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俺の妄想が、なぜか異世界で本物になっていた  作者: 砂利天
第3章 王都地下に眠る循環陣
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第89話:星々の休息と深まる影

激闘から一夜が明け、柔らかい朝陽が拠点のテラスを包み込んでいた。


日当たりのいいベンチでは、レオンが大剣の白刃を丁寧に布で拭っている。そのすぐ横、日陰に身を寄せたシィが、短剣を手入れしながら無言で乾燥肉をかじっていた。


「お前、朝からまたそれ食ってんのかよ」

「……噛む。頭、冴える」

「よく顎が疲れねぇな。あーあ、腕の肉がパンパンだぜ」


レオンが大剣を肩に担ぎ直し、口元を緩める。昨日まで張り詰めていた空気は、すっかり和らいでいた。


室内では、昨夜ガルドとミリスを交えて確認した金具の寸法記録と破片が、まだ机の上に並べられていた。ガルドが倍率のついた拡大鏡を覗き込み、バルドがその横にどっかと腰を下ろしている。


「昨夜も話したが……地下で無事に脱出できたのは、お前が土壇場で崩れる場所を見抜いて警告してくれたおかげだな」

「へっ。危ねぇ場所に近づくなと言っただけだ。実際に逃げ切れたのは、全員が指示通り素早く動いたからだろ」


ガルドはぶっきらぼうに答えると、拡大鏡から目を離し、金具を指先でつまみ上げた。


「それに……昨夜確かめた通り、あの金具は王都の規格品じゃねぇ。外枠の爪の噛み合わせや形状を見る限り、大空洞の古代装置の溝に、コンマ単位でぴったり合うように作られている。取り付け方や固定位置まで計算されていたとなれば、偶然に寸法が合ったとは考えにくいな」


ガルドは金具を机に戻し、腕を組んだ。


「敵は、あの古い地下遺構の構造を事前に調べていた。少なくとも、この金具を作るのに必要な寸法や構造は把握していたってことだ」


隣でメモを整理していたミリスも、小さく頷く。


「はい。魔術干渉を弾く防魔処理といい、あの装置のために完璧に準備された部品だったのは間違いありません」


その奥のテーブルでは、湯気の立つお茶を挟んでリィネが書類をめくり、リゼリアが回収物の整理を手伝っていた。


「これで今回の調査費用と消耗品の補充代は整理できました! 次の調査に必要な物資も、すぐに手配できますよ」

「ふふ、頼もしいですね、リィネさん。これで心置きなく次の解析に取りかかれます」


それぞれの場所で、それぞれの時間が穏やかに流れていた。


昼過ぎ、俺は作業場の大きな机に王都の羊皮紙地図を広げた。


「……みんな、少し集まってくれ」


声に応えて、七人が自然とテーブルの周囲に寄ってくる。俺は地図の三地点と中央部分を指で示しながら言葉を紡いだ。


「王都の地下装置は止めた。直近の破局は免れたが……あの幹部の言葉や、不自然な物流の痕跡から見ても、これで終わりじゃない。まだ調べていくべきことが山積みだ」


俺が指示を口にするより早く、リィネが自前の書類を引き寄せた。


「アルヴァレス商会で保管している過去の取引資料から、類似した特注金具の仕入れ経路を洗ってみます。正規の物流に不審品が紛れ込んだルートを調べれば、足取りが掴めるかもしれません」


その言葉に、ミリスがノートを広げて小さく頷く。


「はい。私はリゼリア様と一緒に、昨日記録した魔力反応を分析します。王都の地脈に似た歪みがないか、観測範囲を広げてみましょう」

「ええ、魔術的な痕跡の追跡なら任せてください」

「俺は公的な古い都市計画図を引っ張り出しつつ、昔の同僚を当たって過去の警備記録で照会できる範囲を調べてみるよ。今回みたいな古い抜け道が、まだ他にあるやも知れねぇからな」


ガルドが腕を組むと、バルドが太い腕を叩いた。


「外回りの警戒と現場の安全確保は、俺とレオンで引き受ける。怪しい動きがあればすぐに押さえるさ」

「……裏の動き。怪しい人物の気配や人流の偏りなら、私が追う」


シィが短剣をベルトに収めながら静かに呟く。


命令を出す前から、七人はそれぞれの役割を見定め、次の行動に移ろうとしていた。

俺が一人ですべてを考え、全員を動かす必要はない。


七人がいて、俺がいる。

それが、クロノ・ヴェールだ。


「……ああ。よろしく頼む」


王都の喧騒から遥か離れた、陽の光も届かない一室。


静寂が満ちる暗がりの中、崩落から生還した実働幹部が、部屋の奥に座す黒い影へ向かって低く頭を下げていた。


「……『クロノ・ヴェール』が、我々の計画に介入いたしました。三地点の装置は停止。現場で対峙した者は総勢八人……互いの動きを補い合い、連携して計画を阻止して見せました」


報告を受けた影は、おそろしく静かだった。怒りも、焦りも見せない。机の上に広げられた古い羊皮紙へ静かに視線を落とすと、低い声で言葉を返す。


「八人、か……」


しばしの沈黙ののち、影は指先で羊皮紙の端をゆっくりとなぞった。


「組織の全容は、まだ見えていないな。あの八人が全員なのか、それとも一部に過ぎないのか……」

「引き続き、調査いたします」

「そうしろ。連中の素性と、組織の実態を探れ」

「承知しました」

「種はすでに蒔かれている。……計画を、次の段階へ進めよ」


幹部が静かに身を引く。


青空の下、それぞれの役割を胸に、次へと歩み出す八人。

そして、その裏側で人知れず蠢き始める新たなる暗雲。


第3章完結です。

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