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第12話 巨人殺しと傭兵と


エルザとコレットの逃避行は割と順調だった。

追跡する者をまくために、最初に森に入った。

「あの……エリーゼ様」

コレットがそう呼んだとき、すぐに失言であったと察した。

あの優しい姉のような表情が暗く悲しみに満ちた顔になったからだ。

「エルザ先生」

すぐに言いなおした。

その様子を見てエルザが苦笑いする。

「気をつかわせちゃったわね」

「いえ……」

言葉が出ない。

「どうする?ここまで付き合ってもらったけど、考え直してもらってもいいのよ」

エルザが静かに尋ねた。

「今だったら、まだ私に囚われていたってことで戻れる。役人の目が届きづらい―――」

「やだっ!」

コレットが叫ぶ。

「なんでそんなこと言うのっ」

「だって」

「だってじゃないっ!」

コレットの剣幕にエルザが黙る。

「あのとき置いて行かないでって言ったよね。私を捨てないでってお願いしたよね」

顔を真っ赤にしながら目じりに涙を溜めている。

「今さらなんでそんなこと言うの、お姉ちゃん」

泣きながらも睨みつけるコレットにエルザは言葉がない。

しばらくの沈黙。

「ごめんなさい」

エルザは頭を下げる。

そしてそっと手を伸ばしてコレットを胸に抱く。

「ごめんね、コレット」

頭を撫でながら謝る。

「そうだよ、ひどいよ」



しばらくは森に潜伏しながら情報収集を続けた。

エルザはいくつか拠点を持っているのか、森の中でも空き家を見つけて過ごすことができた。

壊れたところをエルザはすぐに修復し、食糧調達もこなす。

さすがに主食などは購入しなくてはならないようなので、食料品を求めて村に下り、情報収集をした。


「手配書は回っているみたいね」

エルザは購入したリンゴをかじりながら言った。

「先生、はしたないですよ」

コレットが咎める。

それを「はいはい」と空返事をしながらも嬉しそうにコレットを見る。

「似顔絵がぜんぜん似てなくて助かったわ」

文字を読めない者も多い村だから手配書の似顔絵は重要だ。

だが、それも似ていないのでは意味をなさない。

「これなら、しばらくは大丈夫そうね。パンも買えたし、ミルクもチーズも買えたから、晩ご飯は『私』特製のシチューにしましょうか」

言葉にコレットが嬉しそうに返事をする。

「私、先生の作るシチュー大好き!」

「そう言ってくれると嬉しいわ。母の得意料理だったから」

話ながら農道を歩いていく。



村と森の境まで来た時だった。

「コレット、後ろを振り向かないで。そのまま歩きましょう」

言葉にコレットも異変を察したのか黙ってうなずく。

「ねえ、コレット。今日買えた芋はいくつだったかしら」

「えっと八つです」

「ニンジンは?」

「四本です」

「芋の数からニンジンの数を引くと?」

「四です」

「正解。計算ができているね」

エルザが少しだけ首をかしげる。

「じゃあ、リンゴはいくつ買った?おまけしてもらったのも含めてね」

「七つです」

「さっき食べた分を引くと」

算数の問題をだしながら歩いている。

「私も食べたので、残り5つです」

「そう、五つなの」

だが、コレットに分かりやすいように追跡者の数を教えている。

「よくできているね。あ、そろそろかな」


エルザの言葉通り、石が飛んできた。

「おっと」

二人が立ち止まると茂みから男たちが4人出てくる。

「最近、村を出入りしているな」

一人が声をかけてくる。

「どちらさま?」

「この辺をねぐらにしているモンだよ」

「へえ、そう」

「女二人か。一人はガキだが」

そう言って値踏みするようにエルザたちを眺める。

「綺麗な顔をしてるじゃねえか。特に姉の方はいい体してて……」

この後のことを想像してよだれを垂らさんばかりの顔で見ている。

コレットは不安げにエルザを見るが、当のエルザは表情一つ変えない。

「あん?コイツ、ビビッて固まってるぜ」

エルザを見て笑う。

周りの者も合わせて笑った。

エルザはため息をつくと、手にした荷物をコレットに渡す。

「ちょっとだけ待っていて。動いちゃだめだからね」

言うと、手首のストレッチを始める。


「あん?」

男たちが訝しんだ瞬間だった。

ゴキッという鈍い音が響く。

一瞬で間合いを詰めたエルザの拳が男の顔面にめり込んでいた。

