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人成山登山記録  作者: あゆつぼ
人成山登山記録 中編 好凮寺奇譚
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中編 好凮寺奇譚④

 邦実と坊主がこころから貰った和菓子の箱には最中が六つ入っていた。二人分合わせて一二個。坊主はこころがまだ和菓子の箱を持っていたことを邦実に告げると、最悪足りなかったらこころの部屋から拝借すればよろしいと計画は実行に移された。


 和菓子とお茶の入った急須と湯飲みが集められた大方丈では、既に捕まっていた四人の子供と、準備の途中でやってきた、小柄で人形のような可愛らしい女の子と、目つきのきついけれど大人しい女の子を加えた六人が待っていた。


 準備が整ったのを見届けると、邦実は大方丈に備え付けられていた太鼓を叩いた。

 太鼓の音が空気を揺らし、突然の大きな音に子供達の中には悲鳴を上げる者もあったが、邦実は気にせず大声で叫ぶ。


「クソガキ共ー! おやつの時間よ! さっさと来ないとなくなるわよー!」


 叫ぶとまた太鼓を叩く。

 すると、床下から、廊下の向こうから、トイレから、大方丈の押し入れの中から、子供が飛び出してきた。


「ちょろすぎねこいつら……」

「おいはげお菓子よこせよー」


 やってきた男の子が邦実にせがむが、邦実はそんな男の子の額に一発デコピンを喰らわせる。


「恵んで欲しいならそれなりの態度を見せることね。ほら、あんたたちも、押し入れから座布団だして並んで座る。ちゃんと座った人だけにお菓子を配るわ」


 子供達は慌てて押し入れに駆け込んで、特に邦実にくってかかっていた男の子は一番乗りで座布団を敷いて座り込んだ。


「あんたねえ、自分だけ良ければ良しじゃ駄目よ。元気有り余ってんなら他の人の分も準備なさい。あの子をちょっとは見習ったら?」


 邦実は足の不自由な女の子のために椅子を準備し、座らせて上げている黒髪の女の子を示す。男の子は舌打ちしながらも立ち上がり、一番小柄な女の子の代わりに座布団を運んで来た。


「それでいいのよ、全く。それにしてもひーふーみーよー……。一〇人ね。結構居たわね」


 邦実は並んで座った子供達を指折り数えて、もう一度その面々を見渡した。

 全員幼稚園児のようで、皆園児服を着ていたがどれ一つとして同じものはなく、異なる幼稚園出身であることは明らかであった。男女比は男四の女六。邦実は集まった女の子を一人一人見ていって、最後にやってきた女の子を確認する。髪を横で一つに束ねた、男勝りで元気そうな子であった。それを確認すると満足したのか、視線を横に移して黒髪の女の子に尋ねた。


