002 VS低級冒険者二人組
「ってお~い。何閉めてんだよ。マジでビビっちまったのか~。」
「ぶはは。そんな奴ほっとけよ。」
「……。」
折角閉めたのに冒険者から出てきちゃったよ。小太りの背の低い細長い冒険者は好色そうな眼を俺、アリスちゃんに向けて下品な笑みを浮かべている。
それとは違い後方にいる背が高く細長い冒険者はこちらを馬鹿にしたような表情を浮かべており、こちらも舐めているのがよく分かる。
どちらにしても気分のいいものではないし、どうしようもない人種であるのは会話をするまでもなく分かることだ。このような存在はボコボコにしたいところだが、こちらから手を出してしまえば、犯罪者はこちらになってしまうのだ。ここは我慢一択しかない。
「くくっ、それにしてもこんなお嬢さんたちがこんなところに何をしに来たんだろうなぁ。」
「おっ、それはあれだろ。俺たちに酌でもしてくれんだろ。」
「ぶはは。何言ってんだよ。お前なんかに酌するわけねぇだろ~。」
それにしても何を見せられているのだろうか。酔っぱらいは勝手にどこかで会話していてくれないだろうか。節度を持って酒を楽しむのはいいし、俺としても前世はそれなりに楽しんだからな。
とはいえ、こんな風に知らない人間に絡みに行くのは正気とは思えない。あ、正気ではなかったか。
「おいっ、嬢ちゃん。酌してくれよ。」
「お断りします。」
「振られてるじゃ~ん。」
「ちっ、うぜぇ。いいから酌しろよ。それとももっと凄いことしちゃう?」
う、う、う、うっざぁああああ。何だこいつ。うぜぇのはお前だよ。もう解放してくれないかな。二時間後くらいにまた来るからさ。その間に消えてくれないかな。
それより手を伸ばしてくるんじゃねぇ。触らせるわけないだろうが。特にアリスちゃんに触れてみろ。その瞬間ボコボコにするぞ。絶対に許さないからな。
「は?」
「こっわ~。嬢ちゃん切れてるじゃ~ん。やめとけよ。」
「なら、紫の方でもいいや。げへへ、中々身体つきもいいからな。」
「てめぇっ……!!」
細長い方の相槌も鬱陶しいが、それよりも何だって?紫の方でもいいだって?ふざけているのか?それに身体つきもいいだと?確かにそうだが、それを口に出して気持ち悪い笑みを浮かべるんじゃねぇよ。
俺だけならいいが、アリスちゃんにまで口出し、手出ししようとするなら許してはならない。
「あ?何だよ。やんのか?」
「“聖剣召喚“。聖剣エルメシア。」
「こいつっ!!抜刀しやがったな。」
「てめぇ、覚悟あんのか?」
ふ、ふふふ。ぶっ倒す。とりあえず、こいつらはボコボコにしよう。そうしよう。絶対に許してはならないのだ。犯罪と言われようが知ったことか。
どうせ碌に訓練もしてないだろうし、酒に酔っている状況で判断能力も鈍っている。真っ当に戦うことも出来ない相手に負ける道理はないのだ。
二人の男は腰に刺さっている剣を抜き放つとこちらに剣先を向けてくる。ただ、剣先が上下にゆらりゆらりと揺れており、剣の固定もしっかりと出来てはいない。それは酒の影響か、あるいは男たちの練度のせいか。
剣先が揺れているということは、剣筋がぶれ力が正確に伝わらないということだ。それでも刃物と相対するということで、油断して接触するなどは起きてはならないことだ。
「ちっ、結局こねぇのかよ。行くぞ!!」
「ぶはは、ビビってんだろ。」
「……。」
小太りの男は怒った様子で距離を詰めてくる。しかし、その歩みは想像より遅く、また頼りのないものだ。その後ろから細長い男が追従しているが、タイミングもばらばらで連携というものを考えたこともないのだろう。
ただ、二人が好き勝手に俺に近づいてくる。これなら小太りの男を壁として運用しながら一対一の状況を作り続けるのは簡単であろう。
「おらぁ!!」
「……。」
またも想像以上に酷い剣筋。直線に刃が通るのが正常であるのにブレブレでもはや面で叩こうとしているようにさえ思う。振りの速度、剣の返しの速度。そのどちらもが下の下。このレベルだと逆にこちらがどうしようかと悩むくらいだ。
とりあえず、剣を振り下ろした状態の小太りの男に一歩踏み込む。男は反応することも出来ずにただ振り下ろした体勢のまま固まっている。その男が剣を返すように動かす前にさらに踏み込む。
「……ぇ?」
剣を使うまでもない。剣を持つ相手の手首を掴み捻る。まともに剣を握れていない小太りの男からは剣がすり抜けて落下していく。それを男はぼんやりと見ながら、身構えることもない。
手首を掴んだまま小太りの男に背を向け、ぐっと手首を引っ張り投げる。ドンという音と共に男は呻き声をあげてその場に倒れ伏した。綺麗な背負い投げが決まる。
その間、細長い男は状況についていけないようで、その場に立ち竦んでいる。
「ぐぇええええええ。」
「な、なんだ?」
「ちっ、この程度かよ。」
がっかりだ。だが、最初から分かっていたことか。絡んでくる冒険者など大した実力もない底辺であるのだ。こうなるのも必然と言えるだろう。
細長い男に一歩足を踏み出す。すると、男は一歩足を後ろに下げる。戦意さえ失い、まともな実力もなく、これでは話にならない。戦いにさえならない。
「もう、いいか?」
「あ、ああ。……すまねぇ。」
「飲むのもいいが、ほどほどにしろよ。」
萎える。聖剣が光の粒子に変換され宙に消える。細長い男は剣先を地面に向けており、小太りの男はいまだに地面に伏せたままだ。
アリスちゃんに目配せすると、とてとてと近づいてきて、二人で細長い男の横を通り抜ける。
「おらぁ!!」
「……はぁ。」
それで、これだよ。いい風に言えば諦めが悪い。でも、現実では道理を弁えない愚か者。細長い男は急に剣先を天に向けて、振り下ろす。
こちらに近づく剣であるが、その剣速はやはり遅い。見てから避けることも容易く、そればかりか男に一歩踏み込み、そして腹に向かって握った拳を全力でぶつける。
「かはっ……!!」
ばたりと細長い男は地面に倒れ伏して、二人の男が床とキスする状態が生まれたのだった。これで馬鹿な二人は倒れた。世界は少しは平和になったかな。
こんなので平和になる世界も嫌だな。前世で魔王を倒したのに、こんなのなのか。はぁ~。
「冒険者登録しようか。」
「うん。そうだね。スラちゃんも従魔登録しなきゃね。」
二人の男にアリスちゃんは目を向けることもせず、その腕に抱くスラちゃんをぐにゃりと歪ませながら二人揃って冒険者ギルドの扉をくぐった。




