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第10話 僕にだって我慢できないことがある


「アンタがハルって名前のヤツ?」

いきなり声をかけられた。

振り返ると、髪を肩ぐらいの高さで切った女の子が立っている。

ちょっと青色がかった変わった髪色の子だ。

「ねぇ、どうなの?」

「あ、ああ、そうだよ」

「ふぅん」

じろじろと頭の先から足元まで眺められる。

「エルザって人に会ったんだよね」

またエルザさん?どんだけ有名人なんだ。

「ねぇって、どうなの?リムが聞いているの!無視すんな」

小柄なその少女はいらだたしげに催促する。

「あ、うん。会ったよ」

「そっか、なら詳しく聞かせて」

いきなり手を握られ、引っ張られる。

ちょっとドキッとした。

話し方はアレだけど、目の前のこの子、メチャクチャ可愛い。

釣り目がちだけどクリッと目が大きいし、目鼻立ちが整っている。ちょっと猫っぽい。

エルザさんもそうだったけど、僕って髪が短めの子が好みなのかな。

美少女に強引に誘われて茂みに……なんというシチュエーションか。


そう思っていたら人影があった。

「みんな、コイツがハルだって」

僕の手を引く子がその人たちに声をかける。

「ね、やっぱり私の言ったとおり」

黒髪の女の子が言う。

「お主も悪よのぅ、まさかリムで釣ろうなどと」

金髪の男の人が言う。

「なに、その喋り方……」

長い髪を後ろで束ねた美青年が呆れたように言う。

「結果オーライって奴かね」

でっかい男の人が肩をすくめる。

「え?なに?」

リムって呼ばれた子が聞くとその人たちは「別にぃ」と横を向いた。

と、いいますか、これが美人局ってやつなんですか。僕はお金なんて持っていません。

「ほら」とリムさんは僕をみんなの前に押した。

「え、えっとぉ」

だいたい僕と同じような年齢の人たち。

「おぅおぅ、おまえ、うちの可愛いリムちゃんにぃ何をしてくれてぇんだよぉ」

黒髪の子が眉根を寄せながら僕の顔を覗き込むようにする。

というか、この子もメチャクチャ美人。

ストレートのロングヘアで、ダークブラウンの瞳。

色白の卵型の顔にスレンダーだけれど手足が長くてスタイルがいい。

「あ、え?」

わけがわからずにぽかぁんと口を開ける僕にたたみかける。

「うちの子に、手ぇ出してただですむとぉあ、思いなさんなよぉ」

なんなの、この口調。

本人は凄みを利かせようとしているみたいだけれど。

ちょっと間延びしたような声だからぜんぜん怖くない。というか、かわいい。

「バカなこといつまでやってんの。リィ」

リムって子が呆れた声で言う。

「というか、みんなもなんで何も言わないの」

「え、いや、おもしろくて」

「バカ丸出しじゃない」

「ひっどぉ、リムっそれ傷つく」

「だって本当じゃない」

僕をそっちのけで口論が始まる。

帰っていいかなぁ……


「ごめん。急に連れ出して。聞きたいことがあったんだ」

金髪の子が言った。

「ああ、自己紹介が先かな?」

そう言って彼は言った。

「俺、フィンレーって言うんだ」

金髪の子が言う。

「私はリャナン」

黒髪の子だ。

「僕はアルセイス」

美青年が言う。声もカッコいいなぁ。

「俺はスヴェンな」

筋肉ムキムキのでっかい人が名乗る。

四人が名乗ったんだけど、リムって子は何も言わない。

「ほら、リム」って黒髪の子、リャナンが促した。

やっと「リムアン」って名乗った。

「あ、僕はハルです」

「うん。そのハルに聞きたいことがあって俺たち来たんだけれど」

「エルザさんのことですか?」

「そう、そのエルザって人のこと」

「別にいいですけれど」

「お前、いい奴だな」

フィンレーが屈託なく笑う。

「じゃあさ、エルザさんって銀髪だった?」

「うん。銀髪で青い瞳」

「他に特徴は?これ、大事なポイントね。体つきとか」

「背はそんなに高くない。僕と同じかちょっと高いくらい。僕と歳が変わらないのかなって思うくらい若かった」

「他には?」

「え?」

「胸は」

「え、いや」

「胸の大きさ!」

「とても大きい方でした」

なぜか恥ずかしくて畏まって言ってしまった。

女の子二人は「そのアイデンティティは棄ててないのかぁ」とか悔しがっている。何なの?

