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001 本邸会議

「久しいな。」


 王都でも中心部に位置するダンドール家の本邸。レオンとドラコの執務室がある屋敷とはまた別の洗礼された屋敷である。

 広さそのものは郊外にあるダンドール家の屋敷より小さいが、装飾や細部にある品の良さは圧巻そのものだ。


「当主様。お久しぶりです。ご健勝でしょうか。」

「ああ、レオンも息災か。」

「はい。お陰様で何事もなく過ごせております。」

「そうか。後はドラコか。」


 レオンの父、クロウ=ダンドール。細身で長身ながら、服の上から見える筋肉質な身体は歴戦の戦士ということを感じさせられる。また、中年の渋さも含まれており、妙な色気を全身から放っていた。

 そんなクロウに対してレオンはにこやかながらも、どこか距離のある空気感で挨拶を交わす。クロウもまたレオンに端的に返答を返す。絶妙な空気感が二人の間に広がっていた。


「お待たせいたしました。」

「久しいな。」

「ええ、お元気そうで安心しました。」


 その空気を換えるようにドラコが会議室の扉を開け放ち、挨拶をする。そのドラコにもやはりクロウは単的な会話で返すのであった。


「まだまだ現役だからな。」

「ははは、それはしばらくダンドール家としても安心ですね。」

「……さて、皆揃ったことだし、会議を始めようか。」




 会議室にいるメンバー全員が席につくと、早速会議が開始する。


「僭越ながら、私が進行を進めさせていただきます。本日はよろしくお願いします。今日の議題としましては、ここ最近のレオン様とドラコ様の素材価格の意図的な高騰とその対策でございます。」


 当然、会議の議題はここ一連の二人の策略について。二人の策略通りに当主陣営を動かしたということだが、それはそれとして傍から見ると完全に暴走した二人でしかない。

 このことに当主陣営が焦りを抱き緊急招集をかけるのは仕方ないだろう。


「経緯を説明いたしますが、ドラコ様陣営がレオン様陣営の商会に対して、素材の卸値を法外な値段まで吊り上げました。これは間違えないですね?」

「合っているね。」


 特に当主陣営で問題とされるのは素材の価格高騰である。これは単純にダンドール家としての信用を下げる行為であり、その経済圏に所属する人員に対して不要な不安を与えることに他ならない。

 それでもなお、経済圏から離れられないのは今の生活があり、大多数には大きな影響がないからだろうか。商会にとっては大打撃であるが、そこで給料の未払いなどは起こらず、大きな割合を占める層には直接的な関係がなかったからこそだ。


「レオン様がその対応策として、流通に関する商会の引き抜きのために条件のつり上げを行い、かつ現状の取引で赤字だったな場合に直接資金で補填をしました。合っていますか?」

「ああ。」


 このレオンの対応もそうだろう。これで商会を回す経営陣に対しても損益を補填しており、不満はあるものの生活が立ち行かなくなる。ということはなかった。

 また、早期的に展開を動かしたためにエンドユーザーが取る品物の価格高騰には至らなかったのの大きな要因と言えるだろうか。


「それに対応してドラコ様がさらに引き抜き条件を吊り上げて、それに対応してレオン様が吊り上げてと、業種に対する標準価格よりも明らかに超過した条件が提示されていました。これに関して皆さまは何かありますでしょうか?」

「レオン様とドラコ様はダンドール家を潰すおつもりですか!!」

「そうです!!継承者としてあるまじき行為ですよ!!」


 さて、ここで一番損益を被っているのは、ダンドール家であった。単純に資金の放出という面でもそうだが、下手をするとダンドール家のマイナスイメージにも繋がり、他家に人員が流れるリスクさえあった。

 その事実に当主陣営の怒りは最もであり、この先に待つ流通を握る商会に対する補填。また、条件のすり合わせの労力が発生してしまっている。


「そのつもりはない。」

「私も同意見だよ。」

「それならこんなことしないでしょう!!」


 ダンドール家の当主陣営が怒るのも最もなところではあるが、その対応をすることまで考えて、策略を巡らせているとは誰が思うことだろうか。

 レオンとドラコが当主陣営を評価している証明でもあったのだが、そこは伝わり切っていない。もしくは、知りつつも気が付いていない人間へ向けたフラストレーションの解消を提示すること、外見上叱っておくことのイメージ戦略と言えるか。

 なんにせよ、茶番である。


「そうだそうだ。」

「おかしいでしょう。」


 ここで野次を飛ばしてしまっていることがもう、イメージダウンに繋がっている。あるいは今後の評価の対象になっているとは夢にも思っていないだろう。

 レオンとドラコの茶番劇でさえ、今後の政治、経営を任せるに値するかの叩き台に扱っている当主陣営。ここもまた化け物たちの巣窟。

 最初に怒りをわざと面に出す役、その役を担う人間に対してサクラとして盛り上げる役。そのどれもが本気で怒っているようにしか見えないだろう。


「そうは言うが、素材の高騰をされた時点で取れる手は限られるからな。」

「私としても引き抜きを許すわけにはいないからね。」

「では、何故素材の高騰といった手を打ったのですか!!」


 レオンとしてはこの策略は妥当性としては中々のもの。現に最小限のコストで当主陣営を引っ張り出すことができているのだから。事実として、レオンは最善手に近い手を打っていたのだろう。


「現状の盤面を覆せる手は限られるからね。この手を使わない場合、膠着状態が続き続けただろうね。」

「とはいえ、迂闊ではないですか。」

「迂闊、ね。人員の引き抜きをするとなると、プレッシャーを与えることは最善ではないかな。」


 そして、ドラコとしても同様のこと。最終的な落としどころが継承戦であると設定されている場合、この手が最も合理的と言えるだろう。他にも辿り着ける手は存在するだろうが、短期的な成果として考えると破格である。


「そうは言ってもですね。」


 会議は踊る。ここの押し問答は茶番であり、分かっていないものへの質問を兼ねているためである。全容をこの場にいるメンバーが共有し、落としどころへの話に繋がるまでしばらくはかかるだろう。

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