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英雄賛歌 ~元英雄が二度目の世界を再攻略する~  作者: 如月
第二章 英雄、冒険する
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015 VS親分2

「ちっ。」


 剣戟はやめにして引き下がる。それにグラムはやはり追撃することはなく、どしりとした構えを取りながら、油断なくこちらを見据えている。

 厄介だ。圧倒的に力の差があり、剣をぶつけ合うだけでは確実に勝てはしない。今もびりっとした痛みで腕が痺れている。動きに問題が出ることもそう遠くないだろう。

 このまま打ち合うのも楽しいだろうが、趣向を変えないことには勝ち目はない。だが、今の剣戟でどうやら技術だけ言えば、こちらに分があるのが分かった。


「来ないのか?」

「くくく、そう焦るなよ。待てない男はモテないぞ。」

「ふっ、攻め急いているお前に言われたくはないがな。」


 グラムも話すだけの余裕が出てきたのだろう。話す隙もないくらいに攻めていたのも確かだが、戦闘に入ってから明らかに口数は減ったからな。

 だが、余裕というのは怖いものだぞ~。俺は剣先を地面に向ける。すると、グラムも怪訝な表情を浮かべながらも、若干重心を浮かせて構えに緩みが出る。


「違いないな。しかし、強いなぁ。」

「……それもお前に言われたくない。その若さでそれだけの力をどう手に入れたんだか。」

「くくく、悪魔に心を売ったのかもしれないな。」


 俺が剣をあげるとグラムはびくりと身体の重心を下げる。だが、その俺が剣の腹を肩に上に添えると、重心が先ほどよりも大きく浮き上がる。戦闘中であるが、会話の方に若干意識が取られている。

 こちらが談笑を仕掛ければ相手の心に隙が出来る。特にグラムのように義理堅い人間はその傾向が強いな。知れば知るほど油断が生まれる。ただ、その代わり本当のここ一番の時に力を発揮するのもこのタイプであるが。

 いいも悪いも感情に左右されるタイプってわけだ。


「お前は悪魔を喰ってしまう様な奴だろうが。」

「くはは、それは確かに。悪魔にも反抗するのがお……私だな。」

「……ふっ。」


 盤外戦術ではあるが、やはり非常に有効だな。緊張の糸が途切れており、構えにも隙が出来ている。後は力を引き出させないようにこちらから戦闘を再開するように提案する。

 ここで奇襲をかけると最初は押せるが、確実に後の方で盛り返してくるからな。不義理を嫌う性質って言うのは厄介なものだ。本来の力を十全に発揮できるのだから。


「さて、そろそろ再開しようか。」

「あぁ、次で終わらせよう。」




 グラムは剣を構えるが、重心の下がり方が甘い。最初よりも高い位置に重心があり、どうやら感覚を狂わせることができたようだ。気持ち的にも戦おうという心持ちが薄くなっている。

 ただ、気を張っていたのが穏やかになっており、硬さが抜けている。肉体に柔軟性が戻ることがどれだけの影響となるか。そこは未知数であるが、隙が大きい分、まだやりやすい。


「「……。」」


 駆ける。地面を蹴り、身体が宙を疾走する。ぐんと近づく距離。一回目と同じ位置で剣を振るう。が、勢いはなく、まだ速度を重視した攻撃。弾くことも出来るが、打ち合うよりも避ける方が善。

 タンッタン。地面を左右に蹴りながら接近する。斜めの切り下ろし、返す刃による薙ぎ払い、一歩下がった後の突き。そこから、避けた方にまた薙ぎ払い。剣を振り上げ、斜めに切る。

