二月目 其の二 今と自分と⑤
山役所の近く。人成山に訪れた人々のために作られた簡易住宅の一角の一人暮らし用の小さな家屋の中で、瑞岩知佳子は自分と向き直っていた。
「私の事、嫌いなんでしょう」
片方の知佳子がもう片方の知佳子に問いかける。
「そんなわけないでしょう。私は私を嫌いになったりしません」
問われた知佳子は落ち着いてそう答えたが、尋ねた知佳子は納得がいかない様子であった。
「でも自分勝手な奴だって思ってる」
「分かっているのなら控えてくださいよ」
否定してもらえると思っていた知佳子はむすっとした顔で目の前の自分の顔を睨み付ける。
「喧嘩売ってるの?」
「そんなことないです」
「どうだか」
睨まれた知佳子は目の前の自分に優しい目線を向け、穏やかな口調で語りかけた。
「だって私は私ですもの。しっかりと話せば分かってくれるということを私は知っていますよ」
「それは――私を見る目がないわ」
語りかけられた知佳子は睨んでいた視線をそらし、顔をほんのりと染めて返した。
「そんなことはないですよ。だから、勝手に何処かへ行ってしまうのをやめてください。私と私が別々の所に居たら変です」
「私が二人居ることが変なのよ」
知佳子は突き返すが、それでも知佳子は諦めず優しい言葉をかけ続けた。
「二人ではありません。私はいつだって私たった一人です。私と私は同じ私です。私だって、本当はそのことに気づいているのでしょう?」
その言葉に知佳子は低い小さなうなり声を上げてしばらくむくれていたが、目の前の自分が何も言わずに暖かな目線でじっと自分を見つめていることに気づくと、嫌々ながらも口を開いた。
「……分かってはいるけど、私は私の小言には正直付き合ってられないわ」
ぷいっとまた視線を逸らすが、知佳子はそんな自分の姿から目を逸らすことなく言葉を続けた。
「私は私のどんな我が儘だってきいてあげますよ。私の行きたい場所ならどんな所にだってついて行きます。だから、私の小言くらい、きいてくれてもいいではないですか」
「…………んー」
知佳子は唸ったが、相変わらず自分にじっと見つめられていたので何も返さないわけにもいかなくなった。
「……でもあんまりうるさいのは嫌だからね」
「分かってますよ。私のことですから」
「あとあんまりめんどくさいこともやりたくない」
「少しずつ出来るようになっていけばそれで良いですよ」
「――やっぱり私ってめんどくさい」
「それは私の台詞でしょう」
知佳子にそう言われふてくされる知佳子であったが、もう目を逸らしたりしなかった。
「めんどくさい私で悪かったわね」
「めんどくさいのが私ですから、悪いとは思っていませんよ」
「何よそれ」
問いに知佳子は微笑みで答えた。
「こんな風に私同士で話せるのも、あの人のおかげですね」
「あいつは別に何もしてないでしょ」
「そうですか? 私はあの人のこと、どう思っているのですか?」
自分の事なのだからきく必要などないにもかかわらず、自分に対してそう問いかけた。
対する自分もそんな問いにあっけらかんとして、素直に答えた。
「――どうせならお団子も奢って貰えば良かった」
知佳子のその答えに知佳子は苦笑して、一つ頷くと口を開いた。
「そうですね。私もそう思います」
私もこんなことを言うこともあるのかと、知佳子は頬を緩めた。




