018 誓い
あの日はアルダートという街の祭りであった。その中でも町中に隠された宝物を探すというイベントがあり、俺の前世のパーティーもまたイベントに参加していた。
イベントのルールは簡単であり、パーティーで宝を探し、その宝に応じたポイントで一番高いパーティーが優勝というものであった。基本的に妨害はナシだが、冒険者同士がぶつかった場合には戦闘行為によるポイント略奪も大丈夫とされていた。
「君も参加するのか?」
「ん?私……?」
「そうそう。君。」
どこかぼんやりとした無表情のカルアを心配になって、声をかけたのは他でもないアルベルト、俺その人である。まぁ、多少の下心があって声をかけたのも否定できない要素ではあるが、心配する気持ちの方が大きかった。
というのも、最初からカルアがソロであるのは分かっており、このイベントのルール的にパーティーを組んだ方が圧倒的に有利であるからだ。
「……。」
「……。」
「……。」
「え?参加するの?」
最初から変な奴だった。こちらの質問に答えず、ただぼんやりとこちらの目を見つめている。ぴくぴくと動かす耳に目線を奪われながら、返答を待っていたが何故か沈黙の時間が長く続いた。
結局、こちらが待ちきれずにカルアに再度質問したのだが、その時には興味を無くしていたのかふっと目線を反らされて、俺が一方的に気まずい雰囲気を味わっていた。
「……そっちはパーティー?」
「え?あ、ああ。そうだけど。」
と思ったら、急に質問してくるし。マジで訳が分からなかったよ。しかし、その時は何故か懐いてくれない猫がようやく懐いてくれたみたいな気持ちになっており、嬉しく思ったものだ。
「ふ~ん。」
「そ、それだけ?まぁ、いいや。また終わったら話そう。」
「……いいよ。私に勝ったらね。」
「……は?」
俺のパーティーは【聖女】フィリア,【守護神】ルーファス,【賢者】エルノア,
【剣聖】ダンドール。後の魔王討伐メンバーの五人が含まれており、その頃から実力者が集まる有望パーティーとして有名であった。
自分で言うのもなんだが、その実力も確かなものであり、イベントも当然優勝するだろうと思っていた。それなのにカルアの優勝宣言。これに俺は火をつけられた。
イベントそのものは順調に進んでおり、各冒険者と競い合い、お宝を探し、時には迷走してと。面白くカルアとのことも完全に頭から抜け落ち、単純にイベントを楽しんでいた。中間結果までは。
中間結果として提示された値は一位カルア580pt。二位俺たちのパーティー450pt。三位銀翼の剣280ptであった。圧倒的にカルアに負けていたのだった。
そして、ちょうどカルアが前方を歩いており、それに思わず声をかけてしまった。
「カルア……!!」
「ん?誰……?」
「は?覚えてないのか?」
「ん~、弱い人は覚えないから。」
ドクンと心臓が大きくなる。まさか、弱いと言われるなんて、それに事実負けているし。新進気鋭と称されていたからこそ、そんな発言に思わず動揺してしまったのだ。
「皆は行ってくれ。俺はカルアを止める。」
「……邪魔するの?」
「ああ。一位は俺たちが取らせてもらう。」
こうして急遽カルアとの戦闘が開始したのだった。場面は川沿いですぐそこに橋があった。立体的な地形で、その頃の手札は聖剣数本と風魔法。対人戦は得意ではなかった。固有スキル自体がそういう性質ではないからな。
対してカルアは探索、罠解除、罠外し何でもでき、双剣の二刀流。かつ、ワイヤーやら、体術やら複数の技能を取得しており、立体戦闘向きかつ、対人戦闘特化のようなものだった。
「ぐっ……。」
「……もういい?」
「ま、待て。」
結果、ボロ負け。圧倒的な差を見せつけられて、試合に負けた。だが、イベントそのものに関しては勝利した。ここでカルアを止めていたことで、他のパーティーメンバーが銀翼の剣を倒していたのだ。
それに他にもptを獲得してくれていた。結果、一位俺たち820pt。二位カルア780pt。三位赤烈の槍団330pt。イベントに勝っても、こんな勝ち方は納得でき無かったけどな。だからこそ、イベント後にカルアに会った時にこう申し出たのだ。
「ようやく見つけた。」
「む。……負けた。」
「「……。」」
俺とカルアの間には静寂が包み込む。若干ながら期限の悪そうなカルアであるが、逃げることははなく、俺に向かって目線を合わせてくれる。
耳がぴくぴく動き、髭がピンと立っている。尻尾は左右上下に振れているが、やはりその表情は無そのものだった。
「話は……?」
「覚えていたのか。」
「しつこいから。あんなに耐えられたの初めて。」
喜んでいいのか、どうなのか。怪しいところだけれど、喜んでおいた。カルアに覚えられたってことは弱いってわけじゃないということだからな。実際はイベント中も忘れていたか定かではないけれどな。心を乱すための可能性があるし。
「そうか。俺たちのパーティーに入ってくれないか?」
「……いいよ。」
「いいのか!!」
「ん。でも、条件がある。条件は……」
そう言って目を伏せたカルアは儚く今にも消えそうで、美しかったから。今でも鮮明に覚えている。カルアが俺たちのパーティーに入る条件。それは
「「私より先に死なないこと。」」
その時に立てた条件がこれだ。旅を進めるうちにカルアの抱える事情を知り、解決したりしたわけだが、初対面の時に誓った条件は守れなかった。
「アルの噓つき。」
「……ごめん。」
「「……。」」
230年以上前と同じように、俺たち二人の間には静寂が訪れる。でも、どうしてかなそれは気まずさもなく、カルアも不機嫌そうでもなく、暖かく懐かしい。
「カルア……。」
「何も言わなくていい。あの時はあれが最善だったから。」
「……悪いな。」
「ん。マタタビ酒で許してあげる。アルが生きていて、また会えたから。」
そういったカルアは目を伏せて、ただはにかんだ。表情をあまり変えないカルアが珍しく笑みを表にしているのを見ると、なんとも言えない感情が湧き上がってくる。
どうしてだろうか。本来なら、申し訳ないと思うべきなのに、それなのに嬉しいとも思ってしまう。そこまで死を悼んでくれたことに、再開したことを嬉しいと言ってくれたことに、俺は胸が締め付けられるように感じた。
だが、一つ問題がある。マタタビ酒なんて持っていないのだ。カルアに会うなんて思っていなかったからな。そんなもの持っているわけないんだよな。やっば。
前世はカルアが好きだったから俺も飲んでいたけれど、今は酒を飲む金もないんだ。
「カルアさん。」
「ん?何……?」
「マタタビ酒ありません。」
「ん?」
信じられないものでも見るような目を向けてくる。心なしか瞳孔が開いているようで、物凄く怖いです。声にも威圧感が籠っているし、これは怒りモードだな。ははは。
「マタタビ酒、ありません。」
「フシャー!!」
「お、落ち着いてくれ。悪かったから。」
目をカッと見開くカルア。それを見ると、何やら発光してるんじゃないかってくらいだ。これは怒りレベル2だな。まだ、全然余裕だ。
本気で怒った時はカルアの尻尾とか、髪の毛が逆立つからな。あの時は恐ろしかった。
「ん。許さない。」
「悪かったって~。今度絶対マタタビ酒持ってくるから。」
「……。」
じと~とした目でカルアに見られるが知っている。なんやかんやでカルアは俺には甘いからな。大体許してくれるんだ。前も勝手にカルアのプリンを食べて、カルアが大激怒したときも許してくれたし。
家は無茶苦茶になったけれど、カルアは結局家にたむろしてたからな。