 さて、どれも俺の身体には掠らない。身体さばきで避けていられる。剣戟で見た剣筋ばかりだ。次に攻撃される場所を予測して重心移動させながら、実際の攻撃を見て調整する。


「……っ。」

「くくっ、くくく。」


 剣筋に伸びが出ているが、その代わりに思い切りの良さがなくなっている。剣の振るまでの思考時間が発生しているため、結果的に攻撃の頻度が下がっている。

 良い方向に結果が出て助かるな。腕がきつくなるまで剣戟して剣筋の癖を見抜けたこともあり、攻撃が当たる気がしないな。

 さて、そろそろ反撃をするか。


「……っ!!くそっ……!?」


 グラムによる剣の振り初めに合わせて剣をぶつける。速度、力共に乗っていないため、簡単に止めることができる。それに、衝撃も大したことがない。

 慌てたようにグラムは一歩後退するが、それが増々重心を押し上げることになる。ぐらつくとまではいかないが、力の入り方には明確な違いが出る。

 一度、二度、三度。攻撃の出を潰し続けると徐々にグラムの構えに乱れが出て来て、それと共に重心も上がっていく。最初の頃からは考えられないような甘い姿勢。


「ぐっ……」

「ふっ……。」


 勝負は付いたな。バスターソードを振るうにはもう近すぎる距離。ただ、俺は流れに身を任せて攻撃を続ければ崩せる。後は時間の問題。


「「お、親分~~~~~!!」」

「……おらっ!!」


 ――――――ガランガラン。なっ、くそっ。マジか。……っやられた。バスターソードから手を離しやがった。このまま首筋に剣を添えれば、でもそう甘くはない、か。

 義理堅い性格ってやつは困ったものだ。下が声をあげるだけでこうも現状を打破する力を得る。グラムの拳が握られているのが見える。ここからは未知数の戦いだ。全力で戦わなければ。


「負けない。負けるわけにはいかない!!」

「本当に、お前らってやつは!!」


 バスターソードを振るには近すぎるが、拳を振るうには適切な距離。風を切る音と主に拳が顔の横を通り過ぎる。ただのパンチでも髪が舞い上がる風圧が発生する。

 拳に対してリーチがある剣は便利であるが、剣を恐れない人間は思い切りがいいからな。当たるのも構わず、全力でぶつかりに来る。


「“聖剣返還”聖剣エレメシア。」

「……。」

「仕方ねぇ。拳で戦ってやる。」


 聖剣エレメシアは光の粒子となり宙に消える。グラムは驚きに目を見張っているが、それでも攻撃は止めない。フックやパンチを織り交ぜながら全力で攻撃してくる。

 それを掻い潜り、時に弾き、時に掠らせて、俺も親分に対して拳で攻撃を当てていく。前世で喧嘩の時に拳も使っていたからな。そこそこ経験があるのだ。証拠に親分と俺では蓄積するダメージの頻度が明確に違う。

 それに単純に殴り合いだけでなく、投げ技、足技何でも組み合わせる。グラムの攻撃よりも豊富な種類の攻撃を織り交ぜる。そうなれば当然、ほぼ一方的な展開になる。


「ぐおっ……。ま、負けねぇ。負けるわけには……ぐふっ。」

「こっちも負けるわけにはいかないさ。」


 ついにグラムが倒れる。ドスンと音を立てて倒れ込み、起き上がろうと腕に力を入れているようだが、蓄積したダメージに思うように力が入らないようだ。

 ようやく勝てたようだ。強かった。本当に強かった。このまま鍛錬をすればきっと上級冒険者にもなれるだろう。


「はぁはぁ。……ふっ。」

「お、親分はやらせないぞ!!」

「そ、そうだ!!」


 息が乱れる。中々楽しい戦いだった。久しぶりに戦闘というものを楽しめた。それを、この二人は。まぁ、決着がついた後だからいいけれど、前だったら仕置きが必要だったぞ。

 ただ、声を震わせながらも俺の前に立つ根性と勇気は認めよう。


「今後、同じようなことを起こしたくなければ、お前らも肩を並べて戦えるようにするんだな。」

「くっ……。」

「……っ!!」

「真っ当に生きればグラムも、お前らもいい冒険者になれるだろうからな。」


 二人は唇を噛みしめて、その場に立ち尽くす。親分とその子分に背を向けて、その場を立ち去る。

 後は二人が真っ当になって、グラムを助けられるようになれば、それで上手くいくだろう。うまくいくことを祈っている。

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