二月目 其の二 今と自分と④
「おかえり。何か発見はあったかい?」
借家の前で打ち水をしていた慧乃がこちらに気づいて声をかけてくる。
遠回りなルートをハナと二人でゆっくり歩いたからか、慧乃の方が先に下山していたようだ。
「いろいろあったが、お前には教えてやらん」
「あらら、それは残念だね」
言いながら慧乃は何処か嬉しそうで、柄杓を空になったバケツの中に入れると木造の掃除用具入れへ丁寧にしまい込んだ。
「山頂で可愛い女の子に会っただろう」
その一言で息が詰まった。人成山の噂話の広まりやすさを侮っていた。
いや、慧乃だってあのとき山頂に居たのだから、こうなってもおかしくなかったのだ。
「会ってないよ」
しかしハナとの約束もあることだし、口を割るわけにはいかなかった。ぶっきらぼうにそう返すと慧乃はにんまりと笑った。
「そうかい。それじゃあわたしの気のせいだったかな。とっても似合う格好だったから、是非君の感想もきいてみたいと思ったのだけれど残念だね」
慧乃は何処までもお見通しというわけだ。ここまで分かっているのならば仕方があるまい。感想くらいなら言ったって構いやしないだろう。要するに山頂でハナに会ったと言わなければ良いのだから。
「キャスケットは白の方が良かった」
「私の唯一妥協した点をついてくるとは……」
「どうせ新品買うなら妥協しなけりゃ良かったのに」
「そうなんだけど、在庫がねえ……。縁がなかったよ。でもあれはあれで可愛らしいと思うんだ」
こいつのことだからハナが何を被ったって可愛いと思うんだろうなと悔しがる慧乃の姿を眺めながら思ったが、よくよく考えてみれば今日の本題はそこではなかったはずだ。
「それよりもききたいことがあるんじゃないか?」
「ああ。その様子だと無事に出会えたようだね。でも、君の出した答えは君の中で持っていると良いよ。答え合わせは、また今度にしよう」
また今度。そう言われるとなんだか無性に今答えを確認したくなる。
しかし、慧乃がこう言うのだから何か理由があるのだろう。
そういうことにして、別れを告げて自室へと戻った慧乃に習い、帰宅した。