「ホントにこれで全員?」


 黒髪の女の子は周りを見渡してから答える。


「私が見た人が全員居ることは確かです」

「そういやどれだけ来たかは把握してないんだったわね。あんたら、ここに居ない人は居ない?」


 邦実の問いかけに子供達は互いを確認し合ったが、やがて首を横に振った。


「んー、これで全員か。ホントでしょうね? もう一人隠してたりは――」

「いいからさっさとお菓子くれよ」


 邦実の重ねての確認に、生意気な男の子が声を上げる。邦実は男の子を睨み付けて舌打ちしたが、坊主の方へ視線を向けるとお菓子を配るように命じた。


「一人一個よ。あとお茶で火傷しないように」


 坊主がお菓子を配っていくのを見届け、邦実は注がれたお茶を一口すする。

 お茶は温めで、どうやら坊主が子供達のことを考えて水で薄めたようだ。

 お菓子が配られると子供達はすっかりそちらに夢中で、各々最中を食べ始める。


「あんまりぼろぼろこぼすんじゃないわよ。掃除するの誰だと思ってんの」


 邦実は釘を刺しつつも、自分も最中をひとかじりする。


「お師匠様。食べ終わった後はどういたしましょうか」

「そうね……。こいつら大人しくさせとくのは難しそうね」


 先程も騒ぎ回る子供に昼寝を妨害されていた邦実は、どうしたら子供達を大人しくさせられるか思案する。


「お姉さん」


 思案する邦実に対して、おかっぱの女の子が声をかける。すっかり邦実のことが気に入ったらしい。


「何よ」


 考え中に話しかけられた邦実は不快感を隠すことなく返したが、女の子は動じない。


「何かお話聞かせて」

「はぁ? なんでこの邦実様があんたらクソガキに話さないといけないのよ」

「だってつまんないんだもん」

「知ったこっちゃないっつーの」


 邦実の態度についに女の子も泣きそうな表情を浮かべるが、邦実はそんなこと気にせずお菓子をもう一口かじる。


「では自分が趙州録を――」

「あー、分かったわよ。話せば良いんでしょ」


 坊主が引き受けようとしたのに対して、そんな退屈そうな話をされたのではたまったものではないと、邦実は割って入った。


「ほら、そこでくっちゃべってるクソガキも、邦実ちゃんが特別に話をきかせてやるから大人しく聞きなさい」

「えー、はげの話とか聞きたくねーよ」

「そーだそーだ」


 生意気な男の子とサイドテールの女の子が声を上げたが、邦実は手元にたぐり寄せた警策の棒で畳を強く叩いて黙らせた。


「あんたらが勝手に上がりこんだこの好凮寺についての話よ。聞かないなら出て行って貰うわ」


 突然大きな音を立てたので小さな女の子が泣き出しそうになったが、隣にいた黒髪の女の子がなだめて事なきを得た。そんなことは露知らず、邦実は子供達が大人しくなったのを確認すると、話を始める。


「この好凮寺にはね、妖怪が住んでるの」

「嘘だ! そんなのいるはずない!」


 生意気な男の子が反論するが、邦実はその言葉ににやりと気味悪い笑みを返して話を続けた。


「余所ではそうかもね。でもここは普通の場所じゃない。呪われた山、人成山よ。妖怪が出ることなんてよくあることよ。現にあんたたちは、人成山の呪いの力でここに集められた。そうでしょう?」


 問いかけに、生意気な男の子も押し黙って身を縮めた。そんな様子に邦実は満足して、更に話を続ける。


「好凮寺のある部屋には妖怪が封印されてるの。でもね、月の出ない夜になると封印が解けて、真っ暗な廊下を手探りで歩き回るの。ギィー、ギィーって、足音を立てて――」


 邦実の話す怪談に子供達は身を震わせる。邦実はそんな子供達の反応が面白くなって更に調子に乗っていく。


「あそことそこ、障子戸が二枚なくなっているでしょう? 妖怪は月のない夜しか外に出られないけど、真っ暗で何も見えないから、ああやって手についたものを破壊して回るの。手探りで障子を突き破って、きっとその感触が何かの生き物とでも勘違いしたんでしょう。好凮寺全体に響き渡るくらい、おぞましい叫び声を上げながら、メキメキと障子戸を木枠ごと粉々にしてしまうの。だからあたし達は、そいつのことを妖怪障子破りと呼んでいるわ」


 確かに二枚なくなっている障子戸を見て、子供達は息を呑む。

 事実、その障子戸は夜中に手探りで廊下を歩いていたある妖怪によって木っ端微塵に破壊されたのだった。そして長らく留守にしていた妖怪は、今人成山に帰ってきている。


「ま、障子戸を破壊するだけならたいしたことはないわ。好凮寺の風通しがよくなるだけよ。でもね、もし誰かが妖怪障子破りの封印された部屋の戸を開けてしまったら――。太陽の出ている昼間に封印が解かれてしまったら――。妖怪はきっと、障子戸以外のものを粉々にするでしょうね。まず最初に、封印を解いてしまった間抜けな子供を、音を立てて、粉々に――」


