009 覇気を灯せ、シズク
シズクの差し出した手を握り、金髪少年は起き上がる。
「ちょっと待てや、ゴラ……!!」
が、不良少年たちはなおも諦めていないらしい。溜め息をつきながら、シズクはジト目で彼らを見つめる。
「9歳のガキに負けたとなりゃ、おれらのメンツは丸つぶれなんだよ!! ぶち殺してやる!!」
「無理でしょ。足、凍ってるんですよ?」
「譲れねェもんはあるんだよ!」
これでは金髪少年を医務室へ連れていけない。困ったものだ。
そうして困っていると、
「おい、オメェら明らかに負けたんだから往生しろよ」
黒髪の少年が、不良生徒にそう語りかける。そうすれば途端に、彼らは黙り込み始めた。
「大物登場ってわけか……」
傍観者と化していたフロティーが、そう呟く。
「スペンサー・ファミリーのナンバー3、ルーサー・アトリーがそう言うのなら、アンタらも引き下がざるを得ないわな」
不良たちからすれば忸怩たる思いだろうが、ルーサーという人物が負けたと宣言したのなら、引き下がるしかないのだろう。彼らは渋々といった感じで、金髪少年とシズクから離れていく。
そんな中、黒いサングラスをかけたルーサーがシズクに話しかけてきた。
「元気いっぱいだな。ランクAさんよォ」ルーサーは、しっかりシズクと目線を合わせる。「コイツらもランクBからCくらいの実力はあるんだが、やっぱりAには敵わんな。あーあ。ウィンストンさんになんて報告すりゃ良いんだか」
「さぁ。僕はただ、目の前のイジメが気に食わなかっただけなんで」
「そうかい。ところでひとつ質問がある。オメェ、おれらのポーションを奪ったろ?」
「どうでしょうね」
「嘘は通じんぞ。なんせ、20億メニーのポーションだからな。ッたく、孫の代まで遊んで暮らせる代物を奪いやがって」
ルーサーは不機嫌そうに、眉を動かす。
「ここでオメェを解体しても良いんだが、ポーションってのはバラバラになっても戻ってこねェ。あーあ、どうしたもんか」ルーサーはジッとシズクを見つめる。「ムカつく目ェしてるねェ。やっぱオメェ、ここでボコしておくか」
MIH学園の大広場──公園のような場所で、ルーサーはそう言い放った。
それに反論するのは、シズクの保護者的存在のフロティーだ。
「おいおい、9歳のガキをいたぶるのかよ。趣味悪りぃな」
「スペンサー・ファミリーの趣味は悪いさ。あと、先に言っておくがランクBのオメェじゃおれには敵わねェよ。おれはランクAだからな」
「やってみなければ分からないだろ」
「ハハッ、さすがジョン・プレイヤーの娘。大した度胸だ」
フロティーは、自身の背後に弓矢を発生させる。5本の矢は、一直線にルーサーの元に向かっていった。凄まじい速度とともに。
が、ルーサーは全く動じない。彼は突っ立ったまま、5本の矢を最小限の動きで避ける。
「ま、実力はジョン・プレイヤーに遠く及ばんな。あのヒトなら、1000本くらい矢を出せるし」
ルーサーはそう煽る。その態度に怒りを覚えたフロティーは、弓矢を使うことなくルーサーとの間合いを狭め、右拳で彼を殴ろうとした。
それでも、ルーサーは大して動くことなくその拳を躱す。
「〝悪魔の片鱗〟か。けど無駄だよ、無駄。女の拳なんて喰らうわけなかろうよ」
フロティーとルーサーの身長差は10センチほど。体型も、ルーサーはがっちりしているのに対し、フロティーは細身。悪魔の片鱗とやらがなにか分からないものの、まず近接戦闘で勝てる相手ではない。
そして、ルーサーはフロティーにデコピンを喰らわせる。それだけで、フロティーはその場に倒れ込む。
「ッたく、粋がるなら相応の実力がないとな」
鉄火場が続く中、シズクは磔にされていた金髪少年が命に別状なしだと判断する
ならば、やることは分かっている。
シズクは、両腕に氷をまとわせた。パキパキ……と凍る腕には、不思議と寒さは感じない。
「やる気か?」ルーサーはシズクを嘲笑う。
「フロティーさんは友だち。僕は、友だちを傷つけるヒトを許すわけにはいかない」
シズクは、普段のやる気のなさが嘘のように、覇気の灯った目でルーサーを睨む。




