003 エコロジーなヤツ
赤髪の少女は、目を丸くした。
「父ちゃん、なに言ってるン?」
「なンか変なこと言ったか、おれ」
「いやいや。いきなり良く知らない幼女と同居しろ、って言われて納得できるわけなくね?」
「そのうち慣れる。さて、飯にすンべ」
ぶっきらぼうなジョンの態度に、赤髪少女は呆れるほかない。
「シズク。ピザとハンバーガー、どっちが良い?」
「申しわけないですけど、お腹減ってないです」
「なら仕方ない。けど、人間食って寝てれば死なないもんだぞ。一切れで良いから、ピザ食べな」
「……分かりました」
ジョンはスマホでデリバリーを注文し始める。彼が携帯電話とにらめっこしているため、自ずとフロティーはシズクに話しかけ始めた。
「なぁ、シズク。さっきから目の焦点があってないけど、大丈夫なの?」
「いつも通りです」
「それは大丈夫とは言わないんだよな」フロティーはソファーから立ち上がる。「しっかし、可愛い顔してるな。あたしがアンタと同い年くらいだったら、猛アタックしたくなるくらいに」
「どうも」
「うーむ。反応が鈍いな。ただ、魔力は凄まじい。父ちゃんほどじゃないけど、大人の魔術師にも負けないくらいに」
「魔力、ですか」
「さながら魔神だよ、魔力の濃さは。〝新魔術〟はなにが使えるの?」
「新魔術?」
「知らないほうがおかしいだろ。戦闘で主幹になる術式だよ。あたしは、父ちゃん譲りの〝弓矢術式〟を使えるし、父ちゃんのそれはあたしとは比べ物にならない」
「そうですか」
「エコロジーなヤツだな……。まぁ良いや。新魔術が使えないからって、死ぬわけじゃあるまいし」
死とともに〝アンゲルス連邦共和国〟にやってきてしまったシズクに、この世界の常識を講じるほうがおかしい。
分かることといえば、ジョン・プレイヤーが国家最強の魔術師だということくらいなのだから。
「それにしても、変な家だろ。現代アートだらけの壁に、古臭いレコード。どこで買ったのか分からない面白椅子。まさしく近未来の家だよな」
壁に貼られた絵画は、絵の具で落書きしたとしか思えない絵が数枚。レコードも壁に設置してあり、バルコニーにはハンモック。椅子も変わっており、星のような椅子とソファーが置かれている。
「ジョンさんの趣味なんですか?」
「父ちゃんの趣味は意味不明だからな。コイツら全部、一般人からしたら目ン玉飛び出るような値段なんだぜ?」
フロティーはそう笑う。
「おー、ガキども。ピザ頼み終わったぞ」
ジョンは発注を終え、星型の椅子にもたれる。
「つか、シズクも立ってねェで座れよ。待ってても招待状は届かんぞ」
「あ、はい」
ソファーにはフロティー、星型の椅子にはジョン。空いている椅子は、この家の模様にふさわしくない普通の椅子。シズクはそこにもたれた。
「さて、シズク。ここは盗聴器が仕掛けられてない。だから、正体を聞かせてくれ」
ジョンの言葉にぎょっとするも、シズクは暴露することにした。
「どこから話せば良いのか分かんないですけど、僕は2022年の日本って国で自殺しました」
「日本か。自殺大国だもんな」
「そうしたら、なぜか8歳か9歳の幼女に生まれ変わってた。誰が望んだわけでもないのに」
「そうかい?」ジョンは手を広げる。「推測するに、オマエさんは転生者だろ? おそらくまだ寿命が残ってるのに、それを自ら絶ったように思える。たとえば80歳まで生きられる資格があるのにも関わらず、それを意志で絶っちまった。今、オマエさんに与えられたのはいわば執行猶予。オマエさんの残りの寿命なんて知らんが、まぁだいたい70年近くはあるだろう。そして、天使様の配慮でオマエさんは幼女になっちまった。推測だが、当たってると思うぜ」




