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俺の妄想が、なぜか異世界で本物になっていた  作者: 砂利天
第3章 王都地下に眠る循環陣
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第85話:噛み合う牙

暗闇の奥から忍び寄る足音に、南西旧水路の張り詰めた空気が一瞬で跳ね上がった。


松明の光を背に現れたのは、実用的な作業着を纏った三人の警備工作員だった。手にした短剣と小盾を静かに構え、一定の間合いを保ったままこちらを牽制してくる。


「へっ、たった三人かよ!」


レオンが大剣の柄に手をかけ、踏み込もうと膝を沈めた。だが、その肩をバルドの太い腕が制した。


「待て。出るな。ここは狭すぎる。それに……」


バルドの視線が、敵の足元と水路の壁面を鋭く往復する。


「敵の狙いは俺たちを撃退することじゃねぇ。間合いを測りながら、壁の金属板から俺たちを引き離そうとしてやがる」

「……ん。逃げてない」


シィが物陰から小声で付け加えた。


「敵の目線、ずっと水門の金属板。斬られても、僕たちをあの場所から離す位置に立ち続けてる」


レオンが大剣を引き戻し、舌を巻いた。倒されるリスクを払ってでも、時間を稼ぎ、金属板への接近を阻む立ち回り。

その時、敵の一人が不気味に口端を上げた。


「……刻限だ」


直後、地下の岩盤を揺らす不気味な底鳴りが響き渡る。敵の目的は最初から、時間を稼いでこの『何か』を発生させることだった。


北東――旧大聖堂地下遺構。


激しい打撃音が地下広場にこだましていた。

襲いかかってくる数人の工作員に対し、ガルドは短剣の腹で攻撃を受け流し、時に身を翻して石柱の物陰へ敵を誘導していた。


「おい、そっちへ向かって術を撃つな! この石柱は古代の支持基盤だ、崩れたら地下全体が埋まるぞ!」


ガルドは単に敵を打ち倒すのではなく、古い地下構造の限界を見極めながら、遺構を破壊させない位置取りで敵の増援を足止めしていた。

その背後で、ミリスとリゼリアが金属の接続端子に向き合っていた。


「おかしいです……! 防衛機構は止めたはずなのに、接続端子の溝には魔力が流れ込み続けています!」


ミリスが干渉針を突き刺しながら叫ぶ。リゼリアが端子の周囲に浮遊する魔力の脈動に手をかざし、その極性を読んだ。


「……この大聖堂の地脈から発生している魔力ではありません! 外部……別の二方向から、この端子へ向けて強引に魔力が押し込まれています!」


この場所だけで現象が完結していない。大聖堂の地下は、どこか別の場所から流れ込む魔力の「受け口」に過ぎなかった。


北西――廃貴族邸地下室。


退路となる通路の奥から気配が近づく中、俺とリィネは壁面に埋め込まれた金属板の前に立っていた。


「クロノ様、見てください」


リィネが壁の導線と、持ってきた帳簿の開いたページを指差した。


「この廃邸の地下に持ち込まれた金属部材と導線の量ですが……この地下室に設置されている部材だけでは、帳簿の記録と合いません。記録上は、もっと多いはずです」

「記録上はここにあるはずなのに、現場にはない……? 残りの資材はどこに行ったんだ?」

「……どこかへ運び出されたのではありません。この壁の導線、地下室で途切れることなく、壁の奥へと伸びています」


リィネの言葉に、俺はランプの光を壁の亀裂へ向けた。

太い導線は地下室を通り抜け、暗い岩盤の奥へと続いていた。


使われた形跡のない過剰な資材。壁の奥へ伸びる導線。

そして、三地点で同時に響いた重い振動と、大聖堂に流れ込む不自然な魔力。


脳裏で、バラバラだったパズルのピースが激しい音を立てて組み合わさっていく。


(……この場所だけで使う量じゃない。ここは魔力を溜め込む終点でも、発生させる始点でもない……ただの折り返し地点だ……!)


その瞬間、頭の奥底で、忌々しい記憶の断片が弾けた。


――『三極魔力循環陣』。


かつて前世のノートに黒いインクで描き殴った、三つの節点を円状に繋ぎ、魔力を循環させて威力を増幅させる架空の陣形。


(……ッ!?)


背中に冷や汗が吹き出した。


(……いや、違う! 俺の妄想と同じ構造なんて、そんなわけがあるか! これは……リィネの帳簿と、現場に残された導線の太さから導き出した、目の前の現実の推理だ……!)


俺は必死に過去の妄想を脳裏から追い払い、手の中の念話器を強く握りしめた。


(……みんな、聞こえるか! 自分のいる場所の敵とだけ戦うな!)


念話器を開き、七人へ一気に思考を届ける。


(ミリス、旧大聖堂に流れ込む魔力の方向は!?)

(『北西と……南西です!』)

(シィ、旧水路の金属板はどうなってる!?)

(『……さっきより、熱い。魔力が通り抜けてる』)

(リィネの帳簿でも、三地点に同じ規格の部材が分散して運び込まれていた! ガルドの言った通り、構造も寸法も同じだ!)


ガルドの構造を見る目、シィの観察、バルドの戦術眼、ミリスとリゼリアの魔力解析、リィネの帳簿の記録。

七人が現場で拾い集めた専門のピースが、頭の中で一つに繋がっていく。


(……三つの拠点は、独立して動いてるんじゃない! 同じ規格の部材を使って、三つの場所の間で魔力をぐるぐると巡らせてるんだ……!)


念話器の向こうで、しばし言葉が途切れた。


その時――。


(『……そういうことだったのね』)


リゼリアの呟きが、頭の中に届いた。


(『……うん。やっと繋がった』)


ミリスの返答が続く。

俺は羊皮紙に描かれた、三地点を結ぶ王都の地図を見つめた。

バラバラだった三つの点が、一本の循環する線で繋がっていた。


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