012 アンゲルスの歴史
「いや、どこの教室行けば良いのか分かんないんです」
「タブレット見れば良いじゃん」
「貰ってないんですよね」
「MIH学園はそういうところが雑だからねー。まぁ、先生から指示がないってことはサボっても良いんじゃないの?」
「サボるのは良くないでしょ」
「真面目だねぇー。さすがランクA」ぐるぐるメガネの少女は続ける。「あのルーサーを、病院送りにしたとは思えないよ。もう学園中にあの情報は広がってるよ?」
「嫌だなぁ。野蛮人だと思われそうで」
「大丈夫。ルーサーやウィンストンのほうが、よっぽど野蛮だから」
生徒たちが続々と移動していく中、シズクとぐるぐるメガネの少女は取り残される。
「そうだ。私といっしょに授業受けようよ」
「なんの授業ですか?」
「アンゲルスの歴史だよ。興味あるかは知らないけど、やってる感は出るでしょ?」
「まぁ」
「なら、行こう。すぐそばに教室あるからさ」
名前も知らない少女に連れられ、シズクは校舎を歩いていく。
「ところで、お名前は?」
「モア・ルキウスだよ。貴方はシズクだよね?」
「そうです」
「ジョン・プレイヤーさんの義理の娘で、実力は折り紙付き。実子のフロティー・プレイヤーより高いんだよね」
「そうみたいですね」
「淡白な態度だなぁ……。興味あることとかないの?」
「ないですね」
「それなら、心療内科に行くべきだと思うよ。スポーツやオタク文化、魔術研究すらも関心がないっていうのなら」
「元々の性格なので、今更変えようがないです」
「9歳のくせに、元の性格もなにもないでしょうに」
「そうかもしれませんね」
「……掴みどころがないなぁ。まぁ良いや。教室ついたよ」
「はい」
前世でカウンセリングやセラピーを受けていたシズクだが、まるで効果がなかった。人間として大事なものが欠落している存在。それがシズクという人間である。
教室に入ると、まず視線を感じた。こちらを睨んでくる者、どこか怯えの混じった目で見てくる者……そもそも9歳の幼女が高校の授業を受けていることへの違和感ではないらしい。
とはいえ、気にしなければ良いだけの話だ。シズクは後ろ側の席に座り、隣にモアも座る。
*
アンゲルス連邦共和国。それは、欧州大陸の忌み子。アイスランドとほぼ同じ大きさの本土は、17世紀末期までイギリスの植民地として扱われていた。
しかし、18世紀初期に独立派が蜂起し、軍を作ってイギリスからの独立を果たす。
独立を果たせた大きな要因は、アーサー・グリズリーというカリスマ的な王の存在と、当時はまだ戦争で、有効的と思われていなかった飛行魔術師を有効活用したことにあるという。
その後、アーサーは王権を放棄。アンゲルス共和国が成立し、未開拓の土地──グリーンランドほどの大きさの〝ピースランド〟を獲得することで、連邦共和国となったわけだ。
そして、第一次世界大戦と二次大戦では中立を維持。主に連合国に武器を売ることで、莫大な利益を得た。
では、なぜ忌み子と忌み嫌われるのか。それは、この国特有の宗教にある。普通、欧州諸国はキリスト教を信仰するものだが、アンゲルスは〝アンゲル教〟という一風変わった教えを国教としている。アンゲル教は非常に世俗的だが、同時に信仰心の深い者には魔術が与えられるのだ。旧教だろうと新教であろうとも、魔術を発現させることはできない上に、魔術は人間を堕落させると考えられているので、余計に忌み子として扱われてしまうのである。
シズクはポーションで魔術を発現させたが、本来ならアンゲル教の聖堂で魔力と魔術が開発されるらしい。
……という〝簡単〟な歴史の授業を受け、シズクの脳はパンク寸前だった。そもそもシズクは勉強があまり得意でないからだ。