 女の子の一人が悲鳴を上げると、堰を切ったように他の子供も悲鳴を上げた。

 邦実は見込んだ成果が得られたため大変ご満悦であった。


「分かったら、勝手にその辺の部屋に入り込まないこと。あと騒ぎ回るのも禁止よ。移動するときは許可をとりなさい。一人で出歩くのも禁止よ。よろしい?」


 問いかけに、子供達は邦実の方を見たがそれきりだった。

 邦実は警策の棒で畳を叩いて音を出し、再度念を押して問う。


「分かったかってきいてんのよ。返事は?」


 子供達はばらばらに返事をしたが、おおむね満足した邦実は腕を組んで応じる。


「まあよろしい。わかったらここで静かにしてなさい。――ちょっと、あんたこっちきなさい」


 邦実に指名された黒髪の女の子は邦実の前までやってきて、そこに正座して座り込んだ。


「お呼びでしょうか、南洋様」

「南洋様はやめなさい。美少女アイドル邦実ちゃんの呼び名としてふさわしくないわ。邦実でいいから」

「はい。邦実様」


 返事が返されたことに邦実は機嫌を良くして問いかけた。


「さっきあんた、迷い込んだって言ったわよね。それで、どっから来たのよ」


 問いかけに、黒髪の女の子は顎にピンと伸ばした人差し指を当てて首をかしげたが、やがて、その大きな鳶色の瞳をキラキラと輝かせて答えた。


「さて、どこから来たのでしょう?」

「駄目ねこれは。だからクソガキは嫌いよ」


 邦実は肩を落として呆れたが、隣にいた坊主が言葉をかける。


「恐らくですが、山の呪いだと思います。呪いにかかった人が山の中に転位してくることは良くあることのようですし、人成山にこれほどたくさんの幼い子供達がいるとは聞いたこともありません」

