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003 【剣聖】の子孫

「早速、屋敷に招待したいところだが、何か用事でもあったか?」

「冒険者ギルドによる予定ではあったが、今となっては必要なくなった。」

「そうか?それなら向かうとしようか。」


 元々イリア一行が冒険者ギルドに向かっていたのは宿屋の場所を聞きに行くことと、王都のクエストを確認するためであった。宿泊地が決まった現在ではクエストを確認するだけのためにギルドを行くことは必要性がなくなったのだ。

 レオンが少し残念そうな雰囲気を醸し出しているのは、冒険者ギルドに行って雰囲気を感じ取りたかったからだ。冒険者そのものを見ることも目的をおいていたのだ。


「折角だから、主要施設の紹介をしておこう。」

「それは助かるな。」

「僕もそれは気になるよ。後で買い物をしたいからさ。」

「喜んでもらえると有難い。と、その前にお互いに自己紹介をしよう。」


 レオンは貴族の息子ということもあり、この王都の事は相応に知識を持っている。教育を受けており、人や物を見る目は一流そのものであり、イリアの鑑定に匹敵するほど確かな目を持っているのだ。

 そのレオンが紹介する主要施設は当然きちんとした制度が整ったところであり、今後のイリア一行の助けには十分だろうことは簡単に分かる。

 そして、ある種の共闘をしたわけだが、あの場所で名乗りを上げたのはレオンだけであり、実際に自己紹介をすることと相成った。とはいえ、それも簡単なものであるが。


「俺の名前はレオン=ダンドール。かの【剣聖】の子孫だ。一応当主の息子でもあるが、実際は先祖が築いてきた地位だからな。威張れるものではない。」

「私はイリア=ローズベル。ただの冒険者だな。」

「私はアリス=クライツ。イリアちゃんの幼馴染なんだ。」

「僕はヴァン=アンドリッヒ。僕もただの冒険者さ。」


 【剣聖】は前世のイリア、アルベルトのパーティーの一人。あらゆる剣を用いて敵陣に切り込む前衛最強のアタッカーである。その剣技は万物を切り裂くと謳われ、剣技の腕は晩年まで磨かれ続けたという。

 その子孫ということもありレオンは先ほども剣を扱っており、代々伝わってきた確かな技術により戦闘を可能としている。


「……当主の息子か。それの関連か?」

「ああ。おそらくな。昔は仲も悪くなかったのだがな。……いや、今も悪いとは俺は思っていなのだが。」

「……人は変わるものだよ。ははっ、それは悲しいほどにね。」


 当主の息子にまつわり、襲撃を受けるとなると答えは決まってくる。当然、当主継承問題である。レオンには一人の弟がおり、兄弟のどちらかが当主となる。ということで、兄弟仲が悪化してしまっていた。

 昔を懐かしむようにレオンは目を細めて、空を見上げるが、そこにヴァンが場を一瞬で凍るような声を出した。乾いた短い嘲笑が路地裏に響き、二度、三度と気温が下がったような錯覚を与えた。


「「「「……。」」」」

「……ごめん。」

「いや、実際に違いないからな。俺も甘いんだろう。いつまでも過去に哀愁を抱いている。」


 気まずい沈黙が場に落ちる。誰もが地面へと目線を向けて言葉を発さない時間が過ぎていき、ぽつりとヴァンが一言謝ると、場の空気が冷え切りながらも回り始める。

 レオンが右拳を自分の前で握りこむ。その拳を見ながら何を思っているのだろうか。ただ、静かに目を伏せて、すぐに目を開けた。


「さて、主要施設を紹介しよう。」

「ああ、頼む。」




 イリア一行が最初に訪れたのは第三広場と呼ばれる区画である。王都は広場ごとに区画が分かれており、東西南北に四つの大きな区画とその間にそれぞれ中サイズの区画が二つ存在しており、大きな区画と中サイズの区画でダイヤの形を作っている。

 北が第一広場、南が第二広場、西が第三広場、東が第四広場、中央が第五広場となっている。そして、イリアたちが入ってきたのが西門であり、その門と広場が繋ぐ大きな道が各箇所に伸びている形だ。


「ここがここ一番の商会だ。ここにこれば大体何でも揃う。」

「ん?ちなみにあの家紋は……。」

「ああ、ここはダンドール家が管理する商会だな。」


 商会の看板が掲げる紋章とレオンの服に刻まれる金の刺繍の紋章が一致しており、イリアが首を傾げる。すると、何も疚しいものはないようにレオンは堂々たるままに回答する。

 実際に特段疚しいことがあるわけではないのだろうが、堂々と自分の商会を一番の商会と紹介する勇気は、それだけ商会を信用しているということだろうか。何にしても、こうまで堂々だと清々しく悪い気はしないだろう。


「まさか、この後紹介するところも……?」

「ああ、当然ダンドール家の施設だとも。西区は大体ダンドール家が経済圏を管理しているからな。」

「僕は貴族が恐ろしくてたまらないよ。」

「ははは。特に強権は使用しないぞ。勿論、法を犯せばその限りではないがな。」


 西区の主要経済はレオンの言う通りにダンドール家の抱える商会などによって成り立っている。また、それは他の区が違う貴族家によって経済圏が形成されているということであり、王家も含めて五家が競争しながら王都を、ひいては国を成長させていると言っても、過言ではない。

 イリアたちのような一般市民にとってはあまりにも天上の話であり、ヴァンは冷や汗をかきながら、関わりたくなさそうに顔を引きつらせていた。




 その後も武器屋、防具屋、食事処、服屋、訓練場などなど多種多様な施設を巡り、ついにレオンの家、ダンドール家王都邸に辿り着いたのだ。

 そこでもイリア一行はぽかんと口を開けており、あまりのダンドール家の強大さに驚愕していた。ただの家であるはずが、その周辺には人口の池、庭、超強大な家があり、視覚的にも完全に住む世界が別であるのが分かるものだった。


「このお屋敷に泊まるんだよね。」

「僕は緊張で内臓が飛び出そうだよ。」


 アリスとヴァンはもう顔面蒼白と言った様子であり、手の震えを抑えきれていない。明らかなスケールの違いに腰が引けてしまっている。

 一方でイリアの方は多少マシであり、驚きに目を見張りながらもそれ以上はなく、泊まることには特に抵抗はないようだった。これも前世で似た経験をしたことがあったからだろう。


「その内慣れる。とりあえず、ようこそダンドール家へ。」

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