中編 好凮寺奇譚⑨
「結局あの子達は、何のために好凮寺に一泊していったんだろう」
「さて、どうしてでしょうね」
子供達の布団を大方丈前の庭に干しながら坊主君へと尋ねてみたが、返ってきた答えは答えになっておらず、謎は全くもって解決の兆しも見せなかった。
「君はわたしが何か子供達と関係があるんじゃないかって言ってたよね。でもわたしは、別にあの子達が好凮寺で一泊したことで何か得るところがあったようには感じないんだよ」
「あれはあくまで可能性の話をしただけですから」
「むう」
坊主君の答えに、今度はただうなり声を上げるほかなかった。人成山の真意は人成山にしか分からない。もし人成山の真意とやらが分かるのであれば、わたしは無心になるまで電波が入らないなどといった間抜けな呪いにかかったりはしなかったのだ。
「ですが得るところがなかったというのは、間違いかも知れません」
「それってどういうこと?」
むくれたわたしをフォローするように呟いた坊主君の言葉に、思わず直ぐに反応してしまう。
そんなわたしに坊主君は小さく笑って見せて、またもや意味深な答えを返すのであった。
「長洲さんは子供達が訪れるより以前に、何かを得ていたように存じます」
「ん? えーっと、つまり?」
言葉の意味が分からず問いかけると、坊主君は今度は感情の分かりづらい表情をこちらへ向けて、とぼけたように返答した。
「さて、どういうことでしょう」
「むう。君までそうやってわたしをからかって」
ぷい、とわざとらしく視線を逸らして、坊主君から離れて布団を干す仕事に戻った。
別に怒っていたりなんてしない。人成山の呪いは、最後には自分で解かなければいけない。
そもそも今回の騒動自体、本当にわたしが何か気づかなくてはいけなかったのかどうかは疑問が残る。わたしがやったことと言えば、子供の世話をして、寝かしつけて、ご飯を作ったくらいのもので、それくらいなら人成山でなくても幾度かやったこともある。
一つだけ確かに言えることは人成山の真意は人成山にしか分からないということだけで、子供達が煙の如く消え去ってしまった今となっては、真相は闇の中だ。
それでも子供達が好凮寺にいた事実までなくなったりはしない。その証拠が庭一杯に干されたこの布団で有り、夏の太陽の光を浴びてぱたぱたと風に揺れる光景を見ていると、何だか不思議と心が躍る。
布団を物干し竿に掛けながら、自然と鼻歌なんか歌っていた。
曲名は知らないけど、何故か昔から知っているわたしの大好きな歌だ。
でも歌はうろ覚えで、歌詞も分からないし、途中からメロディーもあやふやだ。だから大抵、しばらく歌うとわたしの鼻歌はしぼんでいって、やがて空気に溶けてなくなってしまう。
歌が消えそうになったとき、好凮寺にふっと爽やかな風が吹き抜けた。
風と一緒に歌もどこかへ飛んで行って消えてしまう。――そのはずだったのに、風が吹き抜けても歌は続いていた。
凜とした心地よい音が、わたしの歌っていた鼻歌の、わたしの知らないメロディーを紡いでいった。
思わず振り返った先には、すました顔で鼻歌を歌う邦実様の姿があった。
「邦実様! その歌知っているんですか! なんて歌なんですか! もう一回歌ってください!」
布団を放り出して駆け寄ったが、邦実様はすました顔のまま廊下を歩いていってしまう。
「ちょっと待ってください! 曲名だけでも!」
再度声を投げかけたけれど、邦実様は振り返りもせずわたしの頼みをばっさりと切り捨てた。
「嫌なこった。あれだけ懇切丁寧に教えてやったのに覚えきれないお馬鹿さんに割く時間はないっての」
「何のことですか! 待ってくださいって、邦実様ー!」




