022 目覚め
「……ぇ。」
「う、う~ん。」
「……きて。」
瞳の奥に眩い光が入り込んでくる。ガンガン痛む頭を稼働させながら、ぼんやりとした意識の中で遠くから聞こえる声が途切れ途切れで聞こえてくる。
少しずつ覚醒する意識に身を任せながらゆらゆらと揺らされて身体を心地よく感じる。
「……んぁ?」
「起きて!!」
「え……お、おはよう?」
ふわりと沈む身体にもう一度身を任せようとしたその瞬間に大きく身体を揺らされて、耳の近くで声がはっきりとする。
びくりと身体を震わせて目を開けるとそこにはアリスちゃんがいて、働かない頭を動かしながら、とりあえず挨拶を返した。
「よかった~。ちゃんと起きてくれたね。」
「あ~、うん?」
「寝ぼけているの?」
まだ意識がはっきりしないものの、徐々に昨日のことを思い出していく。熊公。焼き付く匂い。痛む身体。一時的に元に戻った身体。でも、全てが夢のようで俺の身体は変わらずイリアのものだ。
アリスちゃんと目を合わせると、どうしてか赤い目が一層赤く染まっている。少し目の当たりは膨らんでおり、どうやら泣かせてしまったようだ。
「……はっ。どうなったんだ?」
「あれ、覚えてないの?」
「いや……倒したのは覚えているけれど。その後に気を失って。」
そう。確かに俺は熊公を討伐した。でも、その後誰かが俺の近くに近づいてきて。でも、それが誰かは見ることは出来ずに、その場に倒れ伏したんだった。
「もうっ。心配したんだからね。イリアちゃんはお婆ちゃんが運んでくれたんだよ。」
「え?婆さんが?」
「うん。もう無茶しちゃダメだからね。」
ミザー。また、助けられたのか。……またと言っても、そこまでか。アクセサリーにポーション。これでも有難いのは確かであるけれど。
無茶はダメ、か。ははは、無理だろうな。いつだって無茶してこそ俺というものだろう。
「……。」
「むぅ。はぁ、仕方ないなぁ。今度無茶するときは私も付いていくからね。」
「……分かった。」
今度は前世の力を使わずに解決したいな。あれを使うと誰も隣に立てないし、一人で戦うしかないからな。時間制限付きで、かつ戦術も狭まる。
それでも、使わないといけない時は使うんだけれど。その時はアリスちゃんには悪いけれど、一人で戦わせてもらおう。
「……うそつき、だね。」
「え?」
「ううん。何でもない。無事でよかったよ。」
ぼそりとアリスちゃんが何か呟いたが、耳に伝わる前に宙に音が消えてしまったから聞こえなかった。けれど、浮かない表情を見るに俺が何か悪い回答をしたのかと心配してしまう。
でも、次の瞬間にはいつも通りのアリスちゃんがいて、それ以上聞くことも出来ず、気のせいだと思うしかない。
――――――コンコン。部屋にノックの音が響く。誰かが部屋に訪れたようだ。
「ふん。起きたのかい。」
「……ああ。ここまで運んでもらったみたいだな。ありがとう。」
「素直にお礼を言われると気持ち悪いね。」
婆さんか。相変わらず口が悪いな。人のことを言えないけれど、この口の悪さはどうにかならないのか?というか、最初から何でこんなに口が悪いんだ?イリアさんが何かやったのか?不思議だ。
「は?ちっ、言い損だな。」
「ふん。ちゃんと勝てたみたいだね。」
「ん?あぁ、なんとかな。」
勝てたというのは熊公の事だろう。どこかで見ていたのだろうか。いや、運んだのが婆さんって言うことだから、単純に死体を見ただけだろうな。この婆さんが戦場にいたところでどうにか出来るとは思えないしな。
「それで、どうするんだい?」
「どうする……?」
「そろそろ、旅に出たくなっているんじゃないかってね。」
「……ああ。どうだろうな。」
旅か。確かにこの村で出来ることはもう少ないだろう。初心者の洞窟を攻略したし、まだ中級者の洞窟とか、上級者の洞窟とかあるらしいけれど、それは立ち入り禁止だ。
村人たちの訓練施設とかで、大人が優先的に使えるとかなんとか。時期が過ぎれば使えるとは言われたけれど、他の地方に行く方が効率が良いとのことだから、旅に出てしまうのが一番いいだろう。
「ほう。意外だね。即答するかと思っていたのだけど。」
「そうだな。でも……。」
「ふん。何を心配しているんだか。ちゃんと話してきな。」
「あ、ああ。」
心配。それは一つだけ。イリアの両親のことだ。俺は本当のイリアではないからな。両親がどう思っているか。許可してもらえるか。それに、何かお返しでも考えるべきなのか。本当のイリアではないからこそ、思うところはある。
「ほら、さっさといきな。」
「分かったよ。」
でも、確かに話し合いをしないことには何も伝わらないし、何も分からないよな。両親の願いも、イリアの想いも、きっと知ろうと思わなければ分からない。伝えようと思わなければ伝わらない。
だから、自分のしたいことをちゃんと伝えないといけないのだろう。




