↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の妄想が、なぜか異世界で本物になっていた  作者: 砂利天
第3章 王都地下に眠る循環陣
PR
87/124

第86話:循環の結び目

(『構造が分かったなら、三つ同時にぶっ壊せば終わりだろ!』)


南西旧水路で大剣を握り直したレオンの思考が、念話器を通して荒々しく飛び込んできた。

だが、間髪入れずに北東旧大聖堂のミリスから切迫した言葉が返ってくる。


(『ダメです、レオンさん! 循環している魔力の圧力が上がり続けています! 今、力任せにノードを破壊すれば、行き場を失った魔力が各地点で一気に逆流爆発を起こします!』)

(『危険ですね……。三箇所の魔力をほぼ同時に止める必要があります。大聖堂側で先に迂回回路を開いて魔力を一時的に逃がし、全体に一瞬だけ圧力の隙を作ります。その隙に、三地点一斉にメインノードを解除できれば……!』)


リゼリアの静かな分析が続く。廃貴族邸地下の俺は、手元の念話器を指先で強く押さえた。


(……ミリス、リゼリア。同時に止めるための条件はあるか?)

(『あります。大聖堂の基部にある金属端子……まだ使われていない古い迂回回路に繋がっています。あそこへ魔力を一時的に誘導できれば、他の二箇所の魔力線に一瞬だけ隙が生まれます』)

(『クロノ様、仕入れ記録と照合しました。北東の旧大聖堂には、他の二地点よりも多くの補修用部材が運び込まれています。ここ数週間に集中しています』)


リィネから届いた仕入れ記録に、ミリスが即座に反応する。


(『……なら、その部材は古い迂回回路の補強に使われた可能性があります!』)


仕入れ記録と現場の構造が繋がる。

念話器を通して、旧大聖堂のガルドの言葉が頭の中に届いた。


(『おいミリス、そのあたりの壁や柱の石組みは乱暴に崩すなよ。土台の重みを受けてる場所が多い。金具を外すなら、石組みから離れた独立した固定金具だけにしとけ』)

(『はいっ、ガルドさん! この端の金具ですね……これなら安全に外せます!』)


大聖堂側で迂回回路への魔力誘導準備が進む。

だが、旧水路のバルドから冷静な問いが飛んだ。


(『……待て。大聖堂で魔力を逃がしたとしても、俺たちの水路側で物理的にノードを外す時間が要る。巡回兵がへばりついてちゃ作業にならんぞ』)

(『……三十秒』)


シィの短い言葉が届く。


(『南西の歩哨、三十秒に一度、水門の影に入った瞬間に視界が途切れる。バルド、レオン、そこへ敵を誘い込めば……五秒だけ、金属板の前が空く』)

(『……だけど、問題がひとつ。水門の固定具、湿気と錆で固着してる。素手じゃ動かない』)


シィの観察力による冷静な指摘に、即座にガルドの念話が重なった。


(『固着か……おいシィ、その金具の形、外枠に引っかかりのノッチがあるはずだ。力任せに引くんじゃねぇぞ。短剣の柄頭か硬ぇもので固着部を左へ軽く叩いて弾き落とせ。一撃で外れる』)

(『……了解。左へ叩く』)


作戦のピースが完璧に噛み合っていく。


(『よし、乗った。レオン、左の通路から圧をかけろ。あいつらをあの影へ押し込むぞ』)

(『おう、任せろ!』)


暗がりの中で、レオンがあえて大剣の柄を石畳に叩きつけ、重い金属音を響かせた。

曲がり角の奥から、二人の歩哨が松明を掲げて鋭く向き直る。


「敵だ! 来やがったぞ!」

「正面を抑えろ! 奥へ通すな!」


レオンが左の通路から一歩を踏み出し、大剣の威圧感を正面から突きつける。そのすぐ後ろで、バルドが退路を塞ぐように壁際へ滑り込んだ。

二人の間合いを測りながら、敵の歩哨はじりじりと後退を始める。その足取りは、バルドの誘導通り、水門の角が作る暗い影へと吸い込まれていった。


(『……今。次の一歩で影に入る』)


シィの合図が届いた。


(『了解! 迂回回路を開きます!』)


ミリスの応答と同時に、大聖堂で干渉針が突き刺される。

歩哨が水門の影へ入ると同時に――ズシ……と、王都の地下全体を締め付けていた重苦しい圧力が一瞬だけ弛緩した。


(『……開きました! 今です!』)


ミリスの合図が頭の中に響いた。


さっき確かめた金具に向かい、シィがガルドのアドバイス通り短剣の柄頭で固定具を左へ鋭く弾き落とす。カチリと小気味よい音が響き、固定具が外れた。同時に旧大聖堂で本線の接続端子が切り離され、廃貴族邸で俺が解除金具を引き抜く。


三地点の解除が、五秒の猶予の中でほぼ同時に重なった。


――ス……。


重苦しい圧力が、嘘のように消え去った。

壁の金属板から魔術の輝きが失われ、不気味な脈動が完全に途絶える。


「な、なんだ……!? 装置の光が……!?」


影から戻った歩哨たちが、壁の異変に目を見張った。その隙に、作業を終えたシィは暗がりへと滑らかに姿を消していた。


次の瞬間、地下の深部から地響きのような重低音が響き渡った。


――ゴゴゴゴゴ……。


大聖堂の地下で。旧水路の最奥で。廃貴族邸の地下室で。

壁の溝に残っていた魔術の残光が、一斉に特定の方向へ向かって勢いよく滑り始めていた。


(『……違う!』)


ミリスの悲鳴に近い言葉が届く。


(『止まったんじゃない……! 魔力が、消えていません!』)

(『流れが変わりました……! 三つの地点から、さらに深い場所へ……一方向に魔力が流れていきます!』)


――三地点を巡る循環は途絶えた。だが、魔力は消えず、地下深部へと流れ込んでいる。


リゼリアの言葉に、俺は羊皮紙の地図に目を落とした。


光の軌跡が指し示しているのは、三地点を結んだ三角形の真中央――王都の地下深域。


(……三極の循環は、魔力を溜め込むための終点じゃなかったんだ……!)


俺がそう呟いた直後、三つの拠点で大きな振動が起きた。


水路の最奥では、激しい揺れによって古い壁の一部が崩れ、漆黒の地下道が姿を現す。

(『……こちら旧大聖堂! 深部へ流れ込んだ魔力の影響でしょうか、封鎖されていた石扉が大きな振動とともに開きました! 奥へ道が続いています!』)

ミリスの緊迫した声が響き、俺とリィネがいる廃貴族邸の地下室でも、魔力の流れを刻んだ石壁の一部が大きく崩れ落ち、暗い抜け道が露わになった。


「よし、引くぞ! 奥へ!」


水路側でバルドの低い指示が飛び、レオンとシィが混乱する敵を置き去りにして露出した地下道へ滑り込む。俺もリィネの手を取り、崩れた壁の奥へと足を踏み入れた。


(みんな、それぞれの通路を進んでくれ! この魔力の流れが集まる場所……王都の真下で合流するぞ!)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。