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俺の妄想が、なぜか異世界で本物になっていた  作者: 砂利天
第3章 王都地下に眠る循環陣
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第78話:地下水路の警邏

頭上の小さな円形の穴から差し込んでいた昼の光が、遠ざかっていく。


最後に降り立ったガルドが足を着くと、古い湿った石畳の感触が革靴越しに伝わってきた。

水路なのに、水の流れる音はない。代わりに吹き上がってくるのは、生ぬるい地下の冷気と、不気味なほどの静寂だった。


――カン……。

――カン……。


暗闇の奥から、硬い金属が石を叩く音が一定の間隔で響いてくる。


シィが静かに身を伏せ、耳を澄ませる。


「……音の間隔、一定。見張りじゃない。作業の音」

「ああ。石壁に金具を打ち込んで固定している音だ。昔、警備隊の設備を扱っていた頃にも聞いた」


ガルドが短く答え、壁際に指を走らせた。


カンテラや魔導灯の明かりは一切点けない。シィの優れた暗視と、ガルドの指先が確かめる壁や床の感触だけが頼りだった。


やがて通路は、暗闇の中で三つの分岐へと差し掛かる。

ガルドが壁の角に触れ、指先の汚れを確認した。


「……右の通路は古い。埃が溜まっていて、最近人が通った痕跡がない。中央も同じだ」

「……左は足跡が新しい」


シィが低く呟き、床の土の窪みを指で辿る。


「深く沈んだ足跡が二組……重い物を運んでる。それと、少し離れた位置に浅い足跡がひとつ」

「運搬が二人……それと、少し離れて動いている奴が一人。少なくとも三人か。……待て、ここにも痕跡がある」


ガルドが壁面の凹みに手を取り、目の高さを合わせた。


「古い排水用導線の溝だ。そこに新しい銅線が無理やり敷き直されてる。金属同士が擦れた痕跡も新しい。……逃げているんじゃないな。一定の間隔で資材を運び込み、同じ場所を往復して何かを施工している」


ガルドの「構造と物理」の視点と、シィの「人間と動作」の観察が重なり合い、見えない敵の行動が暗闇の中に立体的に浮かび上がっていく。


曲がり角の陰で、俺は胸元のアミュレット――ミリスの念話器を起動した。


(……ミリス、聞こえるか)

(ええ、聞こえてるわ。……そちらの地下で、魔力の流れが少し乱れているのを感じる)


地上から、脳内にミリスの冷静な声が直接響く。


(仕入れ記録で消えた結線資材の型番とも合致しています)


リィネの念話も重なる。地上の二人がそれぞれの資料を照らし合わせ、現場の追跡結果を多角的に裏付けていく。


(……追うぞ)


俺たちは呼吸すら殺し、左の通路へと潜り込んだ。


歩みを進めていた、その時だった。


シィが不意にすっと右手を上げ、全員の動きを制した。

全員が壁際の深い暗がりへと瞬時に身を伏せる。


闇の先から、重い靴音がひとつ、こちらへ近づいてきた。


――ザッ……ザッ……。


灰色の服を着た小柄な男が、カンテラを低く掲げながら通り過ぎていく。壁に新しく敷かれた導線を軽く手で叩き、不備がないか確認すると、そのまま元の通路へと戻っていった。


男の背中が闇に消えるのを待って、ガルドが低く息を吐く。


「……巡回だな。作業員だけじゃなく、定期的に導線の様子を見回っている奴がいる。敵もちゃんと警戒網を敷いてるぞ」


警戒の目をかいくぐり、俺たちはさらに奥へと忍び寄る。


――カン。

――ギィ……。


金属を叩き込む音に混じり、重い資材を引きずる音が壁を伝って響き始める。

シィが冷たい石壁にそっと耳を寄せる。


「……近い」


角を曲がると、暗闇の先から仄暗い橙色の光が漏れていた。

壁に揺らめく不気味な人影。低い話し声。音と光と気配が、一歩ごとに現実の重みとなって迫ってくる。


俺たちは崩れかけた石柱の陰に身を潜め、広大な地下空洞を見下ろした。

魔導灯の光の下、灰色のローブを着た数人の工作員たちが、巨大な石柱の基部に金具を取り付け、導線を巻き直している。


レオンが大剣の柄に手をかけ、身を乗り出そうとした。

だが、ガルドが即座にその肩を低く押さえた。


「……まだだ」

「なんでだ? 奴ら、作業に夢中だぞ」

「作業員だけじゃない。あの立ち位置を見ろ」


ガルドが顎で空洞の一角を示した。


「作業員が定期的に首を振って周囲を警戒している。それだけじゃない……少し高い石段の上に、全体を見下ろしている奴がいる。あそこからなら、この空洞の全通路が視界に入る」


ガルドの指摘通り、一段高い崩落した石段の上に、頭から深くフードを被った人物が佇んでいた。

顔は暗がりで見えないが、低い声で指示を出す。


「……手を止めるな。予定通り、ノードの結線を急げ」


工作員たちが無言で作業を再開する。

その時、高所に立つ人物が胸元から小さな金属板を取り出した。


魔導灯の光を受け、漆黒の金属面に細い溝が幾重にも走っているのが見えた。その溝に沿って、微弱な魔力が淡い光となって流れている。


それを見た瞬間、俺の胸の奥で、ドクリと心臓が跳ねた。


(……え……?)


脳裏に消し去りたいはずの記憶――前世の自室で、ノートの15ページ目に描きなぐったスケッチが浮かび上がる。


(……似ている……。いや、まさか。俺のノートに描いた『魔力中継核』なんて、ただの妄想だったはずだ……!)


否定しようとすればするほど、冷たい汗が背中を伝っていく。

暗闇の深淵で、俺の胸に不気味な疑惑が再び深く突き刺さっていた。


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