「他になんか仕草とか、特徴なかったか?そうだ、魔術とか」

「えっと、なんかクールな感じでサッパリした言動。なのにちょっと喧嘩っ早い?」

「んん?クール??何か遠のいた…」

「あと治療の魔術っていうの?使ってた。お医者さんだし」

「それだっ!」

5人とも声をそろえて叫ぶ。

「やっぱり、アタリ」

「じゃあ、リィが城で見たのは?」

「本人じゃない?」

え?なに、何の話?僕を置いて行かないで。

「な、ハル。俺たちその人を探しているんだ。行先わからない?」

「ごめん。知らないんだ。憲兵に捕まりそうになって逃げたってことしか」

「そうか」

「栗色の髪をしたコレットって女の子を連れていると思う」

「え?なんで」

「人質にしたから」

「はぁ?!」

再度5人は顔を合わせて内緒話を始める。このやり取り何回目なんだ。

「ありえないありえない、別人じゃないの」

「だよな、『人質』ってあの人の頭にあるか?」

「激しく同意。騎士道バカなのに?」

「あ、バカって言った。言いつけてやる」

「やめろっってマジで殺されるから」

「人質とるくらいなら全員抹殺するよね」

う~んと唸り始める。

この人たちマイペース。早く戻らなきゃいけないってのに。

「あの~」

「なに?」

「いや、人質っていえばそうなんだけれど、コレットの方からお願いしたっていうか」

「え、そうなの」

「うん。ついていきたいって。エルザさん困ってたんだけど僕もお願いしたから」

「またも謎が深まるね」


ポルコが呼ぶ声がする。

「おい、どこ行った?なに勝手に作業抜けてんだよ」

「あ、ヤバい」

僕が言うとフィンが「悪い」って謝ってきた。

「俺らが無理に連れ出してきたから」

「いいよ」

「いや、でもさ」

そう言ってくれるフィンレーって優しいな。

「じゃあ僕は行くね。エルザさん探し、頑張って。会えたらさ、僕が『妹のことも含めていろいろありがとう』って言ってたこと伝えてね」

手を振って作業場に戻る。

遠くでフィンレーたちが何か言ってるのが聞こえたけれど、ポルコの叫び声で聞き取れなかった。

走って戻ったけれどポルコさんはお怒りだ。

「おまえさ、何やってんだよ。耕すのみんなでやらないと大変なんだぞ。この間は樹を固定している紐を切っちゃったりさぁ」

ポルコが説教を始める。

「ミス多くないか?仕事の憶えも悪い、作業も遅い、注意力や責任感もない」

「ごめん」

僕は謝るけれど、コイツはそういうのは関係ない。自分はさておきミスはすべて僕のせい。

ただ怒りたいだけなんだ。

「おまえ、この仕事向いてないんじゃないの」

僕が何をやってもダメで使えない奴ってのはわかるけれど、他のところでやれる自信もない。


「ごめん、気をつけるから、がんばるからさ、クビにだけは」

僕が言った時、後ろからフィンレーの声がする。

「悪い、俺たちがコイツを連れ出したんだ」

振り返るとみんながいる。

「ムリに連れ出したんだよ。コイツは悪くない」

「なんだ、お前たち」

「だからさ、許してやってくれよ。この間、ミスったことも謝ってるし、反省してるみたいだしな」

ポルコにフィンレーは手を合わせる。

「リムがむりやりひっぱって行ったの。リムのせいだから」

リムアンも言う。

「僕らも引き留めて長話しちゃったからさ、ほんとごめん」

アルセイスも謝ってくれる。

「そうなんだよ、コイツは早く戻ろうとしてたんだけれどさ、エルザさんのこと聞きたくて引き留めちまったからさ」

スヴェンが僕の肩に手を置いて言う。

「そうなのそうなの、ハルはぜんっぜん悪くない。私たちが悪いから、今回は見逃してっ、ねっねっ」

リャナンが手を合わせてお願いをする。

五人に説得されてさすがのポルコも少したじろいだようだった。

けれど、コイツは簡単に人を許すような奴じゃない。

「でも、迷惑かけられたのは本当だ。耕すの人手が足りてなかったのに、コイツが抜けて作業が遅れたんだから」

「そっか、んじゃ俺らが手伝って埋め合わせすればいいか」

「え?」

「人手が足りないんだろ?五人加わればその分早く進むから遅れの埋め合わせができるだろ」

フィンレーが言う。

「もちろんタダでやるからさ」

アルセイスも合わせて言う。

「そんな、悪いよ」

僕が言うと、リムとリャナンが僕の口を押えた。

(いいから、いいから)

