004 強くなければ……
ジョンは、草の匂いがするタバコのようなものをくわえながら、シズクも知り得ない情報を漏らす。
「天使」
「そう、天使。輪廻転生を司るヤツらさ」
「そうだとして、なぜ僕を幼女にする必要があるんですかね」
「知らん。アイツらは天邪鬼だしな」
天邪鬼で幼女にされてしまえば、シズクもあんぐり口をあけるしかない。
「元に戻る方法、あるんですか?」
「そりゃ無理だ。人間が人間である以上、天使様の決定には逆らえない」
「そうですか……」
シズクはうなだれる。確かに身体は羽でも生えているように軽いが、どうしても男子だった頃の要領が通じないのは困るのだ。
「まーまー。シズクは可愛いから、色々特だろ」
フロティーはいたずらっぽく言う。彼女は続けた。
「メイド・イン・ヘブン学園──MIH学園で首席候補になれるのなら、性別が入れ替わったことくらい甘んじて受け入れるべきだろ。MIH学園は高等部だけで10000人。その中の頂点に立てば、国から小遣いももらえる。アンゲルスの人口の6割は、なんらかの魔術を使えて、ソイツらには多額の〝栄養費〟が支払われるからな」
シズクは、鼻を鳴らす。
「カネこそ正義ってわけですか。資本主義国家らしいですね」
「それでも、カネがなければなーンもできない。ここは、いや資本主義国家はそうやって回ってるからな」
ジョンはどこか退屈げに答える。
「ま、あれだな。MIH学園の後期入学試験はすでに始まってる。受けてみたらどうだ? 刺激があれば、少しばかりメンタルも安定するかもだし」
シズクはジョンからもらったカードを見せる。「こえでMIH学園へ入れと?」
「学力は未知数だけど、魔力の濃さは間違いなく学生のレベルじゃない。きっと、高等部からスターズするよ」
「僕、14歳なんですけど」
「細けェことは気にするな。オマエさんには、ジョン・プレイヤーがついてるんだから」
「はぁ、そうですか」
「よし、MIHの編学試験に行こうか。フロティーも来るかね」
「夏休みなのに、学校へ行きたいヒトなんているの?」
「いねェな。しゃーない。フロティーはお留守番だ」
*
メイド・イン・ヘブン学園本校舎。15個に及ぶ校舎と、ひとつの街並みの広さが特徴的だ。学校の作りはイギリスの学校みたいになっていて、すれ違う人々は学生服と私服に二分されている。
「さて、実年齢14歳で学科試験に受かるわけもなかろう。ここは、魔術で一点突破だな──」
「あれ、ジョンさんじゃね?」
「ホントだ。この国最強の魔術師で、数多の戦場を駆け巡った〝英雄〟だね」
「サインもらおうかな。縁起が良いし」
ジョンはそう言い放つも、彼の存在を知った生徒たちがサインを求める始末。よほど有名人らしい。
「シズク、ここから左に曲がると、無駄に豪華な職員室にたどり着く。おれが渡したカードで、魔術試験を受けな」
サインに追われるジョンは、シズクにそれだけ伝えておく。
「分かりました」
というわけで、シズクはまっすぐ進んで左角を曲がる。そこには大量のビル群が並んでいるものの、教員が出入りしていることから察するに、一番高いビルが職員室らしい。
入口についたシズクは、ジョンからもらったカードキーを入口の差込口に差す。
すると、
「やぁ、良く来たね」
青い髪でショートヘアの、やや顔の彫りの浅い女が出てきた。彼女はシズクの顔を見ると、そのまま教員用のビルにシズクを連れて行く。
「君、凄まじい魔力を持ってるね。まるで魔王みたいだ」
「褒めてるのか貶してるのか知りませんけど、まぁそれでも良いです」
「潔し、素直な子だね」
「そうしないと、自分を保てないんですよ」
そんな軽口を叩きながら、シズクと青髪ショートヘアはエレベーターで地下まで降りていく。
「まず、魔力量を測定しようか。この学園は〝強さこそ美徳〟だからねー」
「強さは美徳ですか」
「そうそう。〝強くなければ生きていけない。優しくなければ生きていく資格はない〟のさ」




