004 招待
「さて、改めてダンドール家へようこそ。」
「宿泊は本当にいいのか?」
「もちろんだ。後で泊まっている他のパーティーも紹介しよう。」
イリアたちがいる場所はダンドール家にある執務室であり、この執務室はレオンのために用意されたものだ。他にもいくつか執務室は点在して、王都圏の書類作業などはそれぞれに家業ごと振り分けられて、管理がなされている。
「ああ、楽しみにしておく。っと、レオンはお貴族様でしたね。口調を直した方がいいでしょうか?」
「ふっ、今更分かっていることを聞くな。ここにはそんなことで怒る奴はいない。」
「それは助かるね。育ちがよくないからな。」
「それにしては、真面目な態度も取れるようだがな。」
今更ながらではあるが、レオンは貴族であり、イリアはただの平民である。その間には隔絶とした差が存在しており、対等な態度を取ることは信じられない事であった。
が、レオンとしては貴族であるということに拘っている節はなく、特に言葉使いや態度に関しては気にしていないようだった。そればかりか、雑な態度の方がパーティー感があってよいとまで考えるのがこの男である。
そして、イリアが真面目な態度を取れるのは説明するまでもないが、前世である程度の経験を得ているからだ。英雄であったからこそ、ここまで貴族と話すときも口調を正すのを忘れていたという側面はあるのだが。
「今日はこのくらいにして、客室に案内させようか?」
「ああ。今日は休ませてもらうよ。」
「……すまない。客人だ。客室に案内してくれ。」
レオンが手を叩くと扉が開かれ、年配のメイドが頭を下げている。メイドが顔をあげるとイリアたちの行動を促し、部屋を出ると扉をしめた。
そして、イリアたちを誘導するように歩き始めた。
「こちらにお部屋をご用意させていただきました。御用の場合は中の鐘でお呼びいただければすぐにお向かいします。」
「ありがとうございます。」
「では、ごゆっくりお休みください。」
客室の扉にイリアが入ると、メイドが頭を下げてから扉をしめた。一人一人に割り当てられたというだけでスケールが違うが、さらに部屋の大きさを見た時にイリアは驚きに目を見張った。
街で泊まっていた時の客室の三倍程度はあるだろう。また、質のいい素材で作成された品々は一般人では手に届かない値段だと簡単に分かる。
「貴族って凄まじいな。……カルア。」
「ん?呼んだ……?」
「休めるところに着いたからな。退屈じゃなかったか?」
イリアがカルアの名前を呼ぶと、イリアの身体から光の粒子が湧き上がる。その光の粒子は徐々に一つの人間の形を形成していき、そして、ぴょこん。猫耳が立った獣人。カルアがその場に現れた。
本来であれば、ヴァンの金のネックレスがカルアという英霊を保管する器であるが、イリアと契約をしてからはその形成されたパスを辿って、顕現できるようになっていた。
そのカルアは部屋の広さや物の価値に驚くことはなく、ベットを見つけるとキランと目を輝かせる。そして、ベットに近づいていき、ダイブしたのだった。
「ふわふわ。アルも来て。」
「流石カルア。相変わらず物怖じしないな。」
一通りベットの上をゴロゴロとしたカルアは端に腰かける状態となり、その隣をぽんぽんと軽く叩く。
そのカルアにイリアは目を思わず笑みを零して、そしてカルアの言う通りにベットに腰かけた。ベットは二人分の重みをしっかりと受け止め、柔らかく包み込むように沈み込んでいる。
「それで、退屈しなかったか?」
「ん。寝ているようなものだから。」
英霊たちは現世に顕現していない時、真っ黒な闇の中にただ佇んでいるようで、その空間では意識を保ってはいない。一面闇の中で目を閉じ、呼ばれるその時を待っているのだ。
根本的に生物とは構成要素が異なっているため、身体的影響や精神的影響は個々によって多きく違ってくる。
「そうなのか。王都ではあまり呼べないかもしれない。」
「いいよ。でも、アルが一人の時は呼んで。」
ただ、カルアも寝ているとはいえ、現世に顕現している間が楽しくないわけではない。ただ寝ているよりも外の景色を見て、空気を感じる方がよほど健全であり、カルアもまた同様にアルベルトと話したいという欲求はあるのだ。
そう言った後にカルアはその場に立ち上がり、部屋の物色を始めた。流石はマイペースなカルアと言うべきか、あるの返事を待たずして好奇心に釣られたのだった。
「……はは、もちろんだよ。出来る限り呼ぶ。それに手伝って欲しいこともあるからな。」
「ん?手伝うこと……?」
「ああ、英霊招来についてな。」
英霊招来。英霊を身に宿らせることができる固有スキル。そのスキルの対象は特に明記されておらず、対象を自分で選択できる。その時にどのような変化が訪れるか、そのことにイリアは疑問を抱いていたのだ。
そのため、この機会にイリア・カルアの両名で詳細を解き明かしていこう。という試みであった。
「分かった。……これ」
「あ、ダメだ……遅かったか。」
カルアが金の鈴を手に持つとカランカランと音がする。メイドを呼ぶ鐘を誤って使ってしまったカルアはきょとんとしている。
一方でイリアはどうしようかと頭を抱えることとなった。
「とりあえず、隠れて。」
「ん。分かった。」
イリアの指示でカルアは光の粒子となり、その粒子はイリアの中に消えた。もうそこには誰もおらず、イリアが鈴を鳴らした事実へと書き換えられたのだ。
そこにちょうど扉の開閉音がして、メイドが客室へと伺った。
「失礼致します。どのようなご用件でしょうか。」
「あ、あー。食事はどうすればいいかと思いまして。」
「お食事は食堂にご用意いたします。また、こちらに持ってくることも可能ですが、どうなさいますか?」
イリアは咄嗟ながらも上手い言い訳を思いついたもので、若干返答に間があったものの特に違和感はなかっただろう。
これが英雄としての経験というものだろうか。メイドも普段と様子を変えずにイリアと相対しているため、特に気になるところはなかったのだろう。
「いや、食堂に行きます。」
「承知いたしました。では、お時間になりましたら、お呼びいたします。」
「お願いします。」
こうしてイリアの食事が食堂で摂ることが決定して、またレオンと共にすることになったのだ。
イリアが他に用事がなさそうなことを見て取ると、メイドは客室から外へと出て行った。
「はぁ、困るよ。」
「ごめん。」
「……って、何をやろうとしてんの!?」
メイドがいなくなると光の粒子がイリアの身体から舞い上がり、カルアとしての形に変化していく。
イリアが扉の方を向いている間にカリアがもう一度鐘に手をかけており、その様子に気がついたイリアはギョッとしたような表情を浮かべた。
「ん?鳴らそうかと……」
「なんで!?やめてよ。絶対ダメだから。」
「……フリ?」
「違うから!!」
こうして二人の妙な攻防が続き、客室には和やかな、しかし騒がしい雰囲気に包まれていたのだった。




