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017 ドラコの策略

「ドラコ様、作戦は上手く行きましたね。」

「レオン兄さんは今頃どんな表情を浮かべているだろうね。」


 レオン陣営へと強襲をかけるように仕掛けた策略が成功しており、ドラコの部下は満面の笑みを浮かべながらドラコへと祝いの言葉を投げる。

 その部下の言葉にドラコもまたいつもより柔らかい表情を浮かべている。


「くくく、想像しただけで楽しいですね。しかし、真っ向から対抗してきた場合にどうしましょうか。」

「……レオン兄さんと持久戦になることはない。おそらく、すぐに展開は動くだろうね。」

「展開が?」


 部下の言う真っ向からの対抗というのは、レオンがドラコの策略をそのまま受け入れて、職人たちへと損益分の資金を補填することだ。その資金で素材の購入や給金の支払いをすることで、職人たちの引き抜きを塞ぐ策略となっている。

 しかし、ドラコからすると資金のばら撒きをすることで持久戦になるとは考えておらず、すぐに変化が訪れることを想定しているようだ。


「ですが、仕入れの制限で職人たちを引き抜くのは長期的な作戦ではないのですか?」

「いや、レオン兄さんが長く放置するわけがない。」

「それは、そうですが。……だからと言って、簡単に対策できるものではないはずです。」


 ドラコたちの基本的な戦略として、素材の流通を行う店舗を積極的に引き抜きをかけて、その店舗に資金提供することで、レオン陣営の店舗への購入を制限している。

 そのことで、レオン陣営の店舗は生産活動が不可能となり、そこにドラコたちが良い条件で引き抜きをかけ、レオン陣営の生産活動を完全に停止させることを目的としている。

 生産活動が停止すれば売る品物が無くなり、利益も得られなくなるためレオンは選択を迫られるわけだ。


「そうだろうね。冒険者に素材の採集を依頼する。他の地区から素材を購入する。私の陣営から引き抜きをかける。どれも根本的な解決にはならない。」

「では、やはりすぐに展開は動かないのでは?」

「ははは、そうでもない。他の地区から素材を購入しだしたら、確実に動く。こちらの動きは把握しているだろうから、購入金額を引き上げに掛かるからね。」


 レオンがすぐに実現できる対策はドラコの挙げた三つだろう。イリアや専属の冒険者パーティーによる素材の採集は供給できる量に限りがあり、レオンが傘下に収める店舗数から見ると、圧倒的に不足している。

 ドラコの陣営から引き抜く場合、ドラコより好条件で取引をしなければならない。かつ、さらにドラコは条件のつり上げを行うため、いたちごっことなり実現性が低いと言わざるを得ないだろう。

 そして、他の地区、つまりは他の貴族から素材を購入することも可能ではある。だが、ドラコの提示する値段より少し低いぎりぎりを提示し、かつ資金が他家に流れてしまうためその手を使うわけにはいかな。い


「……?それが展開に動くことにどう繋がるのですか?」

「動くのは現当主、父さんだよ。」

「え……?」


 その結果、他の地区から素材を購入しようものなら、ダンドール家として放任しておくわけにはいかなくなる。

 その時に確実に展開が揺れ動き、レオンとドラコの命運が決定する決定的な事象が発生するだろう。


「まず、前提として私とレオン兄さんはダンドール家の一員だね。」

「はい。」

「二人で健全に政戦をしている場合は当主としての素質を見るということで、静観するだろう。だが、ここでダンドール家の資金が他家に流れるのは父さんが望むことではない。」


 元々、何故ダンドール家として二つの陣営を認めて、その管理をレオンとドラコに任せているかというと、継承者を決定するためである。

 その目的のためなら多少ダンドール家に損になろうとも、最終的に学びとなるなら容認される。が、他の貴族やそもそも資金をだた無暗にばら撒くとなると損益が大きすぎると判断される。


「確かに、そうですね。」

「その時、レオン兄さんが他地区から素材の購入を策略として行うと、現当主による介入が起きて結果的に展開が動くという道理だね。」


 一番の問題は他の貴族家に資金が流れてしまうこと。これは今の王都の均衡を崩しかねないことで、五区画の一角。その一部が吸収合併される可能性を示唆するものとなる。

 また、この機会に店舗ごと引き抜きを仕掛けられる危険もあり、当主は重い腰をあげるしかない。


「だが、レオン兄さんが他家から素材を買うとは考えにくい。ダンドール家の損にしかならないし、そこは当然分かっているだろうからね。」

「なら、安心ですね。」

「ふっ……。そうでもない。今の私たちの策略も父さんの介入の理由になり得る。」


 ドラコの言う通りにこの理屈はレオンも理解しており、かつダンドール家の人間としてその策略を打つことはない。

 その場合、理論上長期戦になるため、ドラコ側が有利となる。その事実もあり、男は安心したようにほっと息を吐く。

 しかし、そこにドラコによる指摘が入る。


「え?それは、どういうことでしょうか。」

「私が経済的に流通を止めるために支払っている資金は、回り回ってダンドール家の資金だからね。そこに膨大な資金が消費されて行っている。」


 そもそも、ドラコがやっていることはダンドール家の経済域で資金の流れを止めるということだ。それは市場からものが枯渇するということであり、物価の向上にも繋がる。

 その結果、お金を使い、稼げるお金を減らすという最悪の循環を作り出していると言ってもいいのだ。物が売れなければ利益が出ず、収益がダンドール家に入ることもないのだから。


「それにレオン兄さんの店の売り上げが立たないということは、当然ダンドール家の収入が減少するということだよ。」

「どちらもが損だけしているのですか。」

「そうだね。だからこそ、長期的になっても、レオン兄さんが短期的な策をとっても当主としての判断で介入せざるを得ない。」


 長期的な対策を取れば経済循環に悪影響が出て、短期的な対策を取れば加速的に両陣営から資金が放出される。

 結局、この策略を打った時点でいずれの場合もドラコの描いたままの光景に集約するのである。当主が二人の政争に介入する、そのことに。


「……狙いは何ですか?」

「継承戦。」

「継承戦……?」

「条件は整っている。どの時期になるか、陣営の規模がどうなるかはレオン兄さん次第だね。」


 継承戦。ここでレオンとドラコの描いた光景が一致する。両陣営のトップが同じ光景になるように経済を操作し、人を動かした。二人の意志が当主に届き、状況はすぐに動き出すだろう。


「ははは、楽しくなって来たね。さて、レオン兄さんはどうするかな。対応が遅れるほど、こちらの陣営の規模が大きくなるからね。見ものだよ。」

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