男たちがたじろぐ間もなく、着地と同時に跳ねて回し蹴りを隣の男に叩き込む。

これも鈍い音がして男は倒れた。

「なっっ!?」

そこでようやく二人の男が声を上げたが、遅かった。

二人並んでいるところへ割り込み、頭を掴むとそのまま地面に叩きつける。

エルザは返り血がついていないかを確認して、自身の手を男の衣服で拭う。


「ところで、三下を使って様子見をしているのは、何か意図があるのかな?」

エルザの言葉に木々がざわめく。

木立の陰から男が出てくる。

背の高い、細長いという印象のある男だ。

しかも、のっぺりとした仮面をつけた男。

「噂に名高いリーゼントーター(巨人殺し)。手に負えんな」

「あら、古いあだ名を知っているね」

「素手でゴーレムを滅した化け物とはまともにやりあえん」

「で?逃げて政府に情報を流すの?」

「いや。見逃してくれるならば、他言しないと誓おう」

「そう。物分かりが良くていいね。あなたは」

エルザは手を振って「行っていいぞ」と合図をする。

男は音もなく木立の中に姿を消した。


「先生……」

コレットがようやく声を発したときだ。

エルザがコレットに向かって走り、剣を振り抜いた。

コレットは動けないまま、背後で物が倒れる音を聞いた。

「まあ、こんなことだろうと思ったけれどね」

血振るいをして剣を鞘に戻す。

コレットが恐る恐る振り返ると、先ほどの仮面男が後で倒れていた。


「コレット、大丈夫?」

「あ、はい」

エルザは息一つ乱していない。

「さて、ねぐらで夕食摂りたいところだけれど、ちょっと無理そうね」

残念そうに言いながら、死体の懐を探る。

「う~んめぼしいものは無いわね」

「先生、死体から剥ぎ取るんですか」

「そうよ?足のつきそうなのはダメだけれど、使えるものはね」

コレットは夜盗まがいの振る舞いに驚いていた。

「あ~、ちょっとコレット、勘違いしないでね。昔から追剥してたんじゃないからね」

エルザが言う。

「死体を隠す暇なんてないでしょ?じゃあ、この死体をそのまま放っておいたら?何も盗られていない死体なんて、ただの殺人鬼に会ったか、返り討ちにあったかって思われるじゃない」

コレットは疑惑のまなざしで見ている。

「ほ、ホントよ?何、その疑いの目は」

「いいえ~」



共和国南東部、アダマス地区。

大陸とこの共和国を分断する霊峰がそびえる地区。

旧帝国領と王国領にまたがるこの地区は、ドワーフ族が棲む場所としてしても知られている。

旧王国領北西にはシルバニア地区というエルフ族が棲む地区があるので、その対極とされる場所。

僕たちはアダマス地区の一角、メタラム集落へ踏み入れた。

山肌を繰り抜いたような門をくぐる。

中に入ると、そこは大都市であった。

レンガ造りの家々が立ち並び、様々な人種が行き交う。

天を覆う岩肌のそこかしこには穴が開いていて、陽光も風も入ってくる。


まずは食事ということで僕たちは酒場に入った。

母さんやエナも疲れているからどこかで休ませたいというのが本音だ。

でも、お金がない。

遠慮している僕たちに「いいんです」とフィンたちがお金を出してくれる。

「俺たちのせいでもあるので、罪滅ぼしにこれぐらいはさせてください」

いつもそうやって僕たちのことを気にかけてくれる。


「あれ?どうしたのお前ら」

元気のいい声が聞こえる。

振り返ると赤毛の女の子が木箱を抱えて戸口に立っていた。

「ルーダ、久しぶり」

「久しぶり、リィ姉。で、その人たちは?」

「あ~話せば長いんだけど……」

「じゃあ、後でいいや。納品だけ先に終わらせるわ」

さっさと行ってしまう。せっかちな子なのかな。

「あの子は?」

「妹のルーダ。あ、もちろん孤児院での」

リャナンが教えてくれた。フェンリルナイトは同じ孤児院出の子で構成されている。

そして、その孤児院の支援をしていたのが「白狼将軍」だった。

彼の名前は「ハティ・アガートラーム・マクスウェル」。

ハティさんは僕のお父さんの上官だった人。

「そうなんだ」

「ルーダが末っ子だよね」

「だな」

フィンの同意に僕は驚く。う、うそだろ。

リムアンを見る。

「何?失礼なこと考えてない?」

「あ、いえ、あはははははは」

だって、ルーダって子、身長は僕と同じくらい。

で、作業着の上からでもわかる成長具合はリャナンのそれよりも立派だ。

「お兄ちゃんそういうの、良くないよ」

エナが注意してくる。え?顔に出ていた?

