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002 助太刀

「だ、大丈夫か!?」

「助太刀……するよ。」


 イリア一行の目の前に広がっていたのは連れ去られた男が立っており、屈強な男の中の一人が倒れている光景であった。

 連れ去られた男は短くまとめた黒髪をたなびかせて堂々たる相好をしており、青と青を基調とした質のいい服がより男の存在感を強調している。

 屈強な男たちは動揺を隠せないながらも、浮き足立つことなく、連れ去られた男の様子を見ていた。が、イリア一行の登場で更なる動揺が襲うことになった。


「まさか、助けに来る奴がいるとは。それも……いや、助かる。」

「あ、ああ。と言っても、お……私たちはいらないようだがな。」

「そんなことはない。助けてくれるのは嬉しいものだ。」


 嬉しいとは言いながらも、それはつまり戦力的には必要でなかったと言っているに等しく、イリアの顔には乾いた笑みが浮かぶ。が、同時にどれほどの強さを誇るのか興味をそそられるものだった。

 その会話のやり取りの最中も想定外の乱入に対しての対応を困惑したまま、事態の推移を見守ってしまった屈強な男たちは一気に劣勢に立たされてしまった。しかし、逃げるには遅すぎて、男とイリア一行に挟まれてしまっていたのだった。


「くっ、お、お前らやるぞ!!」

「「「へ、へい。」」」

「六人か。三・三でいいか?」

「ああ、そっちがそれでいいならな。」


 屈強な六人の男たちは気合を入れなおして連れ去られた男に相対するが、それに対して冷静そのものの男は油断なく六人の様子を伺っており、イリア一行に対して半分ずつを倒すことを提案するのだった。

 人数的には六対四であり、その内三がイリア一行である。その一行と同じだけ相手するのは自身の表れか、あるいはトラブルに巻き込むことに対する申し訳なさから。どちらにしても、一人で三人と対峙するだけの覚悟を持っていた。


「俺はレオン=ダンドール。かの【剣聖】の子孫だ。俺に対峙したこと後悔させてやろう。」

「ダンドール!?」

「ま、まさか貴族の!?」


 イリアと襲撃犯のリーダーが同時に驚きの声をあげる。その驚きの方向性は違うものだが、確かな動揺が男たちに現れる。

 その隙を見逃すほど甘い男ではない。レオンはいつの間にか抜刀している剣を右手に持ち疾走する。襲撃犯の一人に接触すると瞬きの間だけ剣が煌き、次の瞬間には接触した男が地面に倒れ伏していた。

 その光景に他の襲撃犯たちは動揺のままじりっと後方にすり足する。完全に勝つ未来が見えていない襲撃犯は顔を引きつられながら、リーダーの方を見ると、そこには衝撃的な光景が映る。


「レオン、か。……強いな。」

「そちらこそな。」


 レオンと同じようにいつの間にか剣を持っていたイリアが剣を振り抜いた体勢のまま立っており、そのすぐ横には地面に倒れ伏した男が一人。

 瞬く間に二人やられ、数的有利な状況を失した襲撃犯たちは増々顔を引きつらせ、しかし、このまま逃げることなどこの二人が許すはずもなく、戦闘を続行する選択をするしかない。

 そして、勝てる選択はそう多くはない。


「お前!!何としても、あいつに対して持ちこたえろ!!」

「え?む……いえ、分かりました!!」

「いい返事だ!!お前ら、三人で行くぞ!!」

「「へい!!」」


 一人を囮としてイリアをその場に釘付けにして、本来の目的であるレオンへとリーダー含む三人がかりで戦闘をするというものだ。

 現状とれる手の中で勝率が一番高い選択である。この盤面で適切な選択を取れるリーダーは流石と言うべきだが、如何せん相手が悪い。この二人、さらに二人が控えている中でそもそも勝てるわけがないのだ。


「ぐぇー。」

「ぐわー。」

「く、くそー。」

「む、無念。」


 戦闘にさえならず一歩的な展開となってしまった。まず、イリアが一人を打ち倒した。その後、イリアは静観の構えを取り、レオンの対応を観察しだした。

 レオンは流石に数的不利な状況かつ連携する襲撃犯ということで、動揺を狙って突撃するなどということはなく、三人の攻撃を待ち構えた。

 そこに規定通りに三人が攻撃を仕掛ける。部下の二人が左右から挟み込み、少し遅れてリーダーがその後を追う。ほぼ同時に攻撃した部下の二人だが、レオンが剣を横薙ぎするとずさりと二人同時に倒れてしまう。

 その直後を狙いリーダーが武器を振るうが、攻撃が完全に振られる前にレオンの返す刃によるパリィ。金属音が鳴り響き、リーダーが衝撃で数瞬止まる。その瞬間にさらに追撃するレオンの華麗なる攻撃でリーダーも打ち倒してしまった。


「ダンドールの子孫を名乗るだけあるな。」

「そう言ってもらえると嬉しいな。」


 二人の視線の先でびりっと緊張感が張り詰め、一つ火花が散る。だが、それもすぐになくなり二人は同時に自分の剣を光の粒子へと変換して、その光は二人の間で混ざりながら宙へと消えて行った。


「まずは助太刀に感謝する。」

「ああ、感謝は受け取ろう。」

「礼がしたいから屋敷に招待しよう。」


 レオンが頭を下げるとイリアは気まずそうな表情を浮かべながらも、感謝を素直に受け取った。何もやっていないようなものであったが、確かに協力をしているのは事実であったからだ。

 そして、レオンの続く言葉には明確な嫌疑の表情を浮かべる。屋敷に招待するほどの成果は挙げていないはずなのに、招待することに疑惑を覚えたのだ。


「冒険者でもランクが低いと、金銭的にも厳しいだろう。客室もあるから、どうかと思ったのだが。勿論、断って貰ってもいい。」

「……。」

「ただ、冒険者は憧れでな。俺は冒険者の話を聞くのが好きだからな。どういう冒険をしてきたか、それを聞かせてほしい。現に今も数組冒険者を泊めているくらいだ。」


 【剣聖】ダンドールはその功績から、魔王討伐後に貴族へとなっていた。その子孫が今では冒険者として旅に出ることができず、それでいて王国の有事のための戦力として技を磨き上げ続ける日々を送っている。

 その関係上、先祖が冒険者として頂点に立ったと聞き、憧れないものはいなかった。が、貴族である。その一点で自由な行動を取ることができずに、憧れは憧れのまま生きるしかなかった。

 お忍びで護衛ありきで冒険を疑似的に体験することはできたが、それでは胸躍る冒険とはなりがたく、唯一、冒険者から聞く冒険譚がレオンの楽しみになっていたのだ。


「……分かった。厚意に預からせてもらおう。」

「ははは。そうか。また良かったら、冒険譚を聞かせてくれ。」


 こうして、イリア一行の王都での拠点が図らずとも決まったのであった。

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