001 街
村を出て真っすぐ道を歩いてきたが、ついに街に着いた。街ということだけあって、城壁に包まれており、魔物の侵入を防ぐことに役立つだろうことは見て取れる。
とはいえ、前世見た王城よりは流石に高さも素材も劣っているように見える。頑丈そうな岩づくりではあるが、やはり王都に敵わないのは仕方ないことなのだろう。
「着いた~。長かった。」
「うん。何も問題が起こらなかったのいいことだけど、かなり時間がかかったね。」
「予想外だよ。もっと早く着くと思っていたのに結局野宿しないといけなかったな。」
村から街への道のりはそこそこ長かった。日数にして3日である。この程度の道のりは踏破してきたわけだけど、それでもきついものはきつい。特に歩きなれていないこともあり、4時間も歩けば足が痛くて仕方がなかった。
一日10時間程度移動出来ているため、相当数の距離は一日で稼げた。また、途中の村によることもあったり、場合によっては泊ることもあったため、そこはよかったことだろうか。一日だけ野宿しないといけなかったのは最悪であったが。
「ふふ。村では野宿なんてしたことなかったよね。それにしてはイリアちゃん、手慣れていたけど。」
「え?あ、ああ、旅に出るつもりだったから、頭の中で訓練してたんだよ。」
「そうなの?それなら、今回役に立ってよかったね。」
「次回はもう少し野宿用の道具が欲しいな。テントがあれば夜ももう少し安心できるからなぁ。」
ふぃ~、アリスちゃんにはバレているのか、バレていないのか謎だな。特に言及されたことはないし、突っ込まれることもないから気にしてなかった。もう気にするだけ無駄って言う面もあるけれど。
それより野宿だよ。テントがないため、交代で寝るしかなかったから相当きつかった。睡眠時間を通常より長くとらないといけないわけだから、一日で活動できる時間が少なくなる。それにいつ魔物に襲われるかも分からない。
ここで魔物が寄ってこない材質・効果の付いたテントの魔道具があれば、全員で寝ることも可能になる。もちろん、例外もあるから警告用のアラームとかも揃えないとならないけれどな。
「そろそろだな。」
「次の方どうぞ。」
「はい。」
「お名前と滞在期間、滞在理由をお聞かせください。」
街に入る際には必須の手続きである。この手続きを何度しただろうか。最後の方は特権を得たため手続きをしなくても済んだが、今となっては懐かしささえ覚える。
悪人を入れないためと街に入るための費用を徴収することを目的としている。この費用は一度街の財政に入れられ、その後に村へと還元される。城壁の補修費だとかだな。
「イリア=ローズベルです。滞在期間は1か月を予定しています。冒険者になるために来ました。」
「私はアリス=クライツです。イリアちゃんと一緒です。スライムのスラちゃんも一緒です。」
「あぁ、冒険者、ね。若いのに大変だねぇ。それにテイマーとは珍しい。さて、特に指名手配とかされていないみたいだし、問題なさそうだね。仮通行証の発行と初回通行料で600だね。」
うぐ。冒険者証明証を発行すれば安く済むとはいえ、初回料金で600も取られるのは痛いぞ。しかし、昔と変わっていなければ冒険者になれば200が通行料であったはず。商人だとまた違ったりするから、通行料対策に各組織に所属なんてこともあったな。
とはいえ、今回は特に出来ることはない。素直に払って入った方が早いからな。
「はい。600です。」
「私は1200ですね。」
「はいはい。お二人とも確認できました。こちらが仮通行証です。従魔の方は冒険者ギルドで従魔証明書の発行が必要ですのでお願いします。通行証は街から出る時にお返しくださいますようお願いします。」
「「分かりました。」」
「では、街での生活をお楽しみください。」
門を潜り抜けるとそこに広がるのは太陽が燦燦と照らす活気づいた市場。複数並んだ白と赤の三角形の屋根に無骨な鉄骨の支柱。その中では果物やお土産、魔物素材など店ごとに多種多様な売り物が置かれている。
広場の中心にある噴水は光を反射して眩く光っている。村にいた時には考えられないほど騒々とした空間。俺も本能的に楽しくなってくる。
「ははは、凄いな。」
「うん。色々なものが売っていて楽しいね。」
「な。中を覗きたいところだけれど、先に冒険者ギルドに行くか。」
屋台の中を覗きたい気持ちはあるものの、それよりも先にやることがある。冒険者ギルドに宿屋。拠点を探さない事には生活ができないからな。
それに世知辛いことにお金がない。これに関しては俺が悪いんだけどな。いや、アリスちゃんせいでもあるけど。マナポーション40本がスラちゃんに吸い取られてるんだぞ。どうなってんだ……。
そんなこんなでボヤキながらも冒険者ギルドの前に到着した。白塗りの三階建ての建物。屋根はコバルトブルーで屋根のすぐ下に冒険者ギルドのマークである剣と盾の紋章がこれまた、コバルトブルーで形作られている。
こんな風に外見上はクリーンな印象を与えようと目まぐるしい努力をしている冒険者ギルドであるが、実態も実のところ結構クリーンだったりする。
荒くれものの印象が拭えない冒険者ではあるのだが、それはあくまで低級までである。初心者を抜け、仕事をするにつれて結局は信用商売であるのに気がつくのである。人あってこその仕事であるのだから当然であるけれどな。
「……ようやく冒険が始まるな。」
「ふふ。旅に出たいと言い出して十年は経っているね。イリアちゃんがそう言う気持ちも分かるね。」
「そうだな。よし、これから始まるんだ!!」
――――――ガチャリ。冒険者ギルドを飾る木製の扉を開くとその中も木製の床、机、椅子が並べられており、数人の男たちが椅子の上で酒を飲みながら笑い声をあげていた。
一斉に冒険者の目がこちらを向くが、怯える必要もない。ただ受付に歩いていけばいいのだ。
「おいおい、嬢ちゃんたち。こんなところに何の用だ?ここは遊び場じゃねぇんだぞ。くくく。」
「けけけ、そう言ってやんなよ。」
「……。」
クリーンとは何だったんだろうか。え?こんなありがちな展開まだあったのか?もう流行りから廃れてんだぞ。つまりはこいつらは低級冒険者ってことか。
あれれ、こんなことが起きないと思っていたのに起きてしまったよ。どういうことなんだろうか。
「ぶはは。ビビッて黙っちまったんじゃねぇ~か。」
「ぶはははは。ちびったならお家に帰りなぁ~。」
「……。」
呆れて物も言えないとはこのことだろう。クリーンのくの字もない様相につい両手に握る扉に力を込める。
――――――バタン。木製の扉は音を立ててしまった。冒険者の姿はもう見えない。あれ、俺の冒険は前途多難なのか?




