017 気分屋で神出鬼没なあの人
さて、いい買い物をした二日後、そしてヴァンと別れてから三日後のことだ。また守護者の修練所にやってきていた俺たちは早くもヴァンと再会していた。
「待っていたよ。」
「まだ数日しか経っていないじゃないか。」
「確かにそうだね。」
やれやれとでも言うように頭を振るヴァンであるが、ほっと安心した表情をしているのを分かっているぞ。実は不安だったんだろう。そう指摘はしないでいてやるけどな。
くくく、素直じゃない奴め。
「さて、早速会いに行くよ。付いてきて。」
「……何か、最近人について行ってばっかだな。」
「ん?何か言ったかい?」
「何でもないぞ。」
グラムといい、ヴァンといい。別に付いていくのに否はないけれど、何かなぁ~。ま、どちらも、本人たちしか場所を知らないのだから仕方ないことではあるのだけれど。
それにしても相当遠いな。このまま進むと完全に人がいなくなるぞ。ヴァンのことは信用しているが、どこに行くかくらいは聞いておけばよかったかもしれない。ダンジョンからも離れてしまっているし。
「どこまで行くんだ?」
「ん~、人にあまり見られたくないのさ。」
「……それならダンジョンでよかったのではないか。」
「確かに……。」
……三人の間でなんとも言えない空気が流れ出す。ヴァンも気づかなかったから仕方ないのかもしれないけれど、ここまで歩いたのが無駄骨だったとは……。
空気を換えるためか、ヴァンは一つ咳をすると、きりっとした表情をまっすぐに向けた。
「では、呼ぶよ。カルアさんお願いします。」
「……ん。久し振り。」
「お久しぶりです。」
「お前、カルアか!!」
ヴァンがカルアと呼ぶと、首に掛かっている金のネックレスが光り輝き、光の粒子が集まりだす。そして、その光の粒子は一人の人間を形作る。
【冒険者】カルア。ぼんやりとした表情に肩までしかない茶色の髪。その頭には二つのとんがりがぴょこりと生えており、腰下から生える尻尾がゆらゆらと揺れている。特徴的な黄色の猫目がきょろきょろ動き、俺にイリアを確認すると、退屈そうにふわ~とあくびをした。
マイペースで何一つ変わっていない懐かしい姿に驚愕する。カルアはただの猫獣人であったはずで、この時代まで、230年も生きていられるはずがない。それがどれほどあり得ない事か。
「ん~?誰……?」
「あ、あ~、ちょっとこいつと話してきていいか?」
カルアはぴょこぴょこと耳を動かしながら、その首を傾げた。それもそのはず、イリアの姿をみてまさかアルベルトであると気が付けるはずがないよな。
そんな当たり前の事さえ忘れていて、でも、カルアにまさか再開できるとは思っていなかったからこそ、嬉しく思う。相打ちになってしまって、もう語れることもなくなってしまったのかと思っていたからな。
「嫌。私は話さない。」
「くく、本当にいいのかな?……マタタビ酒。」
「……っ!!ヴァン、話してくる。」
「わ、分かったよ。」
カルアはめんどくさいことが極めて嫌いな性格だからな。話すこともめんどくさいと言ってしまう様な奴で、それに困った目に会うのは何度会ったことか。
だが、カルアの大好物のマタタビ酒の名前を出せば、耳をピンと立てコクコクと首を縦に振るのだ。旅の終盤らへんはそれを学習したのか、マタタビ酒がないと動かないと宣うくらいだった。
カルアを愛でたければマタタビ酒をあげればある程度許してくれるぞ。背が低いからな。頭に手を置くにはちょうどいいサイズだったんだよなあ。今では同じくらいの身長だから、もう手を置くこともないかもしれないが。
ヴァンたちからある程度の距離を置いて立ち止まると、カルアもまた立ち止まり、目をキラキラと光らせてマタタビ酒が献上されるのを待っている。
「久しぶりだな。」
「……?初対面。」
「俺はアルベルトだよ。今はこんなんだけどな。」
アルベルトという名乗りを聞くとカルアは目を大きく見開き固まった。耳は天を向き、左右の六髭もピンと立っている。尻尾も身体に隠されてしまっており、どうやら本当に驚いているようだ。
そして、キッとこちらを睨んでくる。
「……嘘。アルはもう死んだ。」
「本当だ。マタタビ酒のことを知っていると思うか?」
「……。私の話、有名だから。酷い目にあった。」
死んだって言うのは事実で、確かに信じられるだけのものは持っていないか。イリアに入った時も物は持ってきているわけではないからな。それで証明することはできないな。
しかし、マタタビ酒で酷い目にあったって。まぁ、だろうなって感じだ。今もこうしてほいほいついて気いるくらいだからな。マジで気を付けた方がいい。
「……いつかやるとは思っていたが、マジでか。男に襲われたか?変な契約を掴まされたか?貴族にいいように使われたか?……やると思っていたんだよなぁ。」
「失礼。全部あるけど……。」
……アホだ。それなのにこうして付いてきているのか。何をやっているんだ、この女は。全く。そんな無防備だと当然男に襲われるわ。元から無表情だから、抵抗しなさそうって思われがちだしな。意外と肉付きがいいのも理由だろうけれど。
でも、カルアって狂暴だからな。無表情だけれど、罠を使った戦闘では魔物が可哀そうになるくらい悲惨な目に遭っているぞ。
それと、変な契約は俺の常套手段だしな。カルアは癒しだったからな。マタタビ酒で耳を撫でさせてもらったりだとかな。今思っても、最低な事してるな。
「カルア、覚えているか。カルアと出会った日のことを。」
「……。」
あれはいつのことだっただろうか。随分昔のようだけれど、体感的にはごく最近のようでもある。