「後で一発殴らせろ」

リムアンがこっちを睨み付けている。ヤバ……

母さんは声を殺して笑っていた。



ルーダが戻ってきた。

調理器具の納品だったらしい。

メンテナンスは料理人自身がやるので、替えが必要なものを納めたというのだ。

「で?」

事情を聞いてきた。なんだろう、末っ子なのに貫禄がある。

フィンがかいつまんで説明してくれた。

「アンタ、ハルだっけ」

急にルーダが僕に声をかけてきた。

「え?うん」

にっかりと歯を見せて笑う。

「見かけによらずやるじゃん」

そう言って肩を小突く。力、強い、結構痛い。

それから急に真顔になって頭を下げてきた。

「ありがとう。父、ハティ・アガートラーム・マクスウェルに代わってお礼を申し上げます、ハル・ロッシェ」

「え?いや、頭を上げて」

僕は恐縮してしまい、そう言った。

ルーダは顔を上げると、またにっこりと笑った。

「敬愛する当主の名誉を守ってくれた、その功し(いさおし)。心より感謝を」

雀斑顔の彼女の笑顔が、とても美しく見えた。

「そして魔狼騎士団フェンリルナイトへようこそ。義兄弟」

……はぁぁぁっ?またそれ?



「とりあえず、住み家については親方に相談してみる。親方、顔がきくからさ。で、先立つものがないんじゃ身動きも取れないだろうから……」

ルーダを先頭にぞろぞろと鍛冶屋に向かう。

ルーダが住み込みで働いている鍛冶屋は、ギースというドワーフの工房だ。

なんでも伝説級の名匠で、歴代英雄たちの武器は彼の作だとか。

僕は話半分に聞いていた。


「ここだよ」

ルーダの案内で入って行く。

「いらっしゃい」

ぶっきらぼうな声。

「あれ?親方」

僕は驚いた。

ドワーフって聞いていたから髭もじゃをイメージしていたけれど違った。

人間の成人男性とあまり変わらない見た目。

髪を短く切り、生えているのは無精ひげくらい。


「店頭にいるなんてめずらし……」

言いかけたルーダが別な方に視線を向けて目を輝かせた。

ギースさんとカウンターで話していお客さん。

その大男が片手を挙げる。

「おう、元気そうだなジャリん子」

黒い髪を無造作に後ろに撫でつけたようなヘアスタイル。

鋭い眼光に両頬の傷。眉間にも傷跡がある。

ルーダの表情が一気に華やいだ。

「ガレット、いつきたの!?」

駆け出してその体に抱き着く。

「痛っってぇ、オマエ、でかくなったんだから加減覚えろ」

「しらないよぉだ」

ぐりぐりと顔をこすりつける。

「ルーダ、いい加減にしないか、ガレットを離してやれ」

ギースさんが注意する。

「親方ぁぁ」

ルーダが恨みがましい顔で声を上げる。

ガレットと呼ばれた人がルーダの頭を押して離す。

「おう、ガキどももそろい踏みだな。って、なんで夜逃げしてきたみたいな人連れてんだ」

「夜逃げしたんですよ」



僕たちの事情をフィンレーが説明した。

「そうか」

そう言ってガレットさんが僕を見る。

「ハルっつったけ?」

「はい」

「ちょっとこっち来い」

「はい」

「歯を食いしばれ」

言われて歯を食いしばったら、頭に拳骨を落された。

「お前は間違っている」

「なっ!」

フェンリルナイトのメンバーが腰を浮かした。

「アイツらは姐さんの名誉を守ったって浮かれて、お前を持ち上げている。けれど、俺にしてみればお前はバカ野郎だ」

「結果を見たらわかるだろう?」

「その豚野郎の挑発に乗せられて、お前の一番守りたいものを守れなくなった」

彼の言葉が僕の胸に刺さったトゲの姿を明らかにした。

「お袋さんも妹もお前のことが好きで、言えない。お前の頑張りを知っているから、言えない。でも、誰かが言わなきゃなんねぇ」

僕の目を覗き込んで彼が言った。

「じゃなきゃ、お前自身が許せないだろ」

ガレットさんは寂しそうに笑った。

「バカ野郎だな。そんなになるまで我慢してよ。やったことは間違っちゃいるが、お前の心根はなんにも間違っちゃいねぇよ」


ジャガイモ仲間へ


土曜日の夜はどうですか?

お休みの人もあればお仕事(学校)の人もいらっしゃったでしょう。

土日祝がお仕事の人もいらっしゃることと思います。

もちろん、外に出ていない人も。

ハルくんの行為は褒められたものではありませんでしたが、彼の拳骨が皆さんの中の「ポルコ」をノックアウトしてくれていたら嬉しいです。


あ、次回からついに彼ら(彼女たち)が本性を現します。

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