023 結成とその後
ダンジョンを出るにはまだ早い時間ではあったが、俺のMP、SPが完全に切れている関係上、もう潜っている訳にはいかず、帰還することになった。
「今日は悪いな。」
「お宝……。」
「またダンジョンを一緒にもぐろう。」
耳を垂らしてしょんぼりとしたカルアは、未練たらたらでダンジョンを見ているが、強行をするほど楽観的でもない。今はまだその時ではないのだ。
いつかきっとまたダンジョンに来て、攻略をしてやるんだから、それまでどうか我慢してほしい。というか、カルア一人だけならダンジョンは進めるかもしれない。英霊だからダメージは当たらないし。
「約束。ちゃんと守って。」
「分かってるって。マタタビ酒もちゃんと持っていくし。」
「マタタビ酒!!」
マタタビ酒のことも、過去の約束も、ヴァンのことも、それにダンジョンを潜ることも。今度は全部守る。当然だろう。一度破ってしまったのだから。
とはいえ、カルアのマタタビ酒好きもどうにかしなければならないな。今のままでは変わらず騙されてしまうとしか思えない。学習しないのだろうか。
「……本当に心配だ。知らない人について行くのはダメだからな?」
「マタタビ酒はアルから貰うから大丈夫。」
「ああ、それなら大丈夫か。……大丈夫なのか?」
カルアが欲しがるならあげるけど、稼いでいる訳ではないからな。そこまで求める頻度であげられるとは思えないし、ヴァン君に期待しているとも。お願いだぞ。
って、結局マタタビ酒に釣られているのは変わっていないような……。
「ごほん。イリアは何故そんなにカルアさんと仲がいいんだい?僕は話かけても無視される時あるのにさ。」
「……どんまい。ヴァンもその内認められるよ。」
「そうだといいけどさ。そんな未来見えないよ。」
最初は俺も無視されたり、カルア自身がふらふら何処かに行ってしまう関係上、ここまで話していることもなかったさ。でも、お宝探しイベントというベースとパーティーメンバーというポイントが重なって、仲良くなるのは早かったかもしれないな。
しかし、今はそう簡単ではないだろうなぁ。何よりカルア自身が英雄の一人であるからな。当然、過去の弱いときの基準より数段、いや果てしなく高く基準が上がってしまっているから。
「ま、弱音吐くなよ。ヴァンも将来有望だろ。今の年齢でそこまでの技能があれば十分素質あるぞ。」
「ははは。ありがとう。僕も頑張るよ。」
「あ、ああ。頑張れよ。」
どうしたのだろうか。今日のダンジョン入場前とは目に宿る気迫が違うというか、この短い期間に大きく成長しているような気がする。その目は過去にずっと見てきた目だ。鏡の向こう側にあった目とそっくり。
きっとヴァンは強くなる。どんな風な強さを手に入れるのか、どんな道を選ぶのか。それは分からないが、自分の選んだ道を確実に達成してみせるだろう。
「私も。私も頑張らないとね。」
「アリスちゃん……?」
「イリアちゃんに置いて行かれないように。次は並んで戦えるように。」
……そんな風に思っていたのか。いや、分かってはいた。共に戦いたいと思ってくれていることも、強くなりたいと思っていることも。でも、イリアの友達、親友を危険な目に遭わせることに気が引けていた。
でも、違ったのだろうか。結果は全て何事もなく解決できているけれど、それは表面上ばかりでアリスちゃんの心を傷つけていたのだろうか。
「私も強くなるね。だから、イリアちゃんも止まらなくていいからね。」
「……ああ。追いつけなくても知らないぞ。」
「大丈夫だよ。絶対に追いついてみせるからね。」
ははは。これは俺もうかうかしていられないな。絶対にアリスちゃんも伸びる。このくらいの年の頃の俺よりも圧倒的に覚悟を持っているし、気迫もある。抜かされないように気張らないといけないみたいだ。
「イリア。僕を正式にパーティーへ入れてくれないか?」
「もちろんだ!!これからよろしく頼むな。」
「……!!ありがとう。これからよろしくお願いするよ。」
そして、新パーティー結成から約一か月程度が立っていた。その間にも守護者の修練所には何度か通いつめ、冒険者ランクも無事に銅級に上がっていた。次の鉄級には昇格試験もあり、この街では上がれないが、王都にでも行けば受けれる。
さて、この一か月を経て、俺たちのパーティーも相応に強くなった。連携力を高めることができたし、ヴァンは何やら特訓と称してカルアにしごかれているらしい。また、アリスちゃんも火属性を覚えて、闇属性に関してはついに中級魔法の取得も出来ていた。
「そして、ついに王都へ旅立つ時が来た。」
「うん。ようやくだね。」
「僕もこの日が待ち遠しかったよ。」
アリスちゃんとヴァンのやる気も上々のようだ。ここ最近は特に頑張っていたからな。こうも目に火を灯してくれると、俺も嬉しくなってしまうよ。
それなのに、カルアは何をやっているのかというと、あくびをしながら人の行き交いを眺めている。王都そのものに対する興味は全くないようで、そのため反応も極端に小さい。いつも無表情だが、今日は一層酷いものだ。
「カルア。」
「ん?何……?」
「王都にはお宝が待っているぞ~。」
カルアのテンションをあげるためにも、興味がありそうなことで煽ってみる。しかし、その反応は芳しくなく、尻尾を一振りした後、ふいっと視線を反らしてしまう。
お、お宝大好きガールなのに、無視!?ど、どうしたんだ?調子でも悪いのだろうか。
「王都は怖い。皆騙してくる。」
「……それはカルアが大体悪いような。」
「そんなことない。」
確かに王都には色々な人間が集まってくるものだが、簡単に人にほいほい付いて行くのはカルアくらいしかいない。というか、前世で俺たちと一緒に行った時はそこまで絡まれた覚えがないんだけれどな。
あ、そう言えば、王都の時はパーティーメンバーが交代でカルアに付き添っていたんだった。若干鬱陶しそうにしながらも、カルアは言うことを聞いていた気がする。通りで絡まれた覚えがないはずだ。
つまりはその後、一人で王都にでも行った時に酷い目に遭ったのだろう。
「そ、そうか。今回は安心してくれ。お……私とヴァンがいる。」
「アルと一緒にいる。」
「おう。そうしてくれ。」
行く気にはなってくれたようだ。元々付いてきてくれはするだろうが、知らない人について行ってしまっても困るからな。
「そう言うことだから、ヴァンも気を付けてくれよ。」
「あ、いや、気を付けるって……」
「カルアはすぐに釣られるからな。」
「失礼。」
失礼とは言うが、事実じゃないか。マタタビ酒は基本として、お宝という言葉に飛びついて、他にも多趣味で釣りでも、鍛冶でも、登山でも、何でも面白そうだとついて行くじゃないか。
そしてヴァンよ。ちょっとはカルアのことを叱るのだ。そんなではいずれ大事件に巻き込まれるぞ。ソースは俺だ。何度事件に巻き込まれたものか。
「さて、そろそろ出発しようか。」
次の目的地は王都。そこに何が待っているのか、それは王都に着いてからのお楽しみだ。




