった。
「……わたし、知らな人に触られるの嫌いなの」
先ほどまで悲鳴を上げて逃げ回っていた黒髪の子が呟く。
目が据わり、淀んでいる。
「リャナン、スイッチ入っちゃったね」
「アルセイスくん、ずいぶんと余裕ですな」
「バックアタッカーだからね」
「言ってるうちに、こっちにも来たっ!」
骨の兵士たちが群がってくる。
「吹っ飛べ!」
アルセイスと呼ばれた長髪の美青年が魔術を使う。
前列のスケルトンたちが風の魔術で粉砕される。
「ほら、リムっ怖かったら俺の後ろにいろ」
「あ、ありがと……スヴェン」
大盾を構え、右手には片手斧を構えるスヴェン。
その後ろでリムと呼ばれた少女が手にした斧槍を支えに立つ。
◇
「奥に、強い個体がいる」
スヴェンが警戒を示す。
「肉もついているから、ゾンビかな?」
「にしては、異様だな」
アルセイスとスヴェンが話していた時だった。
突然その個体が突如として駆けだす。
スケルトンやゾンビの軍を追い抜かしてスヴェンへと襲い掛かる。
「ぐぅ!?」
ソレは手にしていた剣を叩きつけてきた。
スヴェンは大盾でそれを受けたが、予想以上の衝撃にうめき声を上げる。
「コイツ、スパルトイ(竜牙兵)だ!」
防いだ盾になおも剣が叩きつけられる。
斬るという動作ではない、ただ力任せに殴りつけてくる。
だが、その衝撃に大柄なスヴェンが弾き返すことができないでいる。
勢いに圧され、少しずつ後退する。
「マズイぞ、フィンっ立て直すか?」
そう声を上げるが、フィンと呼ばれた金髪の青年が叫ぶ。
「こっちもヤバいっ、ちょっと待って、そのまま防いでくれ」
見れば金髪の青年、フィンが竜牙兵と戦っている。
黒髪の女の子、リャナンもヒット&アウェイを繰り返している。
しかし、ふたりとも効果的な手が打てていない。
一体に対して二人がかり。
それでも後手に回る強さ。
時折周囲のスケルトンやゾンビが乱入してくる。
「これじゃジリ貧だって」
アルセイスが魔術でスケルトンたちを牽制しながら叫ぶ。
ひとり後ろで震えているリムアンに向かってフィンが叫んだ。
「リムっ、リムアンっ!いつまでも遊んでないで手伝えって」
「ちょと、ホントに助けてよっ、リムアン」
リャナンが叫んだ時だった。
ピッキーン☆
謎の効果音が出る。
「助けを求める声がする……」
先ほどまで怯えていたリムアンが顔を上げる。
「敵を倒せと我を呼ぶ」
「そうだ、お前はできる子だぞ、リムアン!」
周囲で鼓舞する声がする。
「そう、リムはできる子」
ゆらりと斧槍を構える。
「相手はスパルトイと聞いた」
「そうだっ、親父が倒したっていうランクAモンスターだ」
言葉に瞳が輝く。
「ハティが倒した……なら、リムもやらなくちゃ」
斧槍を回旋する。
「リムアン・マクスウェル!参る」
周りが安堵のため息を漏らす。
(リム、スロースターターだからなぁ)
(つか、いい加減、アルスもリムのフォローをしろよ)
アルセイスとスヴェンが小声で言いあう。
「哀れなる屍兵たちよ……リムの斧槍でモズクとなるが良い」
(モズク!?藻屑の間違いじゃね?)
(だいたい、ここって海でもないからね)
間違いを正そうか悩んでいる時に、リムアンが振り返る。
「アルス」
アルセイスを見る。
「薙ぎ払え!」
リムアンが左手を前に差し向ける。
「あ~、はいはい」
指示に合わせるようにアルセイスが魔術を使う。
「【エーテルレイ(霊光波)】!」
光線が飛び、地を焼きながら文字通りスケルトンの軍団を薙ぎ払う。
リムアンが満足げに頷く。
アルセイスに「ぐっじょぶ」とジェスチャーを送った。
それからスケルトンとスパルトイを見て忌々し気に呟く。
「チィッ、やつら腐ってやがる」
「まぁ、ゾンビも混じっているからね……」
「でも、邪魔は退けた」
アルの突っ込みを聞き流してリムアンが鼻を鳴らす。
「今のリムを阻むものはない」
リムアンの体から魔力が漏れ出る。
少女と見間違うほどの小柄な体。
それを膨大な魔力が覆う。
その余波が短めに切られた髪を巻き上げる。
「覚醒したリムの真なる攻撃、受けられる?」
地面を蹴る音。
リムアンの姿がスパルトイの眼前にある。
「近接、槍技。【迅雷】」
剣の間合いより僅か遠く、槍の間合いでは近い距離。
そこから無数の斬撃が放たれる。
スパルトイも応じるが、その速度を捌ききれない。
幾たびも傷を受け、切り刻まれる。
「そろそろ、いいでしょ」
そう呟いてリムアンが斜め後ろに跳ぶ。
「バッチリ」
後ろで力を溜めていたアルセイスが口の端を上げる。
「【エーテルブラスト!(霊爆撃)】」
魔力の塊が奔流となって向かう。
ジャガイモ仲間へ
お休みの人もあればお仕事(学校)の人もいらっしゃったでしょう。
もちろん、外に出ていない人も。
皆さんの明日、なにかちょとでも良いことがあると良いなって、祈っています。




