022 カルアの力
次に意識が覚醒した時には目線が下がっていた。おそらくカルアの肉体をベースに再構築されたのだろう。カルアの視線を借りているのはわかるが、肉体はぴくりとも動かせない。
カルアは魔物が近づいてきているのも構わずに集中しているようで、肉体に凄まじい気力が巡っているのが分かる。
(カルア!!前に魔物が!!)
「問題ない。」
次の瞬間、赤黒い魔力が雷光のように迸り、肉体を包み込む。髪の毛が逆立ち、世界がよりゆっくりになる。世界が止まっているような錯覚の中でただ一人カルアだけ動くことができる。
「ビーストモード“赤雷皇帝”。」
カルアが地面をとんと軽やかに蹴るだけで景色は一瞬で過ぎ去り、そして、魔物の身体が弾き飛ばされる。ズドンと大きな音を立てながら魔物がダンジョンの壁に衝突する。
まだカルアの攻撃は止まらない。もう一度地面を蹴るとやはり瞬時に魔物の目の前まで転移したように移動して、そして、ズドンズドンと拳によるラッシュが魔物に襲いかかる。
「まだまだ行く。」
止まらない、止められないラッシュは一方的に魔物を削り取り、速度域の差がそのまま行動できるか、出来ないかを決定付けている。
終わらない猛攻に魔物は大した抵抗もすることができずに、壁に寄りかかったまま地面に座り込んだ。
バチバチと赤雷があたりを焼き、その赤雷は魔物を痺れさせてますます戦況を決定するのであった。
(流石だな。やはり獣王の技は強い。)
「ふふん。最強。」
(ははは、久しぶりに暴れられて楽しかったか?)
「最高だった。」
どうやら久しぶりに戦闘を行えて楽しかったようだが、まだ戦いは終わっていない。あれだけの猛攻を与えたというのにまだ魔物は立ち上がる。
その姿をカルアが認めると、赤雷が消失する。そして、カルアの身体から流水のように美しい青白い気が立ち上った。
「ビーストモード“蒼彗帝王”」
その動きはまるで川の流れのように自然で、流星が瞬くように一瞬だった。まるでそうなるのが当然であったかのように魔物に接近して、投げ飛ばす。
続いて、地面に倒れた魔物に掌を当てて、ズドンと大きな衝撃と共に地面が揺れる。硬いはずの魔物はひしゃげ、地面から僅かに浮いた。
それを見逃さずに蹴り上げたかと思うと、そのまま空中で衝拳、脚の嵐を浴びせる。四方から繰り出される攻撃に魔物は一方的にやられるだけ。
「蒼彗式“蒼彗波動砲”。」
手に込められた青白い気の玉は波動砲となって、魔物に撃ち放たれた。魔物はその攻撃を受けながら、ついには宙に消える流星のように光の粒子となって消えたのだった。
「勝利。ブイ。」
(流石カルアだな。最強無敵!!)
「ふふん。もっと褒めてもいいよ。」
どうにかカルアのおかげで勝利を収められた。実はこういう遅くて硬い敵はカルアの得意分野だったからな。一方的な展開になることも多かった。
単純な防御力など内部破壊などを用いるカルアにとってはなんのその。この勝利は必然であった。
魔物が光の粒子になったその場所にはイビルメタル(中級)がドロップしていた。
「時間切れ。」
「こっちもだ。」
カルアの身体は光の粒子に包まれて、カルアを構成する粒子が弾き出される。
残った身体はイリアとしての身体へと戻り、そしてカルアは英霊としての干渉拳を無くした姿に戻っていたのだ。
「さて、パーティーを追うか。」
「リベンジはまた。」
「ははは、そうだな。絶対に攻略してやる。」
一方、イリアとカルアが勝利を収めていた頃、無事に大広場に戻っていた一行はどんよりとした雲空のように陰鬱な雰囲気に包まれていた。
「何もできなかったよ。ただ二人に押し付けて逃げただけ……。」
「そうだね。悔しいね。私も強くならないと。」
「僕は戦闘能力がないと、そんなの言い訳でしかないのに。」
アリスとヴァンの二人は沈痛な面持ちであった。二人を責める者は誰もいない。そのことが何よりも二人を苦しませる。
それにアリスにとっては二度目のこと。一層強いやるせなさが心を覆い尽くしており、その表情たるや深層を生い茂る森のよう。
「「……。」」
二人は祈るような気持ちで二人の帰還を待っていた。ただ、それをすることしかできない己を恥じながら。
「よ、無事勝てた。」
「ふふん。私たち最強。」
「「……!?」」
二人は大広間に戻ってくると、二人はばっと顔をあげ、歓喜のあまりに二人のところに走っていく。そして、二人揃ってイリアとカルアに抱きつきにかかる。
イリアはアリスの体重を全身に受けて、取りこぼさないようにしっかりと支える。イリアの腕にはアリスの身体の震えがしっかりと伝えわり、より一層アリスを守らなければという気持ちが強くなるのだった。
「ぐえっ!!」
だが、こちらではまた悲劇が。カルアは英霊である。通常の人間であるヴァンが触れられるわけがなかったのだ。
その結果、勢いそのまま地面とキスを交わしてしまった。なんたる悲劇だろうか。日に二度も悲劇に襲われるとは、不幸な運命の元埋まってしまったようだ。
「え、そこは抱きかかえてくれるものじゃないんですか?」
「私、英霊だから。」
「ははは、触れるのは俺だけってことか。」
ガビーンという効果音が似合いそうなほどヴァンは口を大きく開け放っており、そのままがくりと手を地面についてしまった。
そうすると、パーティー内には笑いが巻き起こり、そして二人の沈痛な顔もまた晴れやかになっていたのだった。少しのしこりを残して。