「そうなると、何かしら条件を満たさないとこいつら出て行かないって事?」

「どうなのでしょう。何か知っていますか?」


 坊主が黒髪の女の子に尋ねたが、女の子は素直に首を横に振った。


「いえ、存じません。ただ気がついたら、このお寺の近くにいたのです」

「好凮寺に対する嫌がらせかしら? 何にしても、ずっと置いとくわけにはいかないわね。あんただって帰りたいでしょ」


 問いかけに黒髪の女の子はふんわりと笑って答えた。


「私はここも好きですよ。ですが、確かに両親は心配しているかも知れません。それに兄も」

「変な子ね、あんた。まあいいわ。とにかく――」


 口を開いた邦実の、呪いによってつるつるになった頭をやってきた男の子がぺしぺしと叩いた。


「すっげーはげ。なんではげてんのお前」


 やってきた男の子は最初から邦実にからんできていた男の子で、邦実はそんな男の子の手を軽く払いのけると、怒りもせずに突っぱねた。


「しつこいわよ。あたしは大人の話をしてるの。構って欲しけりゃあんたもちょっとは大人になれっての。なれないならクソガキはクソガキ同士で遊んでなさい」

「ちぇー、つまんねえの、はげ!」


 男の子は捨て台詞のように言い捨てる。そんな男の子に対して、黒髪の女の子が優しく微笑んで言葉をかけた。


「そのようなこと、口にしてはいけませんよ」

「うっせ、ブス!」


 男の子はそれだけ言うと、とっくみあいの喧嘩をしていた男女の元へと走って行ってしまった。


「まったく自由気ままなもんね。あんた、あんな奴の言うこと気にしなくたっていいわよ。男なんて、いくつになったってあんなもんよ」

「そうなのですか。参考にさせて頂きます。ですが私は、ああいう素直な態度も嫌いではありません。なかなか、自分の欲求通りに行動するというのは難しいものですから」

「あれは素直なわけじゃないと思うけどね。で、あんたは何?」


 邦実は黒髪の女の子の背中に隠れた、黄色のベレー帽を深く被って、されど細く鋭い目つきで視線を送っていた女の子へ声をかける。

 その女の子は黒髪の女の子の背中から出てこようとはせず、ただ顔だけ少し出して邦実を睨み付けている。


「この邦実ちゃんが話しかけてやってんのよ。返事ぐらいしたらどうなのバカたれ」


 無視されたことに邦実は不機嫌になり睨み付けたが、女の子は黒髪の女の子の背中に隠れてしまった。


「あの、邦実様」


 代わりにと、黒髪の女の子が邦実へ声をかける。


「何」

「お手洗いだそうです」


 黒髪の女の子の答えに邦実は呆れて、廊下を指さして答えた。


「そこの廊下真っ直ぐ進んだ突き当たりよ。連れてってやって」

「はい。では行きましょう」


 邦実の指示を受けて、黒髪の女の子は背中に隠れていた女の子の手を取って廊下へ出て行った。

 邦実は大方丈を見渡して、子供達を一通り確認した。


 一〇人の子供のうち、暴れ回っているのは四人。内訳は男の子三に女の子一。最も凶悪なのは女の子で、男の子を投げ飛ばしては寝技を決めている。腕っ節には自信があるらしく、男の子三人を相手にしていまだ無敗である。


 要介護者は二人。どちらも女の子で、片方は足が不自由で歩けないらしく、片方は幼稚園児としても小柄で貧弱そうであった。


 人畜無害なのは残りの四人。内訳は男の子一の女の子三。

 そのうち黒髪の女の子は実にしっかりした子で、子供ながら他の子の面倒を見てくれる、今の好凮寺にとってはありがたい存在だ。

 残りの三人のうち、男の子もどちらかというと黒髪の女の子に近いかも知れない。落ち着きがあって大人びている。今は小柄な女の子の遊び相手をしてくれている。

 残り二人はおかっぱの女の子と今し方トイレに行った目つきのきつい女の子。どちらも引っ込み思案であるが、それ故無害だ。


 やはり問題は暴れ回る四人で、それ以外は最悪放っておくことも可能だが、相手が子供故何が起こるか分からない。

 邦実はそこまで考えると隣に控えていた坊主へ視線を向けて、この頼りなさそうな少年がいかほど子供達をまとめられるか思案したものの、とても全員をまとめられる能力はないと判断し、さりとて自分はどうかと言うと、精々一人二人大人しくさせておくのが限界だろうと結論づけた。