可愛い子ふたりに押さえられてしかも耳元でささやかれる。

僕は顔が熱くなるのがわかった。

「力仕事得意だからよ。任せてくれ」

スヴェンが力こぶをつくって言う。

すごい筋肉。さすがにこの威圧感にポルコも折れた。

「じゃ、じゃあ、やってもらうかな」

「おう、話の分かるやつじゃないか」

フィンがポルコの肩を叩く。

「みんな、ごめん」

僕が言うとリムが「ぜんぜん」と言う。

「だって私たちが原因だもんね」とリャナンも言う。

嬉しい。こんな僕を庇ってくれるなんて。

「ありがとう」

思わず口にしたら五人とも目を見開いて驚いていた。

「へへ……なんか、照れるな」

スヴェンが頭を掻く。

「よし、がんばろうか」

アルセイスも腕まくりをする。

ポルコが後ろで「なんで、こんな奴を」ってぼやいていたけれど、僕は嬉しくて気にも留めなかった。


ポルコの指示で担当割をしなおして作業を始めた……までは良かった。

僕たち六人にやらせてさっそくポルコたちはサボっている。

他の奴らと無駄話してゲラゲラ笑っている。

「ああ、そういう奴なのね」ってフィンレーが嗤っている。

「こんなのハルがかわいそうだよ」ってリャナンが同情してくれる。

「リム、アイツら嫌い」ってリムアンが不平を鳴らす。

アルセイスとスヴェンは何も言わない。


みんなで作業をしたらすぐに終わった。

「なあ、言われたところ終わったけどさ、後は何かあるの?」

フィンレーが聞くとポルコは「え?全然終わってないだろ」と言ってきた。

「なんでだよ」

「だって、あそこ終わってないだろ」

指さしたところはポルコたちがやると言ったところだ。

「はぁ?」

リムが腹立たし気に声を出したがそれをアルセイスが抑えた。

「それにさ、耕すって言ってもただ掘り返すんじゃなくて、石とか雑草の根っことか取るんだよな。そんなのも分かんねぇの?常識だよ」

「そうか、悪かったな」

ポルコの挑発をスヴェンはさらっと流して作業に戻ろうとする。

だってそんなの当たり前のことで、みんなもすでにやっていたんだ。

「じゃあ、俺とフィン、ハルでまだ耕してないとこやるから。リムとリィ、アルで小石とか確認して取ってくれるか」

六人で連れ立ってブドウ畑に戻る。

みんな、凄いな……って感心した。ポルコの難癖にものともしない。

なんだかポルコの小物感が際立つな。

「なにが『悪かった』ぁでちゅか。罪人の女の尻、追っかけているやちゅが」

ポルコがわざとらしい甲高い赤ちゃん言葉で吐き捨てたときだ。

「おまえ、今、何て言った?」

さっきまでどこ吹く風だったフィンレーがポルコを睨みつけている。

「あん?」

まだポルコは気づいていない。

フィンレーだけじゃなくリムたちみんなが殺気立っている。

「ひっ!」

フィンレーと目が合ったポルコは悲鳴を上げた。

隣に立っている僕だって怖い。だって今にも殺しそうなくらいの形相なんだ。

「なぁ、あの人のこと何て言った」

フィンの腹に響くような声。

「なんだよ、罪人だろっ、エルザっての」

「おまえ……」

さっきまでニコニコしていたリャナンが目を吊り上げて踏み出した。

「なに怒ってんだよっ、子供人質にする卑怯者だろ」


ポルコが言ったとき、僕の右手が熱くなった。

え……痛い。

じんじんと熱を持っている。拳の皮が破けて血がにじんでいる。

目の前でポルコが顔を抑えてうずくまっていた。

「エルザさんを悪くいうなっ」

僕は叫んでいた。

「取り消せっ、謝れよ!」

悔しくて涙が出てきた。

「エルザさんは卑怯じゃない、みんなの方が卑怯だ!」

なんだかわからなかったけれど、今までに溜まっていたものが全部出た。

「取り消せよ、謝れっ、嘘つきめっ、嘘ばっかりついて。何も知らないくせにっお前に何がわかるってんだっ、卑怯者はお前だろ!ひとりじゃなんにもできないくせにっ」

僕はポルコに掴みかかった。

僕のどこにそんな力があったんだろう。

ポルコの太った体を引き起こしてさらに2、3発殴っていた。

鼻血を出し、涙を流しながらコイツはおびえていた。

それがさらに僕の癇に障った。

「お前なんかが、あの人を悪く言うなよ!」

さらにその醜悪な顔を殴ろうとしたとき、フィンレーに止められた。

「もう、十分だろ」

フィンは唇を噛んでいて、でもなんだか嬉しそうな顔で涙ぐんでいた。

「このへんで、やめておこう」

そう言って掴まれ、スヴェンたちが僕をポルコから引き離し、引っ張っていく。

「くそ、くそったれ!卑怯者っ、バカ野郎!エルザさんに謝れ」

僕はワケも分からずに叫び続けていた。それをフィンたちが強引に引っ張っていった。

視界の端でリャナンがポルコの尻を蹴飛ばすのが映った。

けれど、興奮していた僕はただ喚き続けるだけだった。


さんざん叫び続けて疲れた僕は、森の中でフィンたちに囲まれていた。

「ありがとう」

フィンレーが言って頭を下げる。

スヴェンもアルセイスも僕の肩を抱いて「怒ってくれてありがとう」って言った。

リムアンとリャナンのふたりは泣きながら何度も「ありがとう」って言っていた。


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