013 大物登場
「大丈夫? 後半、ほぼフリーズしてたけど」
モアが心配そうに声をかけてくる。シズクは一言も発することなく、そして力なく教室から去っていった。
「ちょ、どこ行くのさ」
「中学部からやり直せるように、直談判してきます」
「ランクAなのに、中学部に入り直せるわけないでしょ」
「だからといって、9歳児に高校の授業は難しいです」
「そりゃ正論だけど、世の中どうにもならないことだってあるんだよ?」
平行線をたどっていると、
「よう、調子は?」
フロティーが現れた。相変わらず赤毛で、相変わらず側部を刈り上げている。
「良いと思いますか?」
「思わないな。顔見りゃ分かる」
「だったら、体調不良ってことにして僕は帰ります」
ふたりの少女は、呆れたような表情になる。
フロティーは言う。「どんだけ授業受けたくないんだよ……」
モアも続いた。「勉強できなきゃ、将来良い仕事就けないよ?」
「9歳児に仕事もなにもないでしょ。そういうのを考えるのは、もう10年先の話ですよ」
そういう不毛な会話をしていれば、
フロティーとモアの表情が、一瞬で殺気を帯びた。どうやら、目の前にいる生徒に殺意を覚えているらしい。
「おいおい、そんな面ァするなよ。フロティー・プレイヤーにモア・ルキウス、そしてシズク・プレイヤー……!!」
黒と紫のツートンカラーの髪は、ホストのように長い。身長は高く、目は青く濁っている。
フロティーは露骨に彼を睨む。「テメェは、ウィンストン……!!」
「あぁ。うちのルーサーが病院送りになっちまったから、その犯人の面ァ見に来た」ウィンストン・スペンサーはシズクの肩に触れる。「そこらにいそうな幼女だな。相当魔術が強ェようだ」
モアがシズクへの手を振り払う。「汚い手でシズクに触れないでくれる?」
「汚いとは失敬な。おれは、後輩とコミュニケーションを取ろうとしただけだぜ?」
今ひとつなにを考えているのか分からない表情で、ウィンストンは手を広げて首をかしげる。
「ま、今すぐなにかをしようってわけじゃあない。ルーサーの報復はしてェけど、こんな公然で喧嘩おっぱじめたら、おれが悪者になっちまうからな」
フロティーが悪態をつく。「もう悪者だろ。MIHに魔力増進剤──SHAを流通させてるくせに。あのSHAってヤツは、一時的に魔力を増進させるけど、効果が切れれば3日間は動けなくなる代物。麻薬と変わりねぇだろうよ」
「ヘロインや覚せい剤を広げないだけ、ありがたいと思ってほしいね。MIHにいるようなヤツらは皆、過酷な受験を勝ち抜いた連中だらけ。それに、地元じゃナンバー1のプロスペクトも、ここではただの一般生徒だ。SHAを欲しがるのも無理ないさ」
MIH学園の裏を取り仕切る大物・ウィンストンは、目を閉じて笑みを浮かべる。
「あぁ、そうだ。シズク・プレイヤー。良いこと教えてやるよ」
「……なんですか?」
「9歳幼女のオマエがランクAになったのが気に入らねェヤツが、学校の外で待ち構えてる。おれの制止も聞かずにな。まぁ、ワンパンで終わらせてこい」
「ひとつ、聞かせてください」
「なんだね」
「貴方は、僕の味方ですか? それとも敵? そんな情報を教えてくれるヒトが、完全な敵とも思えない」
ウィンストンは鼻で笑う。「どうだかな。考えたこともなかったよ」
シズクはフロティーやモアを気にすることなく、MIHの外へ向かう。
「おォ!! テメェが9歳のくせにランクAになったクソガキ──!?」
シズクはエコロジーなヤツだが、面倒事は大嫌いだ。
だからその幼女は、下剋上を狙う少年を触れることなく氷漬けにするのだった。