 邦実は暴れ回っていた男の子のうち一人が投げ飛ばされて障子に穴を開けている光景を流し見しながら、坊主へ声をかける。


「とても人手が足りないわ。こころはいつ帰ってくるのよ」

「夕方には戻ってくるとおっしゃっていました」

「遅すぎる。緊急事態だから、ちょっと連れ戻してきなさい」

「畏まりました」


 命令を受けて立ち上がる坊主。


「待った」


 しかし邦実は命じてから、坊主を行かせては大変なことになると気がついた。

 坊主が居なくなると言うことは、自分一人でこの子供達をとりまとめなくてははならないと言うことである。それは邦実にとっては何に変えても引き受けたくなかった。


「こころがどこ行ったのか教えなさい。あたしが連れ戻しに行くわ」

「はい。中層の瑞岩知佳子様の元へ行ったはずです。中層入り口近くの喫茶店で待ち合わせをするとも申していました」

「中層の瑞岩知佳子ね。すぐ連れ戻してくるから、それまでこいつらの面倒見てなさい」

「はい。畏まりました」


 坊主が返事をしたのを受けて、邦実は立ち上がり、小方丈へ戻って帽子とハンドバックを持つとそのまま出口へ向かう。


「これでクソガキ共の子守から解放されるわ。全く……」


 大方丈の玄関口で、靴を取り出そうと下を見た邦実は、そこに広がる光景に絶句した。

 あまりにも乱雑に脱ぎ捨てられた靴。きちんと揃えてあるのは三足きりで、それ以外は脱ぎ散らかされていた。

 眉間にしわを寄せ、邦実は大股で大方丈へ向かう。

 たどり着くやいなや障子戸をばしんと強く開いて音を立てると、注目した子供達に向けて叫ぶ。


「クソガキ共! 脱いだ靴くらい揃えなさいバカたれ!」


 叫ばれて慌てて玄関口へ向かう子供が三人。それ以外のその場に留まった子供達を睨み付け、さっさと行けと促す邦実。


「あんたも連帯責任よ。さっさと行く」

「はい。申し訳ありませんでした」


 黒髪の女の子は頭を下げて、大人しい男の子と二人、足の不自由な女の子を連れて玄関口へと向かった。


「あんたらもよ。さっさとしなさいバカたれ」


 残っていた男女を睨み付け邦実は凄んだが、子供は平気な顔で答える。


「嫌だよバーカ。お前がやっとけよハゲ」


 憎たらしい男の子がそう答えると、一緒に居たサイドテールの女の子がくすくすと笑う。

 邦実は男の子の元へ歩み寄ると、その顔面を掴み、畳の上に押し倒した。

 突然の攻撃に男の子は暴れたが、邦実は顔面を掴んだ手のひらに力を込めて大人しくされると、顔を寄せて恐怖する男の子に話しかけた。


「今あんたなんつった? お前がやっとけつったか? 誰の靴だよ。あんたの靴だろうが。違うのかおい」


 男の子は泣き出したが、邦実は手の力を弱めず、更に詰め寄る。


「暴れ回ろうがハゲと言おうがあたしは怒らないわよ。でも脱いだ靴を揃えない奴は許せないわ。本当ならあんたなんて井戸の底にたたき落としてるところだけど、子供だから特別に猶予をやってんのよ。そこのところ分かって口をきいているんでしょうね。で、どうすんの。行くの? 行かないの?」


 泣きじゃくる男の子はがたがたと震えながら首を必死に振った。

 邦実はようやく男の子を解放し、さっさと行けと首を振って示した。それから、その場に残っていたサイドテールの女の子を睨む。


「あんたも教育が必要?」

「い、行くわよ。行けばいいんでしょ」

「分かってるなら返事をしなさいバカたれ。これだからクソガキは嫌いよ」


 邦実は逃げるように走って行く女の子を見送って、小さな女の子の手をとって玄関口へと向かっていた坊主へ視線を向ける。


「あんたも覚えときなさい。あとこころにも伝えておくように」

「はい。畏まりました」


 坊主の返事を確認して、邦実は再度玄関口へ向かう。

 そこで靴を直していた子供達に向かって声を張る。


「これから出かけてくるけど、暴れ回って怪我とかするんじゃないわよ」


 数人だけが返事をしたが、残りは小さく頷いたり、全く反応しなかったりであった。邦実はどんと足で強く床を踏みしめてから、再度声を張り上げて子供達を威圧する。


「出かけてくるけど、暴れ回って怪我しないように。分かったら返事!」


 子供達全員が返事をするのを確認して、邦実は一つ満足げにため息ついた。


「最初からちゃんと返事なさい、バカたれ」


 それだけ言い残すと、子供達の間を割って進み、自分の靴を出して玄関に降り立った。


「お姉ちゃん行っちゃうの?」


 そんな邦実の背中に、おかっぱの女の子が声をかける。

 邦実は振り向いて、おっくうそうに振る舞いながらも答える。


「直ぐ帰ってくるからそれまでそこの坊主に遊んで貰いなさい」


 おかっぱの女の子は坊主の作務衣の裾を掴むと、笑顔を浮かべて答える。


「うん。気をつけてね、お姉ちゃん」

「はいはい。大人しくしてるのよ」


 邦実は答えて、帽子を被ると足早に建物から出た。

 本堂の賽銭箱の前を通り抜け、山門をくぐる。

 坊主とこころが弟子入りして以来、買い出しを全て任せていた邦実にとっては久しぶりの外出だった。


 季節は夏。

 照りつける太陽を睨み、ため息をつく。

 もしかしたら残ってクソガキ達の面倒を見ていた方が楽だったかも知れない。

 しかし坊主に面倒を見るよう言いつけたのに引き返すわけにもいかず、帽子を深く被り直すと気合いをいれて歩き始めた。

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