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019 次なる局面へ

「レオン様、勧告書が届きました。」

「意外と早かったな。」


 レオンの執務室にはレオンと護衛の二人がいた。その二人の間には一通の手紙があり、勧告書という表記がなされている。

 当主名義による正式な呼び出しとされており、現状の対立行為を完全に停止して、本邸の会議室に集まるように。との書類であった。この時点でレオンとドラコの目的は達成できたと言えるだろう。


「ええ、ですが、レオン様の予測通りにご当主様が動きました。」

「ふっ、当主がというよりも、側近たちがだろうな。」

「そうなのですか?」


 実際、勧告書に最終的にハンコを押したのは当主本人ではあるだろうが、その当主を動かしたがったのは側近である。

 というのも、当主も経済状況は把握しているが現場の動きをより理解できるのは、指揮をしている側近たちなのだ。その側近たちが今の状況を見た瞬間に泡をくって、すぐさま当主に話を通しに行ったというのが実情である。


「ああ、俺たちが何を目指して策略を練っていたかは、当主なら気づいているだろう。焦っているのは側近意外にいない。」

「……ご当主様の目は誤魔化せないわけです。」

「しかし、全ては見通せていないだろう。随分と長い間、父さんと話していない気がする。」


 そして、その小言のような言葉で当主はレオンとドラコの目的である継承戦の実行。それを察することはできる。その程度のことを出来ずして、当主の座に座れるほど甘い世界ではない。

 とはいえ、継承戦を開く事そのものを目的としているのは分かっても、レオンとドラコの二人の真の目的、感情を理解しているわけではない。当主に入る限られた情報では分かりえない事なのだから。


「懐かしい。子供の頃は将来は冒険者になると言って困らせたものだ。」

「ご当主様にとっては大変だったでしょう。……今も、もう少し違う未来があったかもしれません。」

「言っても仕方がない。もう引き返せるところにはいない。……引き返す気もない。」


 ダンドール家で一番平穏であったのが子供の時だっただろう。レオンは純粋に冒険者に憧れ、当主もまた剣術の上達に繋がるならと強くは言わないでいた。

 子供ながらも当主が何を望んでいるかを察していたレオンは、結局それから当主の望む通りに剣術以外にも様々な知識を蓄えて行った。今でも、その経験があるからこそのレオンであると、本人も思うところである。


「はい。……どこまでもついて行きます。」

「ああ、ありがとう。」




「ドラコ様!!やりました。」

「……動きが早いね。」

「え?ですが、予想通りだったのでは……?」


 一方でドラコの執務室でも同じことが起きていた。勧告書を机に置いてレオンは瞠目する。当主陣営の動きが予想よりも早かったことに起因するものであった。

 そのドラコの様子に男は不思議そうに首を傾げて、ドラコを見る。次の瞬間にどこか諦めたような表情をドラコが浮かべるのが視線に入ると、目を大きく見開かせる。


「本来であれば、私の陣営をもう少し増やしたかった。」

「え、ええ。それはそうですが。劣勢から五分に戻せたので、よかったのではないですか?」


 実際のところ7:3でドラコが不利な状況。兄と弟、陣営の質。人数。それらの要因によって、陣営の規模だけで言えば確かに7:3だが、9割がたはレオンが順当に当主に付くだろうのは目に見えていた。

 それを5:5の状況までもっていき、弟の立場で当主の座を正面から取り合える。そこまでになったこと。それだけで素晴らしい戦果であった。


「えっと、何か問題がありました?」

「……いや、何でもないよ。」

「そうですか……?」


 だが、ドラコには理解できている。今の状況になっているのは単にレオンとドラコの目的が一致していたから。レオンが策略を躱そうと思えば、いくらでも方法はあっただろう。

 それだけ警戒させた。判断を誤らせた。得意な場面に誘導出来た。そう思えればどれほど良かったのだろうか。しかし、ドラコにとってはレオンが真正面から受け止め、同じ地点を目指したからようやく達成できたというのは簡単に分かることだった。


「これは私の我が儘だからね。これが届いてしまえば、長引かせることも出来ない。」

「……。」

「勝ちが薄いところから、ここまで来たのは上出来だよ。スカウトはしてあるね?」


 そう我が儘。ドラコの戦果は傍から見れば確実に素晴らしいもので、実際に当主にさえなれる可能性をその手に握っている。

 後は手札を揃えて全力でことに挑むほかない。


「はい。勿論です。」

「なら、いい。」




 同じ日、同じ時間、別の場所で二人の男は同じ場所を見つめている。レオンとドラコが盤面からお互いの意志を読み合い、完成した盤面。


「「さて、継承戦だ。」」


 継承戦が今始まろうとしていた。二人は同じ獰猛な笑みを浮かべて、しかし、その瞳の奥には違う色を乗せる。

 これから始まる継承戦にどんな思いを乗せて、どのような構成で臨むか。それは二人しか分からない。